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追放Side カムイ視点 Bad Day

 俺はカムイ。元Aランクパーティー「黄昏の獣王団」リーダーだ。

 酷い話もあったもんだ。たった一度の失敗でAランクからいきなりCにまで転落するなんて。

 これ商品で言ったら10000ジールだったものが100ジールにまで落ちてるってことだからね?

 どんな酷い価格暴落だよ。二段落ちなんてあり得ねえ。

 誰がどう聞いてもそれおかしいよと言ってくれるはずだ。


 しかもそんな屈辱を味わっただけに飽き足らず、このクソ店主は俺たちが金を払わなかったとかいってこんなしょっぱい酒場でタダ同然の過酷な労働を強いてやがる。

 狂ってる。狂ってやがるよこの世界。


 だいたい次またクエストクリアすりゃ金もたんまり舞い込んでくるってのに、本当年寄りは待つことができなくていけねえ。

 まあ今はパーティーメンバーも3人に逆戻りしちまったし、金を工面する方法もねぇから仕方なくこんなところで働いてるんだが……。


 ってところにこいつらだよ。

 迷惑客オブ迷惑客。

 こいつらは俺たちが4人目を募集してるときにやってきたクズどもだ。

 変態クソキモデブ、それとカマ野郎だ。

 もうひとりは誰かは知らないが、こいつらとつるんでる時点で同類だ。まともじゃねぇ。

 全く……追い払ったと思ったらこんなとこまで追いかけてきやがるとは……とんでもねぇ執念だな負け犬は。


 ちょっと前までの俺たちなら新加入として歓迎してやったかもしれないが、今はそんなこともするつもりはない。


 というのも――俺たちを破滅に追いやった悪魔のクエスト「古龍の洞窟」には超A級の俺たちでさえ悔しいがまともに太刀打ちできないほど理不尽な攻撃を仕掛けてくるやつがいて、最下層にすらたどり着けない状況にあるのだ。

 これも立派な不正なんだが、そのことを国王に告発したら逆ギレされて資格を剥奪されたってわけ。

 腹立つから今度はクッソ強いメンバーかき集めていつも通りのパフォーマンスを発揮したのち、魔神とやらの生首を持って帰ってあいつらを平伏させる。

 これが当面の俺たちの目標だ。

 よってこの俺たちより大幅に劣るであろうAの端くれの端くれの端くれの域を出ない雑魚どもに用はない。

 用もないし未練もない。失せろ亡霊ども。


「はいはいはいはい。じゃあ出てってもらうねお客さん」


「あら?ワタシ達ちゃーんとお金払ってお酒飲んでるんだけど?それともこの店はお金を払ったお客に対してこんな酷い仕打ちをするのかしら?」


 チラリとカマ野郎が店主の顔を見つめた。

 店主の奴は多焦りでへこへこ頭を下げた。


「い、いえとんでもない。滅相もございません。おいお前ら!ちゃんと丁重にもてなせ!」


「は、はい……」


 くそッ。くそッくそッ。くそッ!!

 なんで俺がこんなカスどもに頭下げなきゃなんないんだ。

 最初こんなところで働くと決まった時は、正論でまくしたてて言い返してやろうと思ってたんだが、店主の奴が「払わないならいいよ。憲兵さんに突き出すだけだから」と脅しを使ってきやがったから渋々仕方なくやるハメになってんだ。


 元Aランクパーティーだぞ?

 かつてはお前らも俺たちをみたらへーこら頭を下げて、偉業達成のたびに絶賛の声を上げて道を開けたというのに。

 今はCだからってこの人を人とも思わない舐め腐ったような態度……。

 ランクで人を差別するなんて最低だな。

 Aランクに返り咲いたら絶対こいつらゴミどもに発言権なんか与えねぇ。

 今は耐えるしかねぇ……!

 どうせここで俺たちが何か言っても「所詮ランクCの戯言」とか扱われてまたあの無能国王の時みたいに取り押さえられちまう。

 状況が悪くなるのだけは避けなくてはならない。


 理不尽な行為に対する報復はいずれ時が来たらにしよう。

 ふふ。さすが俺賢い。


「で、でも店長ぉ〜あのブタさっきからアタシたち女の子にセクハラしてくるんですよぉ〜?なんとかしてくださいよ〜」


「じゃきみなにか触られたのか?」


「い、いやそれは……」


「多少の戯言くらいねキミ。軽く受け流せるようにならないとダメだよ?僕なんか酒瓶で頭かち割られたこともあるんだから。いちいちお客さんに対して理不尽だとかムカつくとか言ってたら商売なんてやってられないから」


 店主のあまりにもクソすぎる発言に当然ソアラは「はぁああ!?」と怒りの声を上げていたが、ここはなんとか我慢だ。

 俺がソアラ達を後ろに送り、接客することにした。


「大丈夫だ。俺がお前らをあんな薄汚い豚どもに汚させるわけないだろ。お前ら女組は裏で皿でも洗ってろ。給仕とか店番とか全部俺がやっとくから」


「やぁん素敵ぃいい♡ムラムラするぅ」


「それではお言葉に甘えて……♡」


 これで俺の女性陣が変態の衆目に晒されることはなくなった。

 害悪クソデブも女が消えた途端、しなしなと勢いを無くして席に戻っていった。

 こいつよくこれで冒険者登録なんて出来たな。

 挙動が完全に性犯罪者のそれじゃねぇか。

 気持ち悪ぃんだよなぁ……男と女であからさまに態度変えやがって。

 んなきっしょいことばっかやってっからお前は一生独り身で滅ぶしかできねーんだよ豚。何でそれに気付かねえ。サイコパスなのか?


「全くよねぇ……性別によって人を差別する人間なんてサイテーよ!……ねぇ。カムイちゃんはとってもステキなお尻してるみたいだけど……」


「ひゃえ!!」


 カマ野郎マーブルが偽りのおっぱいを揺らしながら俺の臀部に手をかけてきやがった。

 あまりにも滑らかなその手つきに感じたことのない恐怖が生毛を逆立てる。


 セクハラが性別問わずに襲ってくるとか地獄か?この環境。


「ねぇ良いでしょ〜アタシと遊びましょうよ〜ひっく」


「お、おいあんま近寄るんじゃねぇ」


「何だキミお客さんに対してその口の利き方は!」


 ブチギレあたおか店主からのご指導が入ってしまった。

 うるせぇなクソデブ2号。お前もそんなとこで突っ立って俺の一挙手一投に難癖つけてる暇があったら働けボケ。


「え、えー……あまり近寄らないでいただけますでしょうかお客様……」


「あら。あの時はあんなに目の色を輝かせてアタシを見てくれたってのに……」


 そりゃあの時はお前が女だと完全に思い込んでいたからな。

 時空転移できたら今すぐあの時の自分をぶん殴りたい。

 見るとそいつは酔ってるからか、ズボンに一升瓶でも突っ込んでるんじゃねえかってくらい自己主張を激しく続けて俺の方にぬるぬると近寄ってきやがった。


 おいこの狂った世界、常識人はいないのか??


「もうその辺にしておけマーブル。嫌がる相手の尻を無理やりどうこうするなどよくない」


 立ち上がったそいつは自分の尻を意味ありげに押さえながらカマ野郎を止めてくれた。

 俺にはそいつがこの腐り切った世界において救世主のように見えた。


「なぁによぉどーせアタシはオカマですよーだ!ひっく」


「もう飲み過ぎてるみたいだな……俺も初飲酒でなんだか足取りがふらつく……ここらで失礼するとしよう。邪魔したな店員」


「い、いえこちらこそ……二度とご来店ならさないよう願っており」


「んんっ!!」


「えー……またのご来店おまちしておりまーす♡」


「それで良い」


 この野郎。何が良いんだよ何が!

 こんな奴らもう二度と会いたくねーわ。

 さっさと消えろ。早急に消えろ。今すぐ消えろ。


 救世主がオカマとデブを連れて店から出る直前、なにやら苦しそうに胸の辺りを押さえているのが見えた。


「お、おい大丈夫かあんた――」


「う……き、きもち悪うぼろげじゃあああああっ」


「のわあああっ!!てめぇなんてことしてくれやがる!!」


 救世主と思われたそいつは近寄った俺に対して吐瀉物の投下による攻撃を仕掛けてきた。辺り一面そいつの吐き出した汚物まみれになってしまった。


 さ、最悪だ……!最悪だぜこの日は!!

 こんな屈辱を受けたのは初めてだ!

 ぜってぇ許さねえ……覚悟しろゴミども!!

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