その頃こんな奴らはというと。 〜勇者とオカマと百貫デブと。〜
「ま、全く……エライ目にあったぞ……なんだあのギルドは……!人の尻に平気でわけわからんぶっといモノをぶち込むわ、俺様を勇者と知ってもあの尊大な無礼……リュリールはやはりだめだな!」
ぶつくさ怒りと不満を撒き散らしながら歩いていたのは自称稀代の勇者、アルフレッドだった。
彼はリュリールのギルドに捕まって尻に改造手術を施されそうになった時、中にいた1人の科学者によって「ここから逃げろ!」と言われて命からがらの逃走に成功した。が、尻に焼けるような傷を負ったのは余りにも大きな代償ではあった。
やけになってその辺で飲み明かそうと練り歩いているところに、地面を悔しそうに叩き散らしている銀髪の人間がいた。
隣にはクマのように大きくてぶよぶよとした肉体の巨漢が立たされていた。
「あぁんもうこんなのってある!?ワタシっていっつもオカマだなんだって正体がバレて追い出されちゃうのよ?!オカマがなによー!お米がなによー!!亜人を認めるなら新人類も認めろー!」
「あ、あのぅ……も、もう帰っていいでふか……?」
「良いわけないでしょ!?誰がオカマよ!!ワタシはマーブルよ!!これでも身体は女よ!!」
「ひ、ひいいっ!」
「なんだあれは……凡人どもの考えはわからん。こういうのは関わらないのが身のためだな」
くるりと踵を返して酒場を探していると背後から突然気配を感じたので、アルフレッドはぱっと振り返って剣を取った。
「何者だ!!」
「あら……良い身のこなしね坊や」
「坊やではない。俺様は光の勇者アルフレッド様だ。覚えておきやがれ凡人ども」
「可愛いわね坊や。ワタシはマーブル。こっちのぽっちゃりくんはルード。ねぇ聞いてよワタシたちAランクでスカウトまでされたのにパーティー入隊できなかったのよぉ〜!!悔しいでしょ?」
「そうか。それは愚かで無様だったなとしか言いようが無いな」
ではこれで。と帰ろうとする彼の足にしがみつき、マーブルは彼を地獄の底に引きずり込もうとしていた。
「な、何をする!は、離せ汚らわしい!!高貴なる勇者様の足を貴様ら如き脆弱で貧弱な凡人が気安く触れて良いものだと思っているのか!この恥知らず!」
「うるさいわね!勇者ってんなら可哀想なワタシたちに付き合うくらいの慈悲は見せなさいよ!」
「なんか同じようなこと前にも憎たらしい女に言われたな……」
「そうでしょ。アタシも所属しようとした先に憎たらしい女がいてね……その子にバラされたのよ?アタシが男だって」
「何?お前そんな乳をしていて本当は男なのか?きもちわ――」
「え?いま気持ち悪いって言おうとした?してないわよね?そうよね?勇者様が差別なんかするわけないわよねー!そうよねー!!ね?そうでしょ?ほらそうだと言え」
「……はい……」
ドスの効いた低い声を聞かされ、怯えた勇者はすっかり生まれたての子羊のように大人しくなってしまった。
かくしてオカマ、自称勇者、百貫デブの3名は酒場「フランチェスカ」に入店していった。
「いらっしゃい」
そこは髭面でやや小太りの店主が切り盛りする有名な酒場だった。
美味い飯に美味い酒が豊富に揃っているため、冒険者たちが祝いの席や何かにつけて訪れることが多い酒場だ。
左端の小さめな3人席に腰掛け、マーブルは店主を読んで注文をした。
「おじさま。ここにあるやつで無茶苦茶つよーいお酒を3人分!」
「かしこまりました」
「お、おい……俺様はまだ未成ね」
「なによ。そんなの別にどうでもいいじゃない!アタシの酒が飲めないっていうの?!」
「ひっ……なんでもないです」
「ままぁ仕方ないよ……ふひっ」
すっかりマーブルは貫禄のある親分的なポジションに収まっていた。
哀れな勇者は完全に怯んでしまい、いつもの勇者節は鳴りを潜めてしまっていた。
「性別が……何だっていうのかしらね」
樽のテーブルに頬を寄せてマーブルはため息をついた。
「僕は女性大好きぶひよ」
「きんもちわりーな……その顔でよくそんな言葉が言えるなおい」
「顔なんてどーだっていいじゃないのー!顔は変えられるけど性別はどうにもなんないものねー!」
「……そんなら切り落とせばいいんじゃないか?」
「いやよそんなの!!そしたら男と遊べないし、第一痛そうで嫌!!」
「……お前、生えたまま男と遊んでるのかよ……!」
「あら……もしかしてアルフちゃんもこっちの世界に興味あったりする?うふふ良いわよ。お姉さんがじっくり調教してあげるわよ」
「気色の悪いことを言うな。俺はたとえお前が女でも相手にする気などないわ。俺の遺伝子を受け取れるのは崇高な聖女ただひとり――そう例えるなら」
「お待たせいたしました。こちらがご注意の最強カクテル――ワイン・ド・ロックとメタルブラスト、それからハートブレイクの三点セットにございます」
「例えるならこんな聡明で美人な清楚系僧侶聖女だな。……ってお前らどうした?」
その場で顔を見合わせた一同は、アルフレッドを除いて全員固まってしまった。
何せ彼らをスカウトした張本人というのが、目の前でバニー服に包まれ給仕を勤めているルーナなのだから。
3人の間に異様な空気が漂った。
「おいどうしたオカ……マーブルとやら。飲むんじゃなかったのか?ほれほれさっさと飲め」
「え、……ええ。そうねそうしましょう。他人の空似ということも世の中にはあるからね……いくら似てるからって言ってもどどど動揺なんてしたらだだだだめよね」
「お酒こぼれてるぞ」
満タンだったジョッキの中身が既に半分になるほどマーブルは手を震わせて激しく動揺していた。
一方でルードの方は鼻息を荒げ、ルーナの方を舐めるように見回していた。
「ぐへ……えへへ……バニーたんのコスプレ……その網タイツから覗き見える生足……控えめだけど主張しているおっぱい……チラ見えのおへそ……ゴミクズを見るようなその目……いいよ……へへへ」
「やめてください。セクハラで訴えますよ」
「い、いいじゃあないか……ぼ、僕はお客さんだよぉ……ちょっとくらいさ、触らせてもらっても……」
「おいおいなんだなんだどうしたルーナ。また迷惑客でも居…………」
さらに奥から飛び出してきた金髪の青年は、ルーナの時と同じように2人を視認するとピタッと固まった。
「な、なんでお前らが……!」
「ん?なんだマーブル。こいつらと知り合いなのか?」
「あ、あ、あ、あんたーっ!!よくもワタシをオカマと罵って追い出してくれたわねーっ!なにがふたなりはNGよ!」
「わあああっ!やめろやめろ!こっちに来るなぁ!」
「もーどしたのよカムイ様……!?っていやーっ!あの時のキモデブじゃない!こっちによらないで!同じ空間で息しないで!」
「こ、こうしてまた会えたのも運命の出会いだね……ぼ、僕は覚えてたよソアラたん……」
「誰か助けてー!変態デブに犯されるー!!」
「…………なんなんだこいつらは……」
呆れた勇者は阿鼻叫喚の酒場の中、ただひとり酒を煽っていた。
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