ケーキを作りましょう(提案)
「まずお肉は食べやすいように切り分けよう」
再生でキッチンと器具をなんとか治して、新しい肉を包丁で切り進めていく。
「次にお肉を火にくべていくよ。この時最初は弱火くらいの温度でじっくり温めるのがポイントかな。色が変わってきたらひっくりかえして焼くよ。生のままじゃ食べられないからね」
「ふむふむ」
炎魔法で火をつけてフライパンを乗せてお肉を焼く。
じわじわと色が変わっていき、頃合いになったところでお皿に取り分けていく。
「あとはソースだね。まぁそんなに難しく考えず玉ねぎとか色々混ぜ合わせて作ろう」
「これとか使えるか?」
魔王様が取り出してきたのは真っ赤でトゲトゲした爆弾果実――ボンバー・バンだ。
一欠片でもとても刺激的な風味がすることで有名な果実だが……。
本当なんでもあるんだなここ。
「そうだね……それじゃさっかくジャークが持ってきてくれたし、少しだけまぶしてみるか」
赤い果実の表皮を洗って千切り、一部分をすりつぶしてソースに混ぜてみた。
みるみるうちに赤混じりの色に早変わり。
ソースは基本となる材料をひたすら原型がなくなるまで混ぜていけば大体できる。
良い感じにトロトロしてきたぞ。うん。
お肉が冷める前にソースをかけていき……できた!
「おまちどうさま〜まずはレイドボアのステーキだよ」
「うわあああっ。美味しそうです!」
「くっ……もう待ちきれないぞ!いただいてもいいか?」
「うん。みんなでいただきますを済ませてからね」
「よーし。じゃあみんな用意はいいか?」
リーネさんの号令の元「いただきます」が一斉に告げられた。
みんなそれぞれ美味しそうにステーキ肉を食べていき、満足そうな顔をしていた。
「美味!!ロシュア君、きみ冒険者より料理人になったらどうだい?一家に一台欲しいよ」
「そ、それはどうも……」
ガーベラさんから喜んでいいのかどうなのかわからないお褒めの言葉をいただいた。
過去にもこれカムイたちに言われたことがあったが、あの時とはニュアンスが違うので悲しくもない。むしろ嬉しい……かも。
「でも本当に美味しいわよロシュアくん。キミのお尻も美味しそうなのにね〜!!」
「ひっ!」
ダリアさんだけはマトモだと信じてたのに既に彼女の顔は真っ赤になっており、こちらをみつめて「ふふふ……♡」とか不気味に笑ってた。
何が何でもダリアさんの近くで寝ることは避けよう。
お尻が何個あっても足りない。
そして元魔王のジャークは不思議そうにできた料理を眺めていた。
「食べてみなよ」
「うん……じゃあ」
鋭い牙を丸出しにしてジャークは肉を口の中に運んだ。
それまでほぼ無表情だった彼女の顔が大きく変化し、口元を抑えてバタバタしていた。
あれ……もしかして美味しくなかったか?
参ったな〜魔王風の味付けなんて知らないぞ……。
人肉とか言い出さないよな?
「お……美味しい!!ここんなもの城にいた頃も食ったことない!」
「よかった〜」
城にいて統治してた時は何を食べていたのか大変気になるところではあるが、僕の料理はどうやら現代に蘇った魔王様のお口にも合ったようである。
「でもロシュア君にばっか作らせてたらいけないわ。みんなで協力してディナーを追加しましょう!」
「はいっ!私腕を振るってご馳走しちゃいますよ!」
ま、まずい!
ターシャさんが料理すると色々アウトだ!!
「い、いやいいよ!別に気にしないから!」
「まあまあ主役は座ってるんだ」
リーネさんに強引に椅子に座らされ、我がパーティヒロインズたちが厨房に向かっていった。
「今度は私たちがロシュア様にとびっきりの料理を披露しますからっ!楽しみにしててください」
「あ、はい……」
乾いた笑いしかできなかった。
だ、大丈夫だよな。ひとりにさせなきゃ誰かが軌道修正してくれるよな。信じてるぞ。
「あ!なんかこれ分量間違えた?」
「どれ……うん。これくらいは誤差の範囲内だろ0があるかないか程度なんてほんの些細な違いに過ぎん」
「よかった〜。こんなので失敗してたらもたないもんね」
《どのくらい火をかければよいのじゃ?》
「んーなんとなく?色変わればいいかも?」
「ボクこれを入れてみたいんだけどいいかな?」
「いいんじゃない?じゃあこれも入れてみようよ」
「ちょっと待て。これもいいんじゃないか?紫色だし!」
聞けば聞くほど不安にしかならないおぞましい会話が行われていたが、本当に大丈夫なんだろうか。
やがて暗黒のベールに包まれていた少女たちの料理が明らかになった。
「お・ま・た・せ〜♡みんなで作ったロシュア様への愛情たっぷりケーキでーす!」
「へぇ。なかなかよくできてるじゃない」
よかった。てっきり真っ黒暗黒物質がまた出来上がるのかと思ったよ。
不安になる会話内容だったけど、ちゃんと誰かが手綱を握って行く末をコントロールしてくれたみたいだ。
「えっ?私はローストチキンを作ってると思ってたんだが……」
「えっ?」
《ん?妾はびーふすとろがのふというのを作ってたぞ》
「ボクはこれ……」
魔王様が出してきた本に書いてあったのは「超簡単!ポテトサラダ」の記事だった。
……いや!!!
なんか一気に食べるの怖くなったんだけど!!
一体全体みんな何を作ったんだ!!
そして何をどう間違ったらバラバラのメニューがケーキに集約される形になったんだ!
というか、なんとなく違う感じに進んでいったら気付こう!?
「いやーそれがな。まぁ初めてということもあって、多少形が違ってもあまりやいのやいの言うのは良くないと思い……な」
《うむ。ま料理は愛情じゃ愛情!見た目など瑣末な問題じゃ!》
「ボクここの葉っぱ乗せたんだぞ」
「そうですよ。みんなの愛情がこもってるので味の保証はばっちりです!」
突き立てられた親指に未来が恐ろしくて仕方なかったが、とりあえず推定ケーキである生クリームの物体にスプーンを通してみた。
そして決意と覚悟を持って口の中に入れた――!
「美味しい!美味しいよこれ!」
「よかったああ!」
「最高の料理人であるリーダーに褒められるなんて……これはもう感無量だな!」
《やはり妾は天才……》
「いっぱい食べてね」
いやこれ意外といけるぞ。
甘いんだけどほどよくしょっぱくて美味しいし。
これは新食感では!?
いけるよ。既存のケーキに飽きてる人や新しい刺激が欲しい人にはぴったりだ。
思わず美味しくてみんなで作ったケーキを完食してしまった。
みんなにお礼を言ってその日は盛大に宴を楽しんだ。
翌日僕は腹の調子がおかしくなり、しばらく便所から出られなくなった……。
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