VS魔王⑤ 決着
「死に損ないどもが……!まとめて凪いてくれるわ」
「魔王と戦えるなんて光栄だな!一族として誇りに思うぞ」
魔王のめちゃくちゃ早い連撃にもその人間離れした感覚で機敏にかわし、反撃を当てていた。
第二形態とは異なり触手の防御力はかなり低く、魔法も刀も通らないなんて恐ろしい羽目にはならずに済んだ。
しかしそれを補って余りある再生速度と攻撃スピード、そして手数が最終形態にはあった。
なんとか善戦していた彼女だったが、8本だったものからさらに枝分かれした触手によって形成は一気に傾いた。
「ぐわっ!!」
リーネさん……!
なんとしてでも僕が封印を……!
しかし隙がまだ無い。
一撃一撃が災害クラスの破壊力を秘めているというのに、この上魔法まで使うのだ手に余る。
「ふっ……面白いものを見せてやろう」
今や幾重にも分裂した触手の先からそれぞれ青白い光を放っていた。
「……?なんだ?」
「【氷結魔法】【氷結魔法】【氷結魔法】【氷結魔法】【氷結魔法】……」
触手一本一本にそれぞれ【氷結魔法】が設定されていく。
ま、まさか……あれを全て展開できるというのか。
そんなことになれば大陸全土が凍りついてしまう。
時代は一気に氷河期に逆戻りだ。
「ひとつひとつ発動しても良いが――こっちのほうがもっといいだろう」
魔王はおもちゃのように魔法をこねこねと練り上げ、全ての触手にあった魔法を一つに重ね合わせた。
「完成だ……【究極氷結魔法】」
「な……!」
《あいつめ!!》
魔王の手から放たれたオメガアイスが一瞬のうちに世界を氷に変えていく。
一気に体温が奪われていくのを感じる。
近寄るなんてとんでもない。
凍りついていく魔王の半身が、やけに美しく不気味に見えた。
もはや全てが終わりに見えたが、あの凄まじい絶対零度のブリザードを受けても、身体はまだ動いた。
更に大陸もどうやら僕達のいる範囲だけ凍りついているようだった。
《く……な、中々に面倒なことをしてくれたな……ド・ヴォル……!》
「サラ!!まさかきみが……」
《ふっ。案ずるなご主人様よ。妾は炎の精霊ぞ?瞬間的に炎の結界を主らと大地に張り巡らせて魔王の氷結魔法を防ぐことなどぞ、造作もないわ》
そう言うが、彼女の肉体はさっきの大技を一手に引き受けたかのように凍りついており、炎も消えかかっていた。
まさに命を削る結界術だったのだろう。
サラは風前の灯火状態になってよろめいていた。
「そんな真似ができるのは神の腰巾着であるお前くらいだろうなサラマンダー。だが無意味だ。何故ならこれは連発できる」
お、おいおいまじかよ……。
せっかくサラが命をかけてここまで被害を食い止めてくれたってのに……まだ撃てるってのかよ。
反魔法空間をこっちも展開できれば防げるかもしれないが……それはこちらの首を絞める行為にもなる。
だがどうやってこの最悪の事態を防ぐ……。
「でやあああっ!!」
全力で切りかかったのはリーネさんだった。
彼女はオメガアイスが降り注ぐ前にメインとなる触手に切りかかった。
「愚かな」
「ぐっ!」
リーネさんは一瞬のうちに氷漬けにされてしまい、氷塊となって地面に落ちた。
「誰にも私を止めることはできない……さぁ続きを始めようか」
「そん……なことさせません!」
ターシャさんが前に乗り出し、炎魔法を発動しようと構えた。
「む、無茶だ!モードチェンジもしてないのに!」
「でも私がやらないといけないんです!!止められなくてもいい!一瞬でも相手を止めることができれば……!」
彼女の覚悟と決意が奇跡を起こしたのか、本来なら通常時では使えないはずの炎魔法を放っていた。
巨大な火炎玉が魔王のオメガアイスに向かって突進したが、規模の違いから相殺は敵わず、一瞬で炎は消え去ってしまった。
「……無駄な努力だったね。そんなもので私の一撃を止められると思ったのかい?不愉快だよ」
冷酷な怒りに満ちた表情で魔王はターシャさんを睨みつけていた。
残る全員をまとめて氷柱にしようと今まさに魔王による冷凍光線が放たれようとしていた――
「今だ魔王!!これを喰らえ!!」
僕は封印の壺を開き、魔王に向かって突き立てた。
「あっ……あああああっ!!あああああーっ!!!いやぁああああっ!!ああああっ!あああっ!!」
「な、なんだ魔王のやつ……うるさっ!」
「突然狂ったように叫び始めたな……いやうるさ!」
《ふむ……どうやらあいつにとってのトラウマを刺激してしまったようだな……ええいうるさいのう!》
窓ガラスがあれば全部割れてしまってあるくらい大きい悲鳴を上げ、それまでのキャラを全て壊す勢いでガクガクと震えていた。
…………いや。まだ封印の壺見せただけなんスけど……。
「もうやだぁあああああんっ!ねっもう無理無理無理いやぁんもうやだああっ!!」
やがて魔王は徐々に小さくなってゆき、ちょこんと元の第1形態にまで戻って地面に蹲ってしまった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「どんだけトラウマだったんだ……」
《無理もあるまい。封印の感覚というのは慣れんものだぞ。意識だけはあるんだが、どうすることもできないのだ。寝てるようで起きているような。外の景色も見れるが、当然封印されておるので変わることがない。永遠とも思える地獄を、変わり映えのしない日々をずーっと独りで過ごすのじゃからな》
一万年も眠っていたサラが言うとめちゃくちゃ説得力がある。
なるほど。それは気が狂ってもおかしくはないな。
僕は真っ直ぐと、絶賛土下座中の魔王の元に歩み寄った。
《おいご主人様》
「悪いみんな。この件僕に預けてはくれないか」
虫の良いお願いだとはわかってる。
けど、何もこんなにも怖い思いを2回も味合わせなくてもいいじゃないか。
だからこれは提案だ。
「うう……ごべんばざい……」
いや泣きすぎて顔ぐっちゃぐちゃだし、鼻声で何言ってるかわかんないし。
「なぁ魔王……ジャークさん?だっけ」
「生まれてきてごめんなさい……ううう」
「どんだけ卑屈になってんすか。顔あげてほら」
「うう……な、なんでしょうか」
「これからもう悪いことしないように、今からキミの力だけを封印する。だからキミは自由に生きられる。でももしまた悪いことしようとしたら、今度はお情けなしで完全に封印する。多分そしたら二度と外には出られない。それでいいかな?」
「え……?そ、そんないいの?」
「その代わり悪いことしたり、考えようとしたらダメだからね。みんなもそれでいいかな?」
「全くキミってやつはお人好しが過ぎるぞ……」
「流石ロシュア様!」
《……仕方あるまい。じゃが、魔王の一撃から世界を救ったのはこの妾じゃぞ!そう記録書にもデカデカと書いておけ!!炎の精霊サラマンダー様、ここに見参とな!》
「ありがとうみんな」
なにも倒す必要なんてない。だが、封印だけはさせてもらう。
それが僕のつけなきゃいけないケジメだから。
孤独にならなくてもいいように、次はちゃんと生きてみせるんだ。
「うう……あ、ありがとう……」
まさか生きてて魔王様にお礼を言われる日が来るなんて。
さて。まず壺にちょっとだけ細工をして……。
「【複製】」
僕の魔法だけは使えるように壺の封印式を少しだけいじった。
そして壺を複数増やしておく。
何かあった時にみんなで壺を持っておけば魔王を封印できるだろうから。
全員に複製壺を配布して、改良を施した壺で魔王の力を吸収していく。
そもそも存在が封印できるのだから、力だけに絞り込むなんて朝飯前だ。逆ならきついけど。
封印の瞬間魔王は目を瞑った。
だが、怯える彼女の表情とは裏腹に、肉体はそのまま残っていた。成功だ。
「よし……これできみは自由の身だ」
あれほど恐ろしかった魔力も、もうほとんど感じない。
強大すぎて感じなかったというより、ごっそりこの壺の中に収まったという感じだ。
その事に驚いた魔王が飛び上がって喜んでいた。
「わーい!やったぁ!!ボクここにいる!自由だーっ!!」
「ちょーっと待った。あんたもギルドにきてもらうわよ」
ここまで観戦を決め込んでいたガーベラさんが小さくなった魔王の首根っこを掴んだ。
……よ、弱くなってもう脅威じゃないと知るや否や……!
「そうだね。じゃあみんなで帰ろうか」
街にも被害は出ていない。
このまま戻っても大丈夫だ。
「【転移魔法】――目的地、ギルド」
そして魔王含めた全員揃って僕達は帰還した。
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