VS魔王③
さてさて。その魔王様はどうなったかな。
究極とはいえたった三発程度で倒されるならまあ苦労はしないわな。
嫌な予感が的中するように奴は地面の底から身を乗り出してきた。
「ぐ……中々やるではないか。我の装甲にこれほどのダメージを与えたのはお前で2人目だ……!しかもまさかメテオまで真似してしまうとは……見事なり!」
「やっぱり生きてますよね〜」
しかし本当にダメージを受けていたようで、半身を大きく失っており、しかも再生もしていなかった。
あれほど硬かった肉体にも傷を与えられるなんて、究極魔法はとんでもないようだ。
だがあんなにも深手を負ってもなお余裕を崩していないのは、まだ隠された真の形態が存在しているという証左に他ならないだろう。
「こんなにも魂がたぎる戦いは久しく見ないぞ!!いと素晴らしき人間よ!とうとう我に真の力を解放させるか!」
そうして魔王は一段と力を溜めて世界のエネルギーを吸い尽くそうと黒い風を巻き起こしていた。
「見るがいい。これこそ我の最終進化系――魔王たる我の真の姿である!!ぬぅんっ!!」
やがてためにためたパワーを全開放し、それまであったゴツゴツとしていた無骨な肉体は綺麗さっぱりと剥がれ落ち、一変してすらっと痩せ細った美しい女性のような体型になった。
感知で測ってみるが、何も感じない。
「……私を探っているのか?人間よ。それは無駄です」
「……!!な、なんだこのとんでもない力は……!」
違う。感じなかったんじゃない。
あまりにも桁が違いすぎて僕が測られただけなんだ!
生物としての格が違う。
観測しきれない。初めから違和感があった。
これほどの力を隠している魔王が感知センサーに反応しないわけがない。
つまり第1形態の頃から人間には測れないほど規格外の強さだったのだ。
僕たちが観測できる魔瘴も、その一部に過ぎなかったのだ。
あり得ない。勝てるわけがない。
というか、これに敵う人類なんているのか……?
「随分と怯え切った様子だな人間。お前の考えていることを当ててやろうか。安心しろ。かつて私をこの姿にした人類は1人だけいた」
喋ってもいない僕の心中を完全に把握していた。
魔王様は「やつを人類と見るかは甚だ疑問が残るがな」と不敵な笑いを浮かべて注ぎ足していた。
次の瞬間ゆらりと音もなく僕の背後に現れた。
はっとなって振り返った時、頬に嫌に冷たい触手が触れた。魔王の手だ。
「さて……このまま心臓を貫けばお前は死ぬかな?」
ぬるり。
魔王の氷よりも冷たく、どこか暖かいような手が胸の辺りを蠢く。
「それともあいつみたいにピンピンしているかな」
「う、うわあああっ!!」
さっと手で払いのけると、くすくすと笑いながらあちこちに出現したり、分身を生み出したり楽しそうにしていた。
遊ばれているのだ。
無理もない。それだけ目の前の怪物と僕とでは実力に差がありすぎる。
メテオどころではない。
倒すことは不可能だ。殺される。
「どうした。さっきまでの威勢を見せてくれ。もっと私を楽しませてくれよ」
「は……ははは。流石に笑えないですよ。正直もう打つ手無しって感じです」
まだだ。今はその時ではない。
必ずこれを挽回する機会はやってくる。
それまではなんとかあいつから離れて対処するんだ。
「つれないことを言うな。さもないと私はお前を殺さなくてはならない。それはとても哀しいことだ」
魔王の美しい瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。
これまで散々人間の命を奪い取っておいて、随分勝手な物言いだことだ。
しかし彼女……一応女ということにしておこう。
それまで唯一無二の存在であった彼女にとって、自分と渡り合えるかもしれないと思った存在2人目なのだ。
対等になれる存在だと思うと心が無性にときめくのも無理はないのかもしれない。
世界を滅ぼすことができる魔王といえども孤独からは逃れられないのか。
ちょっと意外だな。
どれだけ瘴気を撒き散らして仲間を増やしても、人形を作り出しても、決して埋まることのない溝――満たされない欲望。
友達が欲しかったのかもしれない。
しかし、人間とは相容れない存在だからって封印までされた。
また孤独の世界に閉じ込められて、ずっと苦しんでたのかもしれない。
せめてその孤独を埋めてくれる相手がいてくれたなら――
「やめろ。人間の同情は受けない」
僕の心が見透かせる魔王様は不快そうな顔をして手を仰いだ。
瞬間凍てつく冷気が周囲を凍りつかせた。
まるで彼女の心に巣食う悲しみが表に現れてきたみたいだ。
「ど、どうすれば……!」
という時にダリアさんからの連絡がきた。こんな時に……!
『なんですかダリアさん。今ちょっと魔王と戦ってて手が離せないんですけど』
『そう魔王とね……って魔王!?どうなってんのよ!!あなたたちを向かわせた先ではメテオが降ったとか言われてるし、かと思えば別の地点からもメテオが観測されたとかいうし!そしたら地震まで起きちゃうし!もう何がなんだかわからないわよ!』
『落ち着いてください。それで要件ってなんですか?』
『ああそうそう!たった今魔王封印の壺が元に戻ったからね。手が空いてる子に渡そうと思ってガーベラをそっちに向かわせたの!』
『ガーベラさんが……わかりました!なんとか受け取って封印してみます!』
『気をつけて!!』
よし。これで状況は良くなるはずだ。
「なんだ……?思考が読み取れぬようだけど……今更何をしても無駄だよ。キミはあいつにはなれなかった。でもいいところまではいったね。うん褒めてあげるよ。でももう良いや。終わりにするね」
「終わらせられる訳にはいかないんですよこっちも!」
思考を読ませないようにちょっと脳内に細工をした。
隠密魔法の応用みたいなものかな。瞬間的に意識を切り離して、思考を空っぽにしてみた。
念話装置での会話を聞かれては元も子もない。
僕には策がある。なんとかそれまでに攻撃をかわしつつやり過ごそう。
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