追放side カムイの視点 そして後始末編
「全くお前らにはがっかりだ!!死傷者まで出した挙句、最下層にたどり着く事なく逃げ帰ってくる始末!!わしの顔に泥を塗りおって!!なにが『任せておいてくださいっす』だ!なにが『余裕っすよ』だ!!ふざけるのも大概にしろ!!」
バンバンと玉座をお叩きになり年甲斐もなく怒られておられるのは我らが国王――グラン・ジール王様だ。
彼は何世代に渡ってこの国をお治めになられた偉大な国王……の末裔だ。
ジールといえばこの国では金の名前にもなってるくらい、更には歴史の授業でも必修になるほど有名なお方だ。末裔だが。
その末裔ごときにこうも偉そうにされると流石にプライドが傷つくぜ。
「お、王様違うんですよこれはぐはぁ!!」
「貴様!王の御前だぞ!」
「無礼者め!下がっていろ!王のお話の最中だぞ!」
俺の隣にいた腰巾着くん1号2号があろうことか怪我で痛む俺の首と手に槍をかけてきやがった。
この野郎。今自分が何してるのかわかってんのか?
「ぎぎぎは、離しやがれ!!俺は今国王陛下に語りかけているんだぞ!」
「口を慎め無礼者」
「クエスト失敗の敗走者が陛下に口を利こうとは生意気な」
はいはいこれだから公務員は……。
融通の効かなさ頭の悪さマニュアル人間ナンバーワンですこと。
そーやって一生だれかの下でひっそりと生きてりゃいいじゃないですか。えーえー。
俺たちは違う。お前らみたいな待ってるだけの卑しいクソ犬と違って新しい伝説を作り出すものだ。
まずは誤解を解かなければ。
「構わぬ。好きなように喋らせろ」
「し、しかし……」
「おい聞こえなかったのか兵士ども。お前らの大好きな『国王様』は今なんて言った?ねえねえなんて言った?ん?『好きなように喋らせろ』って言ったよね?ね?ならその槍離してもらえないかな?んん?それとも君たち、命令に従えないのかな〜?」
「ちっ」
「ホントゴミクズみたいなやつだな……」
なんとでもいえマヌケども。
俺たちが生き証人として記録した映像を提出すればお前らなんか速攻で国外追放だ。
いや、この場で国王の交代さえあり得るかもしれないなー。
やべーどうしよう。カムイ国王のカムイ王国とかできちゃうかもな〜ふふふ。
「で、なんだというのだ黄昏の」
「はっ!国王様にご覧いただきたいものがございます。こちらです」
負傷した身体を押さえながらよろよろとルーナが割れたメガネをくいっとさせて映写器をもってきた。
「これにはある記録が残されております。どうかしかとその御目で真実のほどをご確認くださいますよう」
そこには俺が第8層でクリムゾンドラゴンにボコボコにされている時の場面が映し出されていた。
まあ今見直すと酷いが、間違いなく俺たちのやってきたことだった。
「これがどうした」
「こちらです。ほら魔法が発動できないような空間が龍によって展開されております。ここまで妙だと思いませんか?私たちはモンスターに襲われ、満身創痍に追い詰められた上にいつもの力を発揮することもできず、更には魔法まで無効にされてしまったのです。ここで気がつきませんでしょうか」
「何が言いたい」
「不正ですよ不正!ギルドの人間が国家を巻き込んでクエストに不正が行われているんですよ!!冒険者にクリアさせないために!!今思えば誰もクリアした事がないという情報自体ギルドがでっち上げたデタラメ……いや、このクリア不可能のダンジョンを提供して作り上げた偽りの出来事だったのです!!」
「なんじゃと!!」
ふふ。きいてるきいてる。
これであとは俺がどんっ!!てやればはい政権交代だ。
不正を暴かれ青ざめた国王の「もうダメだ……おしまいだぁ」からの正義のヒーローカムイ様による「へはははっ!ここがお前の死に場所だぁ!」がポーピーと炸裂し爆発エンド。
明日からはこの国はぼくのものになります本当にありがとうございました。
しかし国王は青ざめるどころか真っ赤になって怒りだし、俺に向かって指を向けてきた。
「この馬鹿者が!!自分たちの不始末をギルドの不正だと?国家を巻き込んでデタラメを作り出しているだと!?失敗を恥じるばかりか、ギルドのみならず国家まで愚弄するとは!!」
「い、いやそうでなくこの魔法が使えなくなったりとか色々ですね」
「それが龍の強さなのだ!!不正でもなんでもないわ!!貴様らの実力がこのダンジョンに達しておらんかったからじゃ!!現に前にこのクエストを受けたパーティーはきちんと最下層にまで到達したぞ!!」
「な、なにぃ!?う、嘘だそんな事ぉおおお!!」
「愚か者め……!もう許さんぞ……!貴様らは今日からランクCにまで降格処分とする!!そして以後一切わしの城を跨ぐことは許さん!!今すぐここから消えろ!!」
「ま、待ってください国王!これは罠だ!!誰かが俺たちを陥れるために仕組んだ巧妙かつ卑劣な罠です!!惑わされないでください!!」
「黙れ!国王様の話が聞こえなかったのか?」
「そうだ。貴様らは立ち入り禁止で降格処分だ!」
ちょ、ちょっと待ってくれ。
Aだったんだぞ!?
それがたった一回の失敗如きでし、C!?
Cっていえばその辺の雑魚じゃないか!!
なんで俺がそんな雑魚にまで落とさなきゃいけねぇ。
俺たちは――いやこいつらはともかく俺はA級の実力者だぞ。
「み認めねぇ……!絶対この不正、そして今の横暴を告発してやる……!どっちが間違っているかなんて火を見るより明らかなんだからな!!」
「好きにしろ――だがもう会うこともあるまい」
奴は失望したような顔つきで扉を閉め、俺たちは城から追い出された。
それまで持っていたAランク特権は全て失われ、どこにいっても俺たちには『クエストに失敗して国王に楯突いたCランクパーティー』という不名誉極まりない烙印が押されることになった。
な、なんでだ。
おかしい。たった一回だぞ?
しかも俺たちは『敗走』したわけではない。
あのドラゴンに無理やり洞窟を追い出され『強制離脱』をさせられただけだ。
そこんところを勝手に自分で食い違って解釈して、勝手にキレ散らかしているだけなのだ。
あんな国王が治める国の未来なんて見えてる。
なのにどいつもこいつもバカどもは『王様ガー王様ガー』とバカの一つ覚えみたいに繰り返してへこへこしてる。
誰一人不正を訴えるものはいないのか??
全部国王の権力で握りつぶされてんじゃねぇのか??
最悪だ。全部全部最悪だ。
「ど、どうするんですかカムイ様」
「き、決まってんだろ……ま、まずは飲んで忘れんだよ。忘れて傷を癒したらもっかい再挑戦するんだ」
「で、ですが私たちまた3人になっちゃいましたけど……」
「バカだなルーナ。黙ってまた入ってからその例の魔神とやらの首を持ち帰りゃいいんだよ。そーすりゃあのアホ国王も流石に認めざるをえねぇだろ。これまでの非礼も含めてたっぷりとお返ししてやるのさ」
「流石カムイ様!そこまでお考えになっていたとは!」
「うちら転んでもタダでは起きないもんねー!」
「バーカ。転んですらいねぇよ。むしろこっから俺たちの大会進撃が始めるんだよ!いくぞおめーら!!」
「「おーっ!!」」
しかしこいつらは使い物にならねぇ。
なんとか別の、もっと強いSランクの冒険者を補充しねーと。
色々思うところはあるが、とりあえず俺たちは一日の疲れを忘れるために酒場に向かった。
「はいこれ借金だから」
「は?」
「今回のクエストでも払えなかったんだから、しばらく働いてもらうよ」
「はーっ!?!?」
最悪だ。全てにおいて裏目に出てやがる。
これにてカムイたちの視点は終わりです。
一応次回からロシュア視点にまた戻ります。




