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追放side カムイの視点 S級クエスト終幕編

「くそぅ……何がどうなってんだ全くよ……!!」


 ミシロは食われるし全員既に満身創痍だしでなんかもう色々最悪だ。

 最悪の展開だ。くそっ!

 なんでこんなに化け物ばっかりひしめいてんだよこのダンジョン。

 王様も王様だ。人様にクエスト頼んどいて自分は上から高みの見物決めてんだもんなぁ。

 全く誰のおかげでクエストクリアして国家が繁栄してると思ってんだクソボケジジイ。

 いっぺんその身でこの地獄を味わってみろってんだ。


「ね、ねぇどうすんの?もうアタシ帰れる分だけの魔力、残ってないんだけど」


「は、はぁ!?お前ふざけんなよ!あれだけ魔力は慎重に使えっていったろ!!」


「だってしょうがないじゃん!あんだけ最高の魔法ボカスカ使ってたらすぐ無くなっちゃうって!でも使わなきゃやられちゃうんだよ!?」


「くっ……くそ。いつもならここであのバカの回復薬とか補助魔法でなんとかなったんだがな……」


「いない人のことを考えていても仕方ないです。ここからは慎重重視でいきましょう良いですね」


「お、おい。お前が仕切るなルーナ」


 だがルーナにも一理ある。

 こーゆーチームがバラバラになりがちな時、いっつも頼れるブレーンだぜホント。

 危うくあいつの補助魔法がなければ何もできないやつに成り下がるところだった。

 本調子出てないだけなんだ。あと数の暴力な。

 これ地味にでかい。

 思えばこれまで俺たちはボスモンスターと一対一することはあっても複数対複数の戦闘経験はほとんどなかったんだ。

 おっとなかったからといって俺たちがひよっこというわけではない。

 ただ情報が少ないから不意を突かれた。ただそれだけだ。

 つまり本気出して尚且つ慎重に挑めばまたいつも通りになるぜ。


 そこからの道中はホントまさしく慎重オブ慎重を体現するような進行方法だった。

 エメラルドアノマロカリスとかルビーセンチピードといった怪物がごろごろひしめいてやがったが、なんとか見つからずまた見つかっても即時戦闘には突入せず、戦略的撤退を行って何度も危機を脱した。

 ほれみろ。普通にやればいけるじゃねぇかこんなダンジョン。

 な、なにが古龍の洞窟だ。偉そーなこと言いやがって。


 もう第8層まで来たぞ!?

 俺たち以外にやらせてみろよ。絶対第二層行く前にくたばるはずだから。

 ふっ……やはり俺たちは『選ばれし者』だった。

 むしろこのダンジョンのカラクリに気づいたからここまでこれたんだ。

 やっぱり馬鹿みたいにモンスターと闘いまくるのは二流。

 時には頭と機転を利かせて撤退するのも策略のうち。

 逃げているわけではない。タンクとかアイテム総量とか色々計算した上で撤退を選択しているだけだ。

 忘れてたぜ。今の今まで力押しのゴリ押しでいけるダンジョンばっかだったからな。


 こんな基礎的なこと見落とすやつの方が大半だぜ。

 そこに気づくとは……やはり俺は天才か……。


「よーしこの調子でズンズンいこうぜ」


「派手にやりますわ」


「う……うん」


 なんかソアラの息がえらい上がっているようだが、まだ半分過ぎたくらいだぞ。ったくこれだから女は。

 しかし魔法使いで人一倍感知能力に長けているソアラだからこそ真っ先に気が付いたのかもしれない。


 第8層の宝石地帯を乗り越えていくうち、俺たちは重苦しい空気に包まれてなんだか気分が悪くなってきた。


「うえっ……ぎもづわるい……なんだこりゃ」


「か、体全体が鉛のように重いですわ……ソアラ、大丈夫?」


 ソアラはもう返事をする気力さえ残っていない状態だった。

 呼吸を荒げ、出尽くした汗でからっからになっている。

 入る前の天真爛漫で元気はつらつな様子は見る影もなくなっていた。

 ったくなんなんだよこのダンジョンは!

 人様にクリアさせるっていう気はあんのかよ!!


「お、落ち着け……ともかくこの先にいけば大丈夫……大丈夫だから……」


 しかしそう事が単純に進むほどS級ダンジョン様ってやつは甘くないらしく、10層より下に降りる過程で巨大なドラゴンが階段を塞いでいるのがわかった。


 なんだあいつ邪魔だな。


「も、もしかしてあれがドラゴガイア……?」


「ば、ばか!こんな浅層に出張してくるわけねーだろ!あれは多分……ここを守るガーディアンかなにかだよ」


 深紅のドラゴンは俺たちの存在に気づくと目を覚ましてギロリとこちらを見つめた。


「ひっひいぃ!」


 ひと睨みされただけで全身の骨が凍りつくような感覚に襲われた。

 なんだあいつ。どう考えてもヤバすぎる。

 あんなモンスター、これまでのどのAランクダンジョンでも見たことない。


《……汝らに問おう。汝らは資格者であるか》


「し、資格者だと?」


 震える足をどうにか押さえながら俺はドラゴンの前に立っていた。


《ここから先に立ち入れるのは資格を有すものだけなり……汝にその資格はあるか》


「あ、あるに決まってんだろ俺たちはAランクパーティーだぞ!?」


《では我と戦ってそれを証明してみせろ!!》


 そうして俺たちは謎の真紅のドラゴン――ま、敢えて名付けるなら【クリムゾンドラゴン】といったところか。

 奴との戦闘が開始し、開幕俺が切り裂こうと剣で立ち向かった。


 がその瞬間、


 俺の持っていた剣は刀身からパキィと音を立てて砕け散った。

 そ、そんなバカな。絶対折れないと店主から念を押されていたこの英雄の剣が……!


《汝は弱い……!!》


 怒りに満ちたドラゴンによる突風が巻き起こり、俺は壁に勢いよく叩きつけられた。


「がっは!!」


 内臓が全部飛び出すくらい痛い痛い痛い――!!


「ばっ……は早くしやがれルーナ!!なにじでる!!どっとと俺を回復するんだよ!!」


「は、はいっ【上回復魔法】」


《させるか。展開――【反魔法空間】》


 奴が翼をはためかせると、周囲に青白い謎の円が広がっていき、ルーナの放った魔法陣が一瞬で消滅してしまった。


「お、おかしいですわ【上回復魔法】!【上回復魔法】!!」


《無駄だ。もう汝たちはこの空間で一切の魔法を使用する事ができない》


「な、なんですって!」


 そ、そんな狂ったシステムがあってたまるか。

 大体そんなの完全にイカサマじゃねーか。

 インチキだよインチキ!

 王都が国家ぐるみでこういうモンスターを育成させて難易度を操作してやがるんだ。

 そうだ。これは罠だ何もかも。

 まともに付き合うだけこっちの時間が無駄だ。


 なんとかしてこいつらの不正を暴いてやる。


「お、おい……魔道具があったろ。それでこの戦闘を記録しろ!」


「で、ですが――」


「いいがらさっさとしろ!!この不正を上に報告して俺たちの賠償金請求すんだよ!!」


 そうしてルーナは魔道具――映写器を発動させた。

 こいつは風景の一部をマナとして記憶させ、それを粒子状に集めて再現することができる優れものだ。

 言った言わないの不毛な議論解決に大きく貢献することになったこいつは、夫婦喧嘩や離婚調停、果てはストーカー被害など様々な場面で大活躍。


 さっ、とっととこんなバカみたいな戦闘から離脱するぞ。

 照明のためにもなんか色々魔法つかっとけ。


《……愚かな。汝たちは最早死にすら値せぬ!【大竜巻】!!》


「ぐわあああああっ!!」


 痛い。

 体の骨全部折れていってる感じだ。

 吐き気がする。目がチカチカと痛い。苦しい。

 風でもう何もかも見えない。

 なのに全身切り裂かれている感覚がする。


 何もかもがわからないうちに俺たちはダンジョン古龍の洞窟を追い出され、第8層から一転して洞窟の外まで転移させられた。


 そうして傷まみれの身体を負って、俺たちは王都の用意していた馬車に乗って帰還した……。



――――――――――


 以下はギルドによる冒険者のクエスト報告書である。


 対象ダンジョン:古龍の洞窟

 推定難易度:S(公式には不明)


 挑戦パーティー:黄昏の獣王団

 パーティーランク:A


 挑戦メンバー:リーダー・カムイ、ルーナ、ソアラ、ミシロ


 進行度:第8層


 討伐モンスター:なし

 負傷者:全員

 死者:1ミシロ


 クエスト結果は 失敗 となります。


 調査書記録者:ジェニス・アルバート


――――――――――

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