魔王様と楽しい楽しい追いかけっこ
迫り来る究極魔法メテオはゆっくりとだが徐々にその破滅の音を響かせて天空から舞い降りてくる。
ええといち、にぃ――全部で六つだ。
といっても隕石一個一個が家一軒には軽く匹敵するほど大きいのだけど。
さてさてご存知でない方のためにもここで究極魔法について軽く実践を交えながら説明しよう。
まず究極魔法とは、文字通り全ての魔法の中でも圧倒的に強く極めて危険な性質を持った世界を滅ぼしうる魔法のことだ。
【天災】、【終焉】、【深淵】、【虚無】そしてこの【隕石】が現在この世界で確認されている究極魔法に分類される魔法群だ。
それぞれ名前からわかる通りやばさ満載の凄まじい破壊力を持つ魔法だ。
これらは皆全て人間の扱うことを許されず、発案された古代より『禁術』などと呼ばれて封印されており、今では歴史書や神話の片隅にその存在をぼんやりと仄めかす程度でしかなかった。
もちろん使おうと思えば使えないこともないが、まずこれを扱うには大量の魔力、それから複数の魔法を一気に合成させ爆発させることができる魔法のセンス、さらに究極魔法を扱えるだけの知識がどれも高い次元で要求される。並の人間ではまず不可能だし、この究極魔法たちは唱えようとしただけで、国家総動員で憲兵や魔道士たちが派遣されて現場を取り押さえられるほどのものだ。一部でも一般書以上の専門的な情報を得ようとすれば即投獄場合によっては打ち首もあり得るほどだ。
つまり現代社会においてこれを扱おうとすること自体が人間には不可能。
よって目の前の魔王はいかに規格外の存在であるかが計り知れよう。
とりあえず僕は【風空魔法】の応用で足に風を纏って空を飛んでみる。そうだな【身体強化】と合わせてこの合成魔法を【飛行】とでも名付けようか。
もうどっかの誰かがやってるのかもしれないけど。
そして空を駆け巡り、地上に降り注がんとする隕石群たちをひとつひとつ破片を残さず破壊していこう。
まずはその威力からご説明していこう。
【魔法防御】をひたすら連発し、一番小さそうな隕石に向かって突撃する。
手で掴んで投げ飛ばそうとすれば瞬間――隕石は巨大な爆発を起こし、空の色は激しく点滅と変化を見せた。
「なっ、なんだ!?地震か!?花火か?!」
下の住民もこれに気付いて空を見上げていた。
「ね、ねぇみてよあれ!!もしかして【隕石】じゃない!?」
「な、なんだって!?それは本当かい?」
「く、くそー俺まだ家にローン残ってるのに死にたくねぇよ〜!早く国家騎士団や魔道士に連絡して助けに来てもらおうぜ!」
「そうね!そうしましょう!みんな避難して〜!!隕石が落ちてくるわよー!!」
街中もう大パニックだった。
落とすかよ……!
爆風にこそ巻き込まれたが、ちょっと黒焦げになっただけでダメージはなかった。
一つの爆風で連鎖的に爆破しないのはなんとも救いだったが、これでメテオの威力がいかに恐ろしいかよくお分かりになられたことだろう。
多分地面に激突すればクレーターが出来上がるほどの大爆発だったのだ。
一つでもこれなのにそれが六つもあるのだ。
天地崩壊待ったなし。まさしく超危険な禁断の究極魔法というわけだ。
こんなものが流通して賢者10人とか集めて国家間の戦争で用いられてみろ。
世界は破滅だ。それにこれを悪用する人物によって闇の統制が敷かれること間違いなしだ。
残る五つ、何としても落下前に止めなきゃ。
こうやって一つ一つ触っていけば着弾を逃れそうだが、それではもう間に合わない。
一つでも残してはいけない。
が、接触を図ればその瞬間にドカン。
着弾もさせず、かつ触れることなくこれらをまとめて時間内に処理する方法……。
「メテオごと転送させるっきゃない……!!」
ちょっと無茶は承知だったが、今はやってみるしかない。
通常転移魔法は自分と良くてその仲間たち数名くらいしか飛ばすことができない。
こんなにも大きな隕石を五つも僕ごと転移させるなんて無謀にも等しい。
だがそれを着弾させないほど高めの上空に転移させることならできるのではないだろうか。
転移魔法の成否は①転送者の人数、②転移先までの距離そして③発動者の残魔力によって決定する。
幸いまだまだ魔力がたんまり残っているのでとりあえず③はクリアしている。②の距離もちょっと上空に転送させるだけなのでまぁクリア。問題が①の規模だ。
だが二つもクリアしているのなら少し無茶すればいけるはず。
「【転移魔法】!!」
見据える先は遥か上空。
ぱっと魔法陣が僕たちを包み込み、どうにか複数のメテオごとちょっと上空まで飛ばすことに成功した。
下を見るとさっきより街が遠くなっている。
「成功だぁ〜!!」
よしあとはこいつらに体当たりなり何なりして一個一個起爆させていくか。
さっきより十分間に合うはず。
まずは一番大きな隕石に激突し、周囲にとてつもない大爆発がおきる。
が、地上には精々なにかの雲か星の一つにしか見えていまい。
メテオの破片も地上に届く前に回収し、すぐさま三つ目のメテオに突撃する。
爆風によってもう服がだいぶなくなりかけてきたが、まだまだいける。
四つ目、五つ目と攻略していき――とうとうラストのメテオに体当たりして無事全てのメテオの処理が完了する。
「ふぅ〜……なんとかなったぁ……」
地上への被害、確認されず。
衣服への被害、甚大。まぁ問題はない。
民間人の死傷者・犠牲者ともになし。流れ弾の形跡もなし。
とりあえず危機を脱したぞ。
地上に降り立ったその時、魔王様は顔を青ざめて黒焦げで半裸の僕を見つめていた。
「ばっ……化け物か……!!」
「人間だよ」
「嘘つけ!!そんな人間がいるかっ!!」
確かにメテオ六連戦は流石に骨が折れた。
途中でもし身体なくなったらどうしようかと思ってた。
魔法防御が優秀なおかげで本体の僕にはほとんどダメージが無い。やはり補助魔法は最強だ。
「お前は一体何者だ!!」
「僕はロシュア。ただの冒険者だよ。賢者でも勇者でも無いよ。だから話を聞いて欲しい」
「く、くっ……だったら尚のこと捕まるわけにはいかない!」
魔王様は転移魔法を使ってこの場を離脱しようとした。
「いけない!――」
すぐさま転送し消えかかる彼女の手を掴み、同じく【転移魔法】を使って相殺させた。
「ぎゃああああああっ!!な、なんでなんで!!何やってんの何やったの!!」
「えっ。いや普通に転移されたら困るから発動のタイミングに合わせてここに転移させる魔法を重ねて――」
「そそ、そういうことを聞いてるんじゃない!!ていうかここ普通なら『フハハ今日のところは見逃してやるぞ。ではさらばだ!』って場面じゃないの?!何掟破りな事してくれてるの!?」
そう言われましても。
はいそうですかと見逃されてしまったら大目玉を喰らうのはこっちの方なので。
「くっ、離せ離せ離せぇ!!」
「離すわけにはいかない……!!」
「な、なになにこの人すごい握力強いんですけど!!い、いやだあああっ!」
するりと魔王様は僕の手を抜けて脱兎の如き勢いで走り出した。
魔法で逃げても追いかけられると判断されたのか、純粋に己の足のみで逃走を図った。
「あっねぇ待って!!」
すぐさま【速度増加】の魔法を自分の足にかける。
遠くまで見えなくなっていた魔王様に一瞬で追いつき追い越す。
「うわああああああっ!!もう何なの!!何なのお前!!走っても魔法使っても追いつかれちゃうし!!もうやだよ!人間じゃねーよお前!!」
「と、とにかく話を聞いて!条件と交渉次第では捕まえなくていいようにするから!」
「騙されんぞ!!絶対騙されんぞ!!なんやかんや言いくるめて最後にはツボを見せつけてくるんだろ!?」
「そんな悪徳商法じゃあるまいし!!」
逃げるのを諦めた魔王は、いよいよ誰もいないだだっ広い荒野までやってきてそこで止まった。
というか僕も何気にすんげえ遠くまできてしまった。
もう街もみんなも見えなくなってしまったし。
「こうなったら……お前をここで我が全力をもって排除するとしよう……来るがいい人間よ」
「やっぱりこうなるのか……」
こうして魔王様はいよいよ全力を発揮して、僕に一対一の勝負を申し込んできた。
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