魔王ちゃん、降臨
「せ……世界をや、闇にて……」
う嘘だろ。だってどう見ても少女じゃないか。
たしかにだ。たしかにツノも生えてるし、肌もやや紫がかってる。髪の毛はくすんだ銀髪で長いし服装は紫紺のローブを着用しており、いかにも魔王(第1形態)といえば魔王な格好をしてはいるが……。
このファッションセンスは人間には理解し難いものがあるだろう。
胸にかけられた宝石とかどう細工したのかわからないほど妖しくも美しい作りをしているし。
しかしだね。良くてなんかそのベビーサタンだとか、リトルサキュバスとかそっち系を想像することはあっても、誰が魔王を連想させることがあろうか。
もっとこう筋骨隆々で悪ーい顔してて「グハハ」とか嗤う悪魔みたいなのを想像するだろう。
「グハハ。感謝するぞ人間」
急に取ってつけたようにキャラ付けして笑い出してきた。
凄んでるけど全然威厳ないですよ魔王様。
買い与えた地獄棒にすりすりと頬を寄せて(トゲついてます。普通なら痛いです)上機嫌に鼻歌を歌っておられた。
そもそも何故この子は感知に引っかからなかったのだろうか。
念のためもう一度サーチをかけてみたが、隣の少女からはやはり何も感じない。
これが意図的に隠しているんだとしたら大した魔王様だ。
しかし聞き間違いじゃない限り「ラ・デジャーク・ド・ヴォル」なんて噛みそうで長い魔王の名前を一文字一句違わず自分の子につける親なんていないだろう。名乗っている可能性もあるにはあるが……。
よし。とりあえず上機嫌なうちに今なんとかこちら側に懐柔しておこう。
「ね、ねぇ。キミ。ちょっと色々も聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「なんだ?ボクは今とっても気分が良いから答えてあげてもいいぞい」
蘇った魔王様(推定)はとても寛大なお方だった。
よし、質問攻めにしてその謎の生態を丸裸にしてくれよう。
「お家はどこなの?」
「闇の中。昔は城に住んでいたこともあった」
「家族の方は?」
「おらん。家臣は皆死んでしまった」
「ど、どこからきたのかな」
「根源的な質問なら闇そのものだ。狭義的なことならずっと向こうにある洞窟からだ。ひたすら歩いてきた」
……話を統合し照らし合わせれば合わせるほどこいつは封印から解かれた魔王であった。
こ、ここまで正確な情報が歴史書読んだくらいで完璧に真似ることができるだろうか。
魔王ごっこレベル100くらいじゃないか。
現に僕たちが禁断の地を散策しなければ、奥地に魔王の封印があったことはギルドでさえ知り得なかった情報なのだ。
文献には『魔王が封印された』としか記述がなされておらず、どこに、なにを封印したかなんてことは一切書かれてなかったのだ。
強敵ひしめく禁断の地を乗り越え、またツボにあった文字を解読したものだけがこの真実にたどり着くことができるのだ。
つまり目の前の幼女はただものではないか、封印の張本人であるかの二択だけなのだ。
よし。僕はもっとさらに核心を突くような質問を投げかけてみる。
「洞窟からっていうのは……はじめは洞窟の中にいたの?」
「それがな。どうにもずーっと閉じ込められていたようで頭が混乱しているんだ。なーんか前に誰かと戦った気もするんだが……。いきなり目を覚ましたら薄暗い洞窟の中で、それまでいたはずの家臣や仲間たちもおらず、仕方ないから家臣を増やすためにあれこれ片っ端から魔物に変えておったのだ」
「ま、魔物に変えたって……」
「あぁ。簡単簡単。こうするんだよほれ」
彼女は小さな手の先から得体の知れない紫色の煙を出し、右手に抱えていた【地獄棒】に流し込んだ。
すると無機物だったトゲまみれの棍棒は目と口を生やし、「ギェエエエ!」と耳を塞ぎたくなるほどの絶叫をあげて動き出した。
「ええええっ!?」
「こんな感じでな。まぁボクの与える魔力によってなったりならなかったりだったから色々苦労したんだよ。あとね洞窟にいた魔物に『ボクは魔王だ!仲間はどこにいる?』て聞いたら襲いかかってきやがったからムカついて灰にした。全く無礼だと思わないかい?ちょーっと眠ってる間にもうボクのこと綺麗さっぱり忘れちゃうなんてさ」
今のこれとそれで間違いなく疑惑は確信に変わった。
この子は魔王だ。僕たちがずっと探し求めていた。
出現予測地点からこの街はたしかに近いけどもだなぁ……。
まさかこんなところに、それも絶対いないと踏んでいたお店にてエンカウントするなんて……。
魔王を探せ大会なんてあったらクリア不可能の無理ゲーと化してたぞこれ。
魔王は生み出した地獄棒モンスターを必死で懐柔しようとしたが、彼は乱暴にも自らの主人に対して牙を剥き彼女を攻撃し始めた。
「くっ……だから元が無機物のやつを魔物にするのはイヤだったんだ!こんなふうに知性のかけらもなく暴れ出すだけだからな!まったく厄介だよ!」
「【停止凍結】」
かけられた棒のモンスターは動きを止め、そのまま凍りつくように固まって地面に落ちた。
朝の体力回復魔力フルチャージ状態の僕の魔法だ。
昨日と違って有り余っている。
「【封印魔法】」
そして暴れ馬の彼を封印して元通りの武器みたいに大人しく物言わぬ姿に変えて彼女に手渡した。
「はいどうぞ」
「お前……すごいな。なんだ今の早業は。そんなものボクが全盛期だった時代にもできるやつはいなかったぞ。……はっ!さ、さてはお前賢者だな!?」
「え賢者?」
「お、おのれ。ボクを封印しようと探りをいれてきたってわけか!い、イヤだイヤだ。もうあんな薄暗い闇の中に閉じ込められるのはごめんだーっ!!」
「ちょ、まって話を聞いて!僕はキミを捕まえにきたわけじゃないんだよ!」
いやまあ嘘だけど。
再封印しようと接近を図ったんだけども。
まだそれは明かしていない真実だ。少なくとも今は違うよ!
「そんなスゴイ魔法使えるやつを信じられるか!ボクが油断した隙になんか眠らせてまたツボとかに押し込む気だろっ!!絶対捕まってたまるか!!【究極魔法】――【隕石】!!」
魔王がそう唱えると天空から巨大な隕石が複数この街に向かって落ちてきた。
ま、ま、まマジですか!!
こんなのどうやって防げっていうんですか魔王様!!
ちょっと本気出し過ぎですけど!?
「や、やるしかない……!」
このままだと街はおろかこの辺一帯が跡形もなく平らになってしまう。
仲間や住民を守るためにも、ここはなんとしてでも僕が食い止めねば。
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