街にて。運命的な出会い
「ふわあぁ……おはよう」
「おはよう人間。あなた早起きなのね」
そりゃああの後風呂場で倒れた後、そのまま寝込んじゃいましたからね。
ちゃんと服は着せられていたみたいで安心した。
その辺ちゃんとリーネさんがリカバリーしてくれたのだろう多分。
朝一で目が覚めた僕はメグちゃんと一緒にみんなの朝ごはんを作ることにした。
最初は下準備してくれていた彼女だったが、僕が手際よく進めているとすっかり料理をやめてしまった。
「だって人に作らせて搾取するのが一番楽なんだもん」
「よく師匠に育ててもらえたね?!」
というか、おじいさんから何を学んだらこんなに黒い子が生まれるんだ。
どこか年相応に現代っ子というか、悪い意味での若者らしさを感じるメグちゃんだった。
朝は健康的にヨーグルトと黒パンハムサンドだ。あと牛乳。
我らがパーティー女性陣の中で一番乗りに食卓へ舞い込んできたのはサラだった。
睡眠時間はなんと3分もあれば十分だという。
そもそも寝る必要があるのかさえわからない精霊様だった。
食事も必要ないといえばないのだが、一応摂取した食物を魔力やエネルギーに変換することはできるので、彼女も一応――というか、積極的に食べようとしていた。
犬みたいにせかせかと竜のような尻尾を振ってはよ食べたいアピールをしていたが、まだ待たなければ。
全員が起きる前に食べてしまうのはよろしくない。
続いてリーネさん、最後にターシャさんが起きて全員が食卓に集結した時、僕は食事を許可した。
「いただきまーす」
「朝からロシュア様の手料理が食べられて、私は世界一の幸せ者ですわ〜」
「どれ。私は味にはうるさいグルメエルフだぞ。ちょっとやそっとのことでは美味しいとは……!こ、これはすごい。すごく美味しいぞ!!」
《主は即落ち尻軽女か。全く……んんんん!!なんたる美味じゃ!!こんなものお供物でも食べたことないぞ!!むしろこっちをお供えにして欲しいぞ!!》
「……本当だ。人間のくせにまあまあやるじゃん」
「い、いやぁ〜……それほどでもないですよ」
全員の口に合うかはわからなかったが、この反応ならこれで大丈夫だろう。
皆美味しそうに料理を食べ終えると、僕たちはいよいよ魔王散策のために出発した。
「気をつけてねー」
本を片手にメグちゃんはこちらを振り向きもせず気怠そうに手を振った。
まずは分かれて探してみよう。
僕がこの街の中を、リーネさんが出現予測ポイント、ターシャさんがその境目と近辺。サラが空中からこの地付近を。
「よしわかったよ」
《うむ。心得たぞ》
「ほんとは私もロシュア様と一緒が良かったのですが……ちょっとの間だけです!私必ず手がかりを探してみせますね!」
かくして4人それぞれがバラバラになって各々が活動を開始した。
さてと……僕はどこから探すかな……。
薄暗いところから順番に探して行くか?
サーチで調べてみたら、どこにも瘴気と思われる気配や強い殺気はなかった。
ここにはいないと見るのが正解か、いやいや――安直に決めつけるのはよくない。
僕たちが存在を嗅ぎつけたことをしって誤魔化そうとしてくるのかもしれないし、油断は禁物だ。
その『絶対ここにはいない』というような我々がごく当たり前にもつ経験則からの落とし穴を巧みに利用してくるのかもしれない。
一挙手一投が迂闊に行えないような考え方だが、備えはあるに越したことはない。
まずは魔王なんか絶対入り浸りそうにないお店なんかから周っていった。
この街は魔族の居住区となっているが、別に人間でも構わず出入りも居住も――そして買い物だってできる。
ただし、税金や特別料金などがバカみたいに高いという特徴もある。
いいさふっかけられても。
それにしても他のメンバーは大丈夫だろうか。初回に魔王引いて全滅しかけているんじゃなかろうか。
いざとなれば助け立ちしたいが、そういうことのないように祈っておこう。
武器屋、防具屋と見回っていると、どこにも不自然な点などは見受けられなかった。
代わりに小さな悪魔チックの女の子がカウンター越しでぴょんぴょんしていた。
「ボクにはアイテムが売れないってどういうことですか!」
「だからおたくさ。まだ子供だろ?お父さんとお母さんを探してきなさい。ここは遊ぶ所じゃないんだ」
「ボクは子供でもなければ、遊ぶつもりもないです!」
「子供じゃないだぁ?おいおい。そんな容姿でよくそんなことが言えるな。……ともかく子供に売るもんなんかなんもねぇよ帰りな」
どうやら店員さんと一悶着起こしているようだ。
まぁしかたない……。
トボトボ歩き帰ろうとする彼女に「何買ってほしいの?」と思わず聞いてみた。
女の子は戸惑いながらも「あれ」と指差してきた。
なんだか凄く厳つい鬼の金棒みたいな武器だった。
こんなの一体どこの誰が使うのかずっと考えていたけど、今のこの子に取っては必要なものらしい。
「やぁ店員さん。あの武器いいね〜ちょっと買ってみていいかな?」
「あぁ。【地獄棒】ね。36000ジールですが、お求めになりますか?」
「はい。この場でください」
そうしてトゲまみれのおぞましい武器を手渡してもらい、女の子にプレゼントしてあげた。
女の子はとても喜んだ顔つきでぴょんぴょん跳び跳ねていた。
「……お前ひょっとしてニンゲンか?でもニンゲンにしてはとても優しいし、なんか噂と違って拍子抜けするぞい」
「そんなこともないよ。僕はロシュア。よろしくねえっと」
「ああ。ボクの名前はね」
その後彼女のちっちゃなお口から飛び出してきた言葉には、誰も予想がつかない信じられない事実が織り交ぜられていた。
「ボクの名前はラ・デジャーク・ド・ヴォルだ。世界を闇に染めるために旅を続けているんだ」
まさかの目の前の少女こそ、私たちがずっと探し求めていた諸悪の根源――魔王だとは夢にも思うまい。
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