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嗚呼、愛しきお風呂ハーレムよ。

「ロシュア様ぁ〜?こっち向いてくださいよほらほらほらほら」


「い、いやその……たたターシャさん……ま、まさか裸じゃありませんよね?」


「さぁ〜それはどうでしょうか〜♡」


 あ、悪魔的だ!

 振り返ってもし全裸の女性がいたら僕は死ぬ。

 月を背に溺死するなら男として本望だろう。鼻血ブーで即死という格好悪さにさえ目を瞑れれば。


 見ないとなんか顔ごと向けられそうなので仕方なく僕は恐る恐る振り返ってみた。


「あ、よかった。タオルなんだね……」


 ちゃんとターシャさんの身体にはタオルが巻き付けられていた。

 健全的だ。いやぁよかったよかった。


「もしかしてターシャのヌードを期待してたんですかぁ〜やだぁロシュア様のす・け・べ」


「い、いやむしろそうでなくて安心したくらいだよ」


「流石ロシュア様です〜女の子に優しいところなんかとっても紳士的……惚れ直しちゃいます」


 ……もし彼女に恋愛ゲージか何かあるとすれば、僕が選ぶ回答のひとつひとつで爆上がりしてそうだ。

 何をしても好感度が上がるわけではなさそうだけど、なんか僕というありのままの人間を本当に好きになっている感じがする。

 それ自体はすごくありがたいことなんだけど、愛情表現がいきすぎるとそれは僕には刺激が強過ぎることになる。


「でもぉ〜ロシュア様がどうしてもと仰るなら、私この薄っぺらいタオル一枚脱いでこの肉体を露わにすることもできますよぉ〜」


「ぬ、脱ぐって……」


「さぁどうします?」


 ど、どうもこうもあるか。

 お湯に口をつけてブクブクさせる。惑わされるな。

 彼女は大切な仲間ではあるが、その一線を超えてしまってはもう後戻りができなくなる。

 確かにお互い一度は素っ裸を見せ合った(不慮の事故)仲だが、ああいうのはもう一度きりということにさせていただきたい。

 それにあの頃より仲間も増えた。

 軽率な行動を取れば首を絞めることになるのは自分だ。


 しかしこのタオルの上からでもわがままなボディが目立つ聖女様は、ご自身の辞書に『節制』の二文字とかは無さそうであり、何も答えられずもごもごしていると僕の入ってるお湯の側までやってきた。

 毎度ながら彼女のこの距離詰めは驚愕と賞賛に値する。

 ほんとふとした時にはもうあっという間に距離詰めてくるんだもん。


「さぁ……良いですよ」


 そうして彼女はわざとらしく低い姿勢になり、煽るように胸元を開いてゆき――



「おーっす。もうお湯もあったまったかロシュア。私も入るぞ」


「ってリーネさどわあああっ!!なんで裸なんですか!!」


「?なんでお風呂に入るのに服を着る必要があるんだ。キミも裸じゃないか」


「そそそ、そうじゃなくて!ほ、ほらタオルとかなんとか巻くとか隠すとか!……っていうか混浴ですよこれ!」


「そう固いことを言うな。私だって別に誰彼構わず肉体を晒すつもりなんて毛頭ないさ。信頼できる仲間たちの前だからこうしていられるのだ。隣失礼するぞー」


 彼女もまたエルフ特有のスレンダーかつ色気のある美貌を惜しげなく披露しながらナチュラルに僕の隣に入ってきた。

 ゴブリンのお爺さんと人間一人が入っても狭いといったこの風呂に入れば、まぁそりゃ肩と肩もくっつくし接近することになる。

 や、やばい。エルフとは言え女性の生肌が肩に触れている……!!


 リーネさんが入ってきたことにぷくーっと頬を膨らませてターシャさんは怒っていた。


「ちょっと!旦那様の隣でお風呂にインすることが許されるのは正妻である私だけよ!ってわけで先手取られたのは癪だけどターシャも、いっきまーす♡」


「え、ちょむ、無理だって流石に3人は――」


 ばっしゃーん。

 とうとうタオルを脱ぎ捨てて彼女はこの狭い湯にダイブしてきた。

 3人も入ったことでお湯は凄まじく溢れ出し、三者一様にひしめき合うぎゅうぎゅう詰め状態になった。


 おまけにどういうわけか僕が真ん中になってしまい、右にターシャさん左にリーネさんという二つのおっぱい……もとい二つの女体に挟まれることになった。

 や、やばい……。両肩が今すごいもっちもちしてる……!

 畳み込んでいたはずの左右の足にも彼女らのむっちりとした太ももが直に触れる感覚がしてくる。

 というかやっぱり狭いから無理だってこの3人体制!


「あら。あんたが出なさいよ新参者のエルフ!」


「なんだ。風呂くらい誰が何人入ろうがいいじゃないか。心の狭い正妻もいたものだな」


「あ、あらっ!私は心の広い人妻だからエルフの一人や二人くらい旦那と湯に浸かっても許して差し上げますわっ!」


 どんなところで張り合っているんだ。

 そしてもう人妻になってるし。

 やばいこれ……普通に絵面も状況もやばすぎる。

 美女二人にサンドイッチにされているのだ。全員全裸で。

 身体が湯の温度とは別にどんどん熱を帯びて上昇していく。


 僕がやかんだったら今頃ピーピーいってる……いや、その前に破裂しているだろう。


「赤くなって可愛いダーリン♡」


「人間とは変わっているな。こんなにも緩い温度でそこまで体温が上昇するなんて」


 もうなんか言葉を紡ぐ余裕さえなかった。

 なんかよくこういうシチュエーション羨ましいとか思う時があるけど、あれは第三者視点だったからそう思えただけで、実際いざ体験してみると割合8:2くらいの緊張と興奮で何も思いつかなかったり何も考えられなくなってしまうのだな。


 現実と空想の悲しい隔離なり。


 傍から見たら世の男性たちに「死ね」と一斉に中指を立てられて骨まで残らず殺されそうな世界だったが、正直ちっともそういうことを考えられる余裕なんてない。

 はやく二人が上がってくれるのを待つだけだ。


「おっ。なんだ風呂勝負か?負けないぞ。これでも私はエルフの里では1番の風呂タイム保持者だからな」


「なによ。私だって長風呂できるわよ?」


 ち、ちがう。

 むしろどんどん長く入られればこっちが死ぬ。

 これはもう四の五の言ってられる状況ではない。出所を失えばくたばるのは自分だ。

 早く上がらなければ――


「あらどこに行くんですかロシュア様」


「キミだけ逃げるなんて許さないぞ。私たちは一連托生だ」


 ひ、ひいいー。


《なんじゃ。主らだけお楽しみとはつれないではないか。妾も混ぜろ》


 さらにサラまで加わって四面楚歌ならぬ四面美歌な様体になってしまっていた。

 裸で語り合うのは悪くない。

 みんなと距離が縮まったみたいだ。

 ただ、僕の理性は死んだ。脳天爆発だ。


「あっロシュア様が倒れた!!しっかりしてください!!今ターシャが人工呼吸してあげますからね?」


「バカを言え。キミはロシュアと不可抗力を装ってただキスがしたいだけだろ」


「なっ、ち、ちがうわよ!非常時だっていうのにどんだけ頭沸いてんのよ!!このままロシュア様が死んでもいいっていうの!?」


「む、そ……それは困るが……」


「でしょ?わかったらそこで大人しく見てて――ぎゃあああ!!」


《ご主人目を覚ませむぢゅうううう》


「こらバカ精霊!!その汚い唇をロシュア様から離せっての!!……んぎいいいい!もういい!それなら下から人工呼吸を」


「そ、それはいくらなんでもまずいんじゃないかターシャ!!」


 薄れゆく意識の中で、美女3人がわちゃわちゃと僕を取り囲んでいるような気がした。

 微かに見えた夜空のお月様は、一条の光を放って輝いておられた。

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