師匠の家で一泊
「ふーん……おじいちゃんに人間のお弟子さんがいたとはねぇー」
僕たちはお互い服に着替えて、ようやく落ち着いたところでリビングでくつろぐことにした。
全員どうやらバラバラに転移されてしまったみたいで、サラは玄関、リーネさんは風呂場、そしてターシャさんはリビングにいたそうだ。
僕……屋根の上って……。魔力スッカスカの状態で転移使うとロクな目に遭わないんだなと分かってよかった。うん。
次からは気をつけよう。
というか、一人ずつ転移させていけばよかったかも。
……いや、その前に魔力尽きるか……?
ちゃんとたどり着いたからよかったものの、暴発して離れ離れになるとか洒落にならないぞ。
ゴブリンのお爺さん。名前は最後まで教えてくれなかったけど、彼には一人の娘がいた。それが今目の前で僕らに晩御飯のシチューを提供してくれているメグちゃんというゴブリンの女の子だ。
ゴブリンとはいうが、かなり人間に近いヒューマノイドなタイプだ。
これは片親が人間だったことに起因するらしい。
おじいさんは一年前親戚からこの子を引き取って以来ずっと一人で育てていたらしい。
僕はといえば2年以上前に会ったきり以降はカムイたちに付きっきりとなってしまい、ばったり交流が途絶えてしまったのだ。
まさかお亡くなりになられていたとは……。
やはり流行り病に代表されるような天災だろうか。
まさか討ち死?いやいや。ここは魔族がメインの街とはいえ、ギルドからも歴とした魔族専属特区として生存が認められているのだぞ。
戦争が巻き起こるとも考えにくいし……。
「なんかね。本棚に置いてあったエロ本を取ろうとしてあの脚立から落ちて頭ごちーん。そのまま眠るように息を引き取って逝ったわ」
「…………」
想像を絶するほどすごく下らない死因で口を開くことができない。
師匠……!!
いや師匠!!
まあ、まあいかに魔物といえど高齢者が高いところから無防備な頭をぶつければただでは済まないだろう。だろうけど!
なんだこのやりきれない気持ちは!
「全く……どこの種族も男という生き物は……」
何やら身に覚えでもありそうな口調で、リーネさんはやれやれ顔を浮かべていた。
「かわいそうに……。そんなんじゃきっと死んでも死にきれませんわ」
「いや……案外満足そうな顔して死んでたから中身は拝めたんじゃない?で昇天してたら本当に逝っちゃったと」
「か、悲しいとかそういう感情はないのメグちゃん?」
「うーん……年金もらえなくなっちゃうな〜って」
顔の割に凄まじい毒と凄まじいクズ発言だった。
仮にも自分を育ててくれた人に対して……。
それとも師匠時々おふざけが過ぎる場面があるから、尊敬されなかったのかな。
まぁこの魔族の街でも結構な変わり者だったしな。
でも僕はそんな一見風変わりな師匠が大好きだった。
カムイたちはあんなだったし、役に立てない僕が悪いのは重々承知していたつもりだけど、それでも傷つく時は傷つくのだ。
そんな時、師匠の言葉が何度も僕を奮い立たせてくれた。
おじいさんが居てくれたから僕は救われたんだ。
「遺影とかないの?」
「あっこ」
シチューを注ぎながらメグちゃんが指差した先は骸骨とゴミ箱の中身がひっくり返された汚らしい庭だった。
土壌にはおじいさんの生前の笑顔が半分埋まっていた。
「舐めてるんですか!?!」
こんな扱い本当に天国から蘇ってきて罰を与えにきてもおかしくないぞ!
師匠、今お救いします!!
「あいつ何やってんだろ」
リビングではシチューの美味しそうな香りが漂っていたが、構うものか。
ちゃんとした場所に飾っておかねば。
「まさか遺体も……?」
「うん。邪魔だったからその辺に埋めといたよ」
どんだけ人望なかったんだおじいさん。
めちゃくちゃどうでもいいやつ扱いされてるし。
うーん。これが歳の差ありすぎの感性なのだろうか。
とりあえず僕は孫や子供たちにこんな雑な扱いされるような真似はしないようにしよう。
悲し過ぎるぞ。
美味しい晩御飯までいただき、食器洗いを手伝うと僕たちはお風呂に入って体と心を癒すことにした。
「ふぅ〜……」
熱々のお湯が全身に染み渡る。
そうそう。師匠と言えばこの熱い風呂だよなぁ……。
この微妙に狭い感じがまたたまらないんだ。
師匠と二人で入ったこともあったっけなあ。
薪を集めて火をくべるところから始まるのだ。
あの時はまだ炎魔法なんて基礎すら使えなかったからもう必死だった。
この一見ただの湯沸かし行為も実は修行の一環だったもの知った時は大泣きして、一生この人について行くと決意したものだ。
全てが昨日のことのように思い出せる。
思い出を湯に溶かしながら月を背にノスタルジックに浸り切っていると、背後から何かが近寄ってくる足音がした。
「ロシュア様〜お身体流しにきましたよ〜♡」
な、何!?
もも、もしかしてターシャさんか!?
こ、混浴なんてまずいですよ!!
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