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新天地へ

「さっ、気を取り直して行こうか」


「はいっ!」


 次なる目的地は魔王がうろついていると思われる移動予測地点だ。

 ダリアさんの調べによるとその近辺には魔族の住む街「ノマモ」があった。

 ここからは禁断の地よりも遠く、とても長い時間歩いていかなくてはならない場所であった。普通ならね。


 しかし僕は以前カムイたちと旅をしてきた時にノマモにあるゴブリンのおじいさんの家に訪れたことがあるのだ。

 その頃はてんで素人同然だった僕に、おじいさんはよく面倒を見てくれて薬草の知識や様々な知恵袋を教授していただいた。

 一度でも訪れて記憶にある地点なら【転移魔法】を使えばひとっとびで飛んでいける。

 使用者である僕だけが知っていれば、同行者のメンバーは知らなくても、また何人いても問題ない。


「へぇ……じゃあロシュア様のお師匠さんなんですね!私も未来の妻としてご挨拶に伺いたいわ!」


「……当たり前に言ってるが毎度すごいなキミは。あれほど洞窟整備や魔物退治で散々魔力を使っているというのに、そんな遠くまで私たち全員を連れて転送魔法を使えるなんて……底無しの魔力だな」


「そうね。あんな口だけのニセ勇者とは違って」


 その勇者様は現在僕の蹴りを受けて天井に突き刺さったまま身動き取れなくなってしまっていた。


「おーい!誰か手を貸すことを許してやるぞ!早くここから脱出させろーっ!」


「じゃ、魔法お願いしますねロシュア様♡」


 仲間の皆は完全スルーの方向で進んでいた。

 ターシャさんはべったり僕に寄り添ってきて、頑なに離れようとしなかった。

 まあ何か起きても大丈夫なようにそばに居てくれること自体はありがたいんだけどね。


 ただ近いっす……!聖女様、近過ぎます!!

 胸の高鳴りと奇妙な汗がターシャに悟られてしまわないかだけが気になる。


「おーい!!無視するなーっ!!おーいっ!!き、貴様らそれでも人間かーっ!!」


「うるさいわねー。あんた伝説(笑)の勇者様なんでしょー?そこから抜けることくらい自分でしなさないよ」


「ぐぬぬぬ……!!」


 猛烈に悔しそうな声を上げ、下半身をバタバタさせて勇者様は喚いた。


「よし【転移魔法】――【ノマモ】へ!!」


 そして僕たちはギルドを抜け光の中に消えていった。




   ◇ ◇ ◇




「くそ……い、今に見てろよ……特にあの娘ぇ!!聖女のクセにこの偉大なる勇者アルフレッド様に対してあのような無礼を働くとは……!!ここから抜け出したらいの一番に力を見せつけて屈服させ、俺の前に全裸で土下座させてやるぞ!!」


 空中で未だじたばたと下半身のみ忙しなく動かし、勇者はずっと怒りに震えていた。

 その様子を天井にあるオブジェであるかのようにガーベラは頬杖をついて見つめていた。

 助けようという気はさらさらないようだ。


「ふー。ちょっと休憩……ねぇ、さっきの大きな音ってな――ってなにこれぇえええ!?」


「あっ、ダリア。お久〜。ま、ちょっと色々あってね」


「ちょっとじゃ説明つかないわよ……どうするの?またギルドマスターに怒られるわよ?」


「いいじゃねぇかよぉ。それより見てみろよコレ。ガッポガッポだぜ?これで今日は店じまいして外で一杯やらないか?」


 ガーベラは大量にせしめた札束を握りしめ、うちわのように仰いで見せつけていた。

 1000ジール紙幣に下を這わせ、耳をぴょこぴょこ動かしながらニタニタと下品な笑みを浮かべるガーベラにダリアは手を顔に付けて溜息をついた。


「いいお金っ……てなるわけないでしょ全く……。で天井のあれは何?」


「なんか勇者のコスプレしてる痛い人」


「コスプレではないぞ!!俺は稀代の天っ才勇者アルフレッド様だ!!お前ら!この際もうギルドでもなんでもいいからこの俺を早く助けろ!!そうすれば今回の件は見逃してやってもいいぞ?!」


 ダリアは必死でじたばたする彼の下半身をじっと眺めていた。


「……良いわね」


 じゅるりと周囲に聞こえるほどの音を立てて舌を出した。


「ねぇ勇者君。……ちょっとお尻貸してもらえる?」


「だーっもう尻でもなんでもいいから早くしろ!!……えっ待って何尻?」


 アルフレッドが何かおぞましいことに気付いて血の気が引いてきた時にはもう遅く――次の瞬間ダリアに〝何か〟をされた青年の悲哀に満ちた絶叫が響き渡り、床には深紅の薔薇の花弁が咲き誇った……。




   ◇ ◇ ◇




「転送成――」


 そう言ったところで身体が落下していった。

 何が何だかさっぱり分からない。

 どうやら屋根の上に転移してそこから下へ落ちてしまったようだ。

 痛みはそれほど無かったものの、突然のことで僕の頭は訳がわからなくなってしまっていた。

 

 はっとなって振り返ってみると転送前は側にいたはずの仲間たちがいない。

 うーん……遠くになればなるほど人数が多ければ魔法の成功率は下がるのだろうか。

 ただ、周りの景色はどこからどう見てもかつて僕が訪れたゴブリンのおじいさんの住む家だった。よし。移動は成功していたようだ。

 もう一回ギルドに帰って事の真意を調べてみたかったが、この転移に思った以上に持っていかれてしまったため、もう魔力が残っていなかった。

 おまけにすごく疲れた。眠い。

 幸い落下先はおじいさんのベッドだったし、ここでゆっくり寝てみるとするか……もう夕暮れだし。


 そうして布団にくるまって寝ようとすると、そこには何か暖かいものが置いてあることに気付いた。

 なんだろうと思ってめくってみると、そこにはやや肌色の濃ゆい女の子が素っ裸で吐息を立てて眠っていた。

 ばっと布団をかけて目を擦り、もう一度ばっと取って眺めてみる。


 先程と同様に素っ裸の少女が眠っていた。

 な、なにがあったーっ!!

 なんだなぜだ。ここにはおじいさんしかいなかったはず!

 わからない事だらけの事態に頭が混乱を極めていると、やがて少女が目を覚まして起き上がり始めた。


「う……ん?あなた……は?」


 や、やばい。なんて言い訳をすれば……。

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