封印の壺を落として、しまったのですが……
禁断の地第三層。
この先は最奥地となる。一直線に進めば良いだけだ。
ここには昔カムイたちと訪れたことがある。
その時はちょっと強めのモンスターが常駐しており、それを倒しただけで特に変わったことはなかった。
……何かとてつもなく大事なものが置いてあったような気がするが、記憶がもやがかっていてわからない。
「本当ここ最深部なんでしょうか。なんだか二層の重い空気も感じませんし普通じゃないですか?」
「油断はするなよ――と言いたいところなのだが、私の嗅覚でも怪物らしきものは感じ取れない。これがもし私を上回る隠密術なのだとしたら大したものだ」
《安心せぇ。お主のポンコツエルフレーダーでは反応し切れんオーラも妾のツノなら完治できる。でその結果ここにはモンスターはおろかご主人様以外の人っ子一人だーれもおらんよ》
ということはやはりここは既にもぬけの殻となっているのか。
背筋と額から冷や汗が垂れ落ちる。
もう安全だと言うことが二人によって証明されたというのに、さっきから心臓が高鳴って止まらない。
動悸が激しく、息も段々苦しくなってきて目眩に近い感覚までしてきた。
そのせいか普段は引っかからないような小石にまで躓いて転んでしまった。
「大丈夫かロシュア」
「え、あう、うん大丈夫大丈――」
僕が躓いた原因となったのは小石なんかではなかった。
それは何やら歪な三角の形をした破片のようなものだった。
表には不思議な紋様が赤色の線で引かれてあった。
その見たことある破片に何かを思い出しそうになる。
なんだろうこれは。もしや
「なんですかそれ?……あっ。ロシュア様、あっちにも似たようなのが落ちてますよー」
ターシャさんが素早くかき集めてくれた破片はどれもこれも形は違うが、全部に共通して基調となる色が同じで、赤い線が引かれていた。
10個や20個などではなく、100個以上にも渡る大量の枚数を誇る破片だった。
「なんでしょうねコレ。ここでバラバラになっていたみたいですけど……」
「どれ。……不思議な欠片だな。これ全体にものすごく古いが、強固な封印の紋様が刻まれている。つまりこれは何かを封印しておいたツボか何かじゃないのか?」
ツボ、壺、つぼ……。
リーネさんのその発言を聞いて、僕は全てを思い出した。
かつて僕とカムイたちが一緒に冒険した時の出来事を――
「ど、どうしたんですかロシュア様。ものすごく顔が青いですよ」
「な、なんてことだ……そ、そんな……みんなごめん……。この封印の壺を割ったのはぼ、僕なんだ……!!」
「なんだって?!……つまりキミは過去にもこのダンジョンに来たことがあるというのか!?」
「うん。Aランクのパーティーに僕が所属してたってことは知ってると思うけど、その時僕たちはここに来て、このフロアにたどり着いたんだ。けど壺以外目新しい物が何も無いってんで、僕たちは帰ることにしたんだ。……その時だったんだ。うっかり僕がこの壺を落として……わ、割ってしまったのは……!」
「そ、そんな!いくらなんでもロシュア様がそんな不注意な真似するはずがないわ!!」
「い、いやしかしだなターシャ。他ならぬロシュア自身がこうやって覚えているのだから……もう……」
「何バカなこと言ってるのよ!!きっと都合良くハメられたに決まってるわ!だってそいつら、ロシュア様をへーきで追い出すような人たちなのよ?都合が悪くなった時だけロシュア様に濡れ衣を擦りつけたに違いないわ!」
今僕を含めて全員が語っていることは全て憶測に過ぎなかった。
誰が、どう何をしたのか――
それはまさしく神のみぞ知る問題だった。
とりあえず壺の破片を一欠片たりとも残さず全て回収し、祭壇の様子も詳しく調べていった。
「あれ?」
何かを発見したターシャさんが僕らを手招きした。
「ここなんか足跡がありますね。それもがっつりと祭壇に登ったような跡が」
「ふむ……神聖な祭壇になんとも罰当たりな真似をした馬鹿者がいたのだな。……もしかして!」
そしてリーネさんは僕の手を引っ張って祭壇の上に乗せた。
「な、なんですかいきなり――」
「この足跡の上に足をつけずちょっと合わせてみてくれ」
リーネさんの言う通り、僕は貴重な証拠である足跡を崩さぬよう空中で足を静止させ、彼女に観察してもらった。
「やはりだ。キミのものじゃない。一回りほど大きいぞ。……ここにパーティーと来た時の服装を覚えているか?」
「はい。布の冒険者服とこの靴です」
そう。パーティー加入時に装備品などは一切提供されず、代わりに自分が適当なのを見繕って身につけておかなければならなかった。
パーティー時代はそんな事象もあってか、新しい装備を買うこともなくずっとこれを洗いながらローテーションしていた。
よって服を変えることはない。ということはこの大きさの足の人物は――
「カムイだ……けどなんで?」
「さぁ……もしかしたらキミたちより前に来た別人かもしれないが、私には大体のことが匂いで分かるのだ。だからその話が出た時最初に違和感を覚えてしまってな。だってその足跡からはキミの匂いが何一つと言っていいほどしなかったのだ。付いた状態からも新しいし、ゴーレムが出来てから……つまり封印が解かれる前にここを訪れていた人物となると、話をまとめたらそのカムイとかいう連中のせいである可能性が極めて高いのだ」
「とても信じられないですね。だってあいつは『お前がやった』って僕に散々言ってきましたから。怖くなってみんなと帰る頃僕も一緒になって帰ったんです」
「……まぁ事の真偽はともかくとしても、今魔瘴を撒き散らしている元凶が壺の中に入れられ、割られたことで復活を果たして禁断の地を抜けたと考えるのが筋だろうな。ところでここには何が封印されてあったのだ?」
「なんか『魔王』だとか『厄災』だとか書いてあった気がします。……あ、今も繋げたら微かに読めますねそれ」
「いや待て待て。キミ、まさかこの奇妙な図柄の文字が読めるのか?」
自慢じゃ無いが、僕も結構古語には詳しい。
そういう本を読むのが好きで得意だったということもあり、巷で難解と言われてる古文書を数分足らずで解読し切ることもできる。
こんな紋様程度バラバラに壊れていても朝飯前だ。
壺の文字はこう書かれてあった。
『封印の壺にて、永遠の闇をもたらす究極の厄災――魔王をここに閉じ込めたり。一度台座に起きしこの壺に決して触れるべからず』
…………。
「ダメじゃん!!」
全ての元凶は封印が解けた魔王なんかじゃない、この僕だった!!
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