遭遇
異端な進化を遂げたストーンゴーレムたちは、見たこともない攻撃でこちらに襲いかかってきており、最早オリジナルのものたちとは姿形こそ同じだが根本から異なる生き物となっていた。
どうする。完全に倒し切らない限りまた何度でも復活してくるぞ。
こうなったらちょっとアレを使ってみるか。
手頃な剣なんてなかったが、とりあえず落ちていた石や岩からアイテム・石の剣を錬成させてみる。
無論これ自体はその辺の武器屋で150ジールという良心的な安さで売っているような初心者武器だが、なんか見た目的にも剣が欲しくなってしまい。
そして剣に複数の属性魔法を集約させ、合成魔法剣術を完成させる。
そう、リーネさんの使った【森羅万象斬】だ。
初めて見た時あれを【観察】しておいてよかった。
その後【模倣】ができるとは思ってなかったけど、こうしてやってみたらできたので安心だ。
威力まであの時の彼女ほど出るとは思えないが、このままズルズル戦い続けるよりはやってみる公算はあるといえる。
「よしいくぞ!」
「ロシュア!こいつら普段とは違うぞ!独自の進化を遂げて別物になった可能性が高い!十分に気をつけ………てぇえ?!」
彼女が驚いたのも無理はない。
見様見真似でやってみますとも!ええ!
「【森羅万象斬】!」
剣に乗せた虹色の残照が光を放ち、ストーンゴーレムの硬い肉体を粉砕していく。
振りかざした剣がとてつもない威力となって奴の身体を切り裂きていき、斬られたはしから存在ごと消滅していった。
そうしてストーンゴーレムは虹の光に包まれて姿を消した。
岩一粒も残さなかったので、今度は再生されずに済んだようだ。
「ふーっ……どうにかなったね」
「ろ、ろろろ、ロシュアどの……そ、それはまさか私の……」
「うん。ちょっと使わせてもらったよ。まあ見様見真似だったから原典とは大分違うかもしれないけど……おまたせ」
そして今度は前方にいる二体目のゴーレムに向かって斬りかかっていった。
本日二度目の森羅万象斬だ。
防御の姿勢を取って両腕を交差したストーンゴーレムだったが、当たった部分から徐々に肉体が消えていき、奴もまた復活を果たせずに跡形もなく倒された。
回収はできなかったが、どうにか倒す事に成功した。
これまでと決定的に違うのが、あの能力と技だ。
これを詳しく調べればより有益な情報を手に入れられたろうに……いかんせん再生能力とストップなどの保存と相性が悪すぎて倒さざるを得なくなってしまっていた。
後は必死だったというのもある。
次また出会ったら今度は捕獲路線で戦闘を進めてみよう。
「いやー。よくやったねみんな!」
「うんロシュアがね!?」
総出でツッコミを食らってしまった。
でもターシャさんを守ってリーネさんも頑張ってくれてたし、サラもサラで頑張ってたし。
「いや……なんというか、キミはいよいよ規格外の男なのだな!すごいぞ!!キミならもう何をしても不思議じゃなくなってきた!何でも出来そうだな!!」
リーネさんも呆れたような開き直ったような複雑な感じで笑っていた。
何でもは出来ませんよ、出来ることだけ。
やがてリーネさんの言う通り、あれだけダンジョン内を覆っていた魔瘴も奥に進むにつれすっかりと晴れ渡っていった。
ようやく安心して呼吸ができる状況になり、ターシャさんも肩の力を抜いてホッとしていた。
「ふぅー……やっと深呼吸できますわ」
「もうこの先からAランクモンスターとも遭遇しなくて済むはずだよ」
しかしかつてここに巣食っていたダンジョンのモンスターたちは一体どこに行ってしまったのだろうか。
すっかり列強たちの影も形もなくなってしまっていたが、もしかしたらあのストーンゴーレムによって薙ぎ倒されてしまったのかもしれない。
それか元凶によってまとめて始末されたか。
襲われないならどんな形であれこちらにとっては好都合なので、きびきび先に進んでいく。
ふいに足元の石に躓きそうになったが、その全貌を見つめてぞっとした。
落ちていたのは石ではなく頭蓋骨だった。それも人間のものと思われる。
あたりを見渡すと複数の人骨が転がっており、以前何人か僕たちの他にもここを訪れていたようで、志半ばで死に絶えたということだろうか。
骨になりきれなかったものから、まだ人の形を中途半端に保っている死体まで転がっており、異臭からリーネは鼻をつまんで吐き気を堪えていた。
「先客みたいですね……しかも死んでからまだ数日も経ってなさそうです」
逆にターシャさんは死体慣れでもしているのか、特に驚きもせず淡々と屍肉の山を漁っていた。
「お、おい大丈夫かターシャ。……そんなおぞましいものによく手をかけられるな」
「私一応聖女だったので。戦士さんの遺体とかよく教会に運ばれてきたのを見てるから……」
しかし今の様子からだとターシャさんには見てるだけでなく触ったことにもそれなりに経験がありそうだ。
無念のうちに死に絶えた冒険者たちの遺体にそっと手を置き、浄化の魔法をかけていた。
悪霊にならぬよう成仏させていくその様は神々しい後光を浴びた聖母そのもののようだった。
「この人たちもさぞ苦しい思いをしたのでしょうね……せめて楽になればいいんですが」
ここにきて一番ターシャさんが過去最高に真面目だった。
彼女の聖女としての一面を垣間見た瞬間で、いつもと違う彼女に心がざわついてしまった。
「う……ううう……」
「きゃっ!!」
「誰だ!!」
突然死体の方角から奇妙な低い呻き声のようなものが聞こえてきた。
ターシャさんが思わず尻もちをつき、彼女の手を引いてリーネさんが刀の柄に手を取った。
するとボコッと地面が蠢いて、彼女の背後から白骨の手が伸びてきた。
「いやそこからっ!?」
どうやら呻き声の発生源は地中から出ていたようだ。
全員がそいつを囲うように退避し、骨の様子を観察した。
白骨は徐々に腕と頭まで顔を出し、ついに足まで伸ばして僕らの前に現れた。
「う・ううう……うらめしやぁ〜」
「きゃーっ!!いやーっ!!怖いーっ!!」
演技とかではなくターシャさんは本気で喋って動く白骨死体に怯えていた。
多分死体とかはもう動かないものだと認識してるから見れるし触れるけど、動き出してくるゾンビ系とかは苦手なのだろうと勝手に考察してみる。
「飯屋?それなら洞窟の外だぞ」
リーネさんはありがちな天然ボケを真面目な顔でかましていた。
「えっ……あっ、いやだから恨めしや〜って」
「裏飯屋?あぁ。ギルドの方面なら洞窟を出て向こうだぞ」
動く白骨死体は困惑を隠せないでいた。
死体にさわれない彼女はターシャとは逆に、動く死体には全く驚きもせず対応していた。
こうしたキャラクター性に違いが見れるのも面白かったが、とりあえず僕は白骨死体の意見に耳を傾けた。
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