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魔瘴②

「ようやく着いたね。……ここが『禁断の地』だよ」


 足元の悪い岩場を乗り越えた先には、一つの大きな洞穴がある。

 その周辺には不気味で鳥肌の立つ様な雰囲気が漂う。

 ダンジョン名――『禁断の地』。

 主と思われるモンスター、無し。

 しかしダンジョン内部のモンスターが手強いものばかりで、Aランクパーティーでようやく互角になるといった難易度だった。

 それ故に踏破難易度はA。ギルド側も基本的にAランクパーティ以外の出入りを禁止している。


 怪物の口にも見える薄暗い洞窟の入り口を抜け、僕たちはまっすぐ禁断の地の内部に向かっていった。

 一条の光すら差し込まない暗黒世界のダンジョンは、全体的に不穏な空気であり、いつどこから敵が襲ってくるから全くわからない恐怖が常に付き纏っていた。


 悲鳴や泣き言一つ言わずに懸命にくっついてくれているターシャさんはすごいと思った。

 何かにしがみついていいと言われても普段の僕なら10秒もしないうちに恐ろしくなって踵を返すだろうから。


「【閃光魔法(フラッシュ)】」


 先の見えない暗闇を進ませ続けるのは危険なので、とりあえず明かりを照らして進むことにした。

 もちろんこれで位置が敵に把握され、結果として余計狙われるんじゃないかって心配はあるのだが、そもそもこんなところに出現するような敵は視覚情報なんか無くとも的確にこちらを襲ってくる超感覚を備えているので人間がどう足掻いても無駄なのだ。

 なら僕たち人間にとってわかりやすいようにして危険に対処する方が何倍も良い。


 このダンジョンはとても単純な構造をしており、入り口から真っ直ぐ突き当たりまで進むと、そこが下層への階段となっておりそこを降りるとまた一本道となっているから真っ直ぐ進んで突き当たりにいくというループになっている。

 階層全3層。短いが、それだけにやばいモンスターがそこら中に跋扈しており、また初見では似たようなフロアが続くことがとても不可解に映ってしまうので、疑心暗鬼に駆られて行ったり来たりを繰り返すうちに、結果として今自分が何層にいるのか分からなくて迷子になるという事態に陥りやすい。


 そんな禁断の地であるものの、さっきから危険なモンスター群は全く見受けられなかった。

 代わりにとうとう肉眼でもはっきり視認できる瘴気が紫色の煙となってその辺をうようよ漂ってき始めた。


「な、なんでしょう……これが魔瘴ってやつでしょうか……」


「迂闊に吸い込むなよ。人間にとっては非常に有害な毒素となる。無論人間以外でも脆弱な生物が長時間体内に吸い込むととんでもないことになるがな」


 リーネさんからそれを聞いた瞬間ターシャさんは口元を覆い隠した。

 僕もこれが見えた段階で鼻と口の呼吸を停止させたが、【風空魔法(エアロ)】で擬似呼吸をしていられるのもそう長くはない。

 エルフのリーネさんとサラマンダーのサラといった高位生物なら、どれだけ浴びてもなんの変化も起きないが僕たち人間がこれを食らえばどうなるか分からない。

 それこそA級の怪物に変化する可能性だって捨て切れない。


 やや急ぎ足で駆け抜けた第一層が無事に終わり、更なる魔瘴が立ち込める第二層に到達していった。


「こ、この辺魔瘴だらけですね……!」


「一段と濃度が濃ゆくなっているようだな……だがその元凶はここにはいないだろう」


「えっ?」


「ここが一番瘴気の強いフロアとなっていて、この先からはニオイを感じないのだ。だからここを切り抜ければもう終わるぞ」


「そ、そうなんですね……ほっ。よかったぁ〜私ずっとこうやって鼻と口を塞いで歩き続けなければならないのかと思いましたよ〜」


「なんなら私が口付けして呼吸をし続けることもできるが?」


「結構です!」


 唐突にリーネさんからとんでもない提案が聞こえてきたので、思わず足を止めてしまったが、ターシャさんは光の如き速さで断ったためその件は未遂に終わった。


 そ、そんな百合百合しい絵面にする気だったのかリーネさんよ……。

 ていうかリーネさんはそれでいいのか。


 なんて他愛もない談笑を交えながら中間地点にやってきたところ、ようやく魔物らしい魔物が出現するような音が聞こえてきた。

 しかも二体。前方と後方から挟まれた。


「来るぞ……!」


 そうしてズシンズシンと足音を立てながらやってきたのは【岩石巨人(ストーンゴーレム)】だった。

 ギルドの用意した試験のやつよりサイズは小さかったが、あちこちが硬そうに尖った岩の鎧で覆われており、全体的に厳つい存在感を放っていた。

 ちなみにAランクモンスターである。

 しかしこのダンジョンには本来現れないモンスターであることを考えると、必然こいつらは魔瘴を浴びて急速進化を遂げた生物だと分かる。


 ストーンゴーレムは巨体に似合わぬ俊敏なパンチで僕たちを追い詰めていった。

 前と後ろで挟み撃ちにされているのだ。

 どこへ逃げても彼らの魔の手が押し寄せてくる。


「こうなったら戦うしかない……ターシャさんとリーネさんは二人で前のやつと戦って!その際リーネさんはどうにかターシャさんを守ってあげて!僕たちは後ろ側を担当するから!」


「了解した!」


「は、はい」


《やれやれ仕方ないのう》


 ストーンゴーレムは見た目通りの高い耐久性を誇り、また魔法攻撃にも耐性を持っている。

 しかしベヒーモスと比較するとそれほどのものではないため、魔法でゴリ押すこともできる。

 ただ炎属性に滅法強いので、今回サラとの相性はすこぶる悪い。


《面倒なやつじゃのう〜……一万年前はこんなやつおらんかったぞ》


 僕の頭の上で彼女はぼやいていた。

 人類だけでなく魔物の生態系も彼女から見れば随分変わったことだろう。

 それでも今はやるしかない。

 どちらか片方だけでも倒しておけば、万が一逃げる事になってもどうにかなるはず。


「よーしまずは魔法で……」


 こいつらに素通しな属性は【風】。

 すなわち先程まで呼吸に使っていた【風空魔法】がぶっ刺さる。

 その分を口から吐き出すようにしてやればわざわざ新たに発動する必要もなく手間も省けるだろう。


「【風空魔法・吐息(エアロブレス)】」


 口の中から突風を吹き荒らし、風の刃がゴーレムの体表を貫いていった。

 両足を切り刻まれ、立つことがままならなくなった岩の巨人は地に落ちた。


 よし勝った。


 そう思っていると、ストーンゴーレムは突然砕け散った自身の肉体である石や岩を空に浮かせて回収し始め、やがて一つに積み上げられてゴーレムの身体が復活していった。


「う、嘘でしょ!?」


 このストーンゴーレム、再生能力まで備わっているのか。

 再生能力がある敵にはたとえ虫の息でも体力を残すと、そこからまた体力満タンの状態で復活するので一撃で倒し切らないとキリがなくなってしまう。

 さらにストーンゴーレムは本来自身が習得していないであろう技――ゴーレムの目と思わしき顔についた丸い部分から熱線を放ってきた。


「な、なんだこれ!」


 地面を焦がすほどのレーザー攻撃だったが、幸いダメージは受けなかった。

 これ自体も炎属性に分類される攻撃だったようで、サラが直撃してもピンピンしていた。


 どうなっているんだこいつらは。

 高濃度の魔瘴を受けて、異質な進化を遂げた特別な個体にでも成っているというのか。

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