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魔瘴①

『……それで?可愛い女の子二人と楽しくいちゃいちゃ乳繰り合っていたってことで良いのよね?私からの連絡に応じられなかったのは』


『……いやホントすみませんでした……』


 今は正座して反省している二人に脱がされた服を着て、僕は片手間に念話装置を手に取った。

 ところですごいなこれ。本当に離れたところにいても会話ができるぞ。

 まあこれ『念話』だから他のみんなには聞こえてないんだけどね。

 装置越しにダリアさんのため息が聞こえてきた。


『まぁ良いわハーレム大将くん。男の子は少しくらいがっついてる方が魅力的だものね。でも火遊びも大概にしておかないと。後でこっぴどい火傷負っても知らないわよ』


『いやなんの話ですか』


『あぁそうよそうよ。大事な事を忘れる所だったわ!こっちが本題だったのに、人目も憚らず禁断の地付近でいちゃこらしている誰かさんのせいですっかり持って行かれてしまったわ』


『……スミマセンデシタ』


 やばいこれ一生引きずられそうだぞ。

 事あるごとにこれを持ち出され、就職、結婚――果ては家庭を持って家族と暮らすことになった時も、この魔法の決まり文句で相手しなくてはならなくなるぞ。


『冗談よ冗談。私を一体なんだと思ってるのよ失礼しちゃうわね』


『やりかねないですよ……ここまでのダリアさんなら……』


『そうそう。アナタが退治したって例のアルラウネ、調べてたら面白いことが分かったのよ』


『面白いこと?』


『ええ。私らギルドが総力を上げて解析していた時、どうもその周辺に平常時より一際濃い瘴気――魔瘴が必ず立ち込めているって言ったじゃない? 今あちこちで確認されているAランクモンスターたちは、それを撒き散らした元凶によって生み出されたものである可能性が極めて高くなったの。

もっといえば魔瘴を浴びたなんらかの生物が、それまでその生物が有していた生態概念や法則を無視して超覚醒・超進化したものであるってこと』


『は、はぁ……』


 なんだか少々小難しい話になってきたが、要するにその魔瘴を浴びたものが突然変異したのが、今回出現したアルラウネやベヒーモスといった怪物ということだろうか。


『そう思ってくれて問題ないわ。面白いってのはその進化の過程ね。すっごいのよこれが。アナタの持ってきた検体から抽出した魔瘴の一部を膨張させて他の植物に注入してみたところ、みんなアルラウネクラスにまで急成長していったわ』


『えええっ!?』


 そ、そんな。サラがいてようやくどうにかなった化け物が大量に!?


『けど安心して。大元の植物サンプルである葉っぱが小さかったのと、摘出した魔瘴が残りカスであったからすぐにみんな枯れていったわ』


 なるほど。つまりある程度生物として完成されていないと、あんな風にきちんと化け物化する事はないわけか。


『ええ。そしてこのアルラウネの前身は【歩き草】よ。その特性からして活きは十分。一度生えたら土壌全て埋め尽くして汚染するほどの生命力もあるし、Aランクモンスターとしてはこれ以上ない逸材ね』


『あ、歩き草があんな怪物に変化したっていうんですか!?』


 【歩き草】とは種として埋めてからはしばらく地中に根を張って芽を出さない植物だが、その土地の栄養を吸い尽くしてパンパンに根が膨れて十分な栄養が行き渡ると活発な成長を見せ始め、わずか3日ののちに覚醒。土から出てきてひたすら歩き回るという不気味な植物だ。

 栄養を使い切って死に絶える時は、再びよさそうな土壌を見つけてそこで自身のタネを遺して死に、またそのタネを植え付けられた土壌が汚染され……というループを用いてくるとんでもない有害植物だ。


 タネを植えた段階から確実に土壌が汚染され、そこに自生していた植物を土諸共栄養を吸い取って枯らせるという凶悪な特性から、農家や庭師からは目の敵にされている。

 だが、これでも珍味に数えられる事もある優秀な食材でもあり、イキのいい根っこを適度に加熱して食すとなんとも言えないまろやかな甘味と一緒に身体の底から歩き回りたくなるほどの元気がもらえるのだ。

 栄養を吸われ汚染された土壌も、長い年月が経てばまた元に戻る為、これを利用してこいつを栽培するためだけに栄養満点の土壌のある庭を何軒も用意しているというマニアックな金持ちもいる。


 なおこいつの栽培・養殖は基本的に違法とされており、見つかり次第処罰と処分の対象となってしまう。


 一度根が生えるとちょっとやそっとのことでは自身の侵略した土から離れようとしないので、本当にすごい生命力をもっているちょっと名の知れた草なのだ。

 それがたまたま魔瘴に触れた事であのアルラウネになるんだとしたら……。


『でも、なんでもかんでも魔物化させてないところをみると、この元凶はAランクにまで覚醒するであろう骨のある生物を探して、意図的に増やしている可能性があるわ。或いは、魔瘴を浴びせたけど私の実験みたいに一人前に成長し切らなかった――とか』


『意図的に……なんのためでしょうか』


『さぁね……単純に魔物の仲間を欲しているのか、それとも生態系への混乱が目的か……いずれにしても詳しいことは禁断の地に行けば何か分かるはずよ。何せ一番最初にAランクモンスターの存在が確認されたのがその近辺だったのだからね』


 確かにこれまでの話を踏まえれば、魔瘴を意図的に撒き散らしていた元凶がその辺を拠点として活動していた可能性も大いにあり得ることだ。

 自身の出す瘴気が生き物を魔物に変えたことを知った元凶が、同じようにあちこちで魔物を作っているのだとしたら、早い段階で手を打っておかなければ大変なことになる。

 そいつらが元凶と徒党を組んで世界征服なんて企んでいたら一瞬でこの世の終わりとなってしまう。

 一刻も早く元凶の解明と、その討伐を急がねば。


『わかりました。……それとこっちもその魔瘴で生み出されたと思わしきベヒーモスを上体だけですが確保したので、今からそっちに送りますね』


『やっぱりそこにも既に魔瘴で変化したランクAモンスターがいたのね――ってえ?今なんて?確保したとか送るとか……ってわぁあああああっ!!なんかすごいグロテスクな黒い肉塊が飛んできたんですけどおおおお!』


 念話装置越しにガラガラと何か崩れ落ちるような音がし、ダリアさんの悲鳴が脳内に突き刺さった。

 即席で簡易転移魔法を使ってギルドにいるダリアさんの元にアイテムボックスの中身を転送させてみたけど、どうやら無事成功したようだ。


『あっそれがベヒーモスです。今は封印魔法で眠らせてますので、多分そのまま研究しても大丈夫だと思います。また何かわかったら連絡を――』


 しかし念話装置はだいぶ前に切れてしまっていたらしく、多分もうあっちに僕の声は聞こえていなかった。

 さっきのショックで念話装置をおっことしちゃったのかなら、


 だとしたら申し訳ない。

 反省中の二人は転移魔法を使った僕を見て驚いていた。


「す、すごい!今どうやったんですか!?」


「あぁ。今ねダリアさんから連絡あったから、さっきのベヒーモスをギルドに転送したんだよ」


《なんじゃと!?そんなことできるならわざわざギルドに帰らなくてもずっと探しながらあっちにアイテムを転移して納品すればよかったのではないか?!》


「いや残念だがそれは出来ないのだよサラ。クエスト完了した時は必ず本人と回収アイテムの両方が揃っていることをギルドがきちんと確認する必要があるのだ。中には卑怯なことを考える輩もいるからな。不正を防止するためにも冒険者はクエストを終えたらギルドに戻らなきゃいけないんだ」


《ふん。いつの世もつまらんことを考える愚か者がいるせいで、正直者は割を食って困るのう》


「全くだよ本当にね……」


 会って間もないというのにリーネさんとサラは大分仲良くなっているようだった。


 ハイエルフと炎の精霊。

 やはりお互い高次元で特別な存在同士、何かそういう波長が合うのだろうか。


 僕が答えようと思っていた事を、彼女は全部代弁してくれた。


「ともかく今は先に進もう。けどこの先は本当に危険な地帯だから、仲間同士離れないようにお互いくっついて十分気をつけてから進もう」


「はい!」


《心得た》


「うむ」



「ってすごい偏ってませんかこの体勢!?」


 右にターシャさんの頬、左にリーネさんの頬。

 そして頭部にはサラが。

 確かに離れず歩くとは言ったけど、何もこんなに僕に密着おしくらまんじゅうしなくてもいいのではないだろうか……。


 まぁでもこの方が全員に目が向けられて、危険から守ってあげることが容易になるっちゃなるけどね!

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