戦闘開始ーAランクモンスター
「……なるほど。いやこれは失敬した。まさかキミたちも依頼を受けて調査していただなんて」
いや最初にそう言ってたんですけどね。
そのあとにも何回か言ったんですけどね。
まぁそれはいい。
「ということは……リーネさんも同じように依頼を……」
「あぁ。ギルドはエルフの里支部からだけどな。元来私たちの一族は生物間の均衡を保つために観察と調査を続けてきたのだが、ここ数日の間にどうもその均衡が破られつつあるのだ」
「なるほど……きみほどの実力者が駆り出されるのだから、これは相当な自体が起こっているんだね」
「いやいや何を申すか。その私をキミは片手で打ち倒したのだから、私なんてとても……」
「そうですよ!ロシュア様は世界一強い勇者なんですから!」
《うむ。妾ほどではないが、ご主人様は人間にしてはまあまあ骨のあるやつじゃぞ》
なんかみんなからめちゃくちゃベタ褒めされてるけど、とてもそんな実感湧かないなあ。
「とにかくキミたちが一緒に来てくれるというのなら心強い。私と一緒にどうか禁断の地まで赴いてくれないか。これまでの非礼は謝罪する。すまなかった」
「いや、むしろこちらからお願いしますよリーネさん」
「リーネで良い。ではかたじけない。よろしくなロシュア殿」
彼女が足を動かす度に、そのハイレグ衣装につい目が泳いでしまう。
エルフといえども見た目はほとんど成人女性のようなものだ。
思わず健康的な太ももに見惚れてしまっても仕方ないことだろう。
はっ!
ターシャさんがじーっと僕の顔をジト目で見ている。
い、いや違うんだ。これは不可抗力というやつで……。
「ダメですよロシュア様。ロシュア様は私の未来の旦那様なんですからね。私だけを見ていてください」
「あ、あはは〜……ま、参っちゃうなぁ〜もう……」
これまでの発言を踏まえるとめちゃくちゃヤンデレ感満載なセリフに聞こえてくる。
どうしよう〜……明日起きたら四肢がなくなっててベッドに括り付けられていないだろうな。
「ではまず間違いとはいえキミを傷つけてしまったことを詫びよう。さぁ好きなだけ凌辱の限りを尽くしてくれ」
「いやちょっと待って!」
いきなりハイレグ服を上から脱ごうとしたリーネさんを全力で止めた。
なんなんだこの子は。なんでそんなすぐそういう危なげな発想に至るんだ。
「ん?どうしたのだ?遠慮する必要は無いのだぞ。私はキミにそれだけのことをやられても仕方ない事をしたのだ。存分に捌け口となろうぞ」
「それやられた時となんの違いが!??」
「自発的なものと無理強い的なものとの違いだな」
いやどちらにせよ犯されてるしそれ。
そんなどう転んでもバッドエンドなルートがあってたまるか。
「と、とにかく!そんなに簡単に好きでもない相手に身体を捧げるのはダメだよリーネさん」
「ふむ……では眼球でもくり抜くか?高く売れるぞ」
「ではから続く言葉として確実におかしいからそれ……もっと自分を大事にして!!」
そう言うと彼女は少し照れたような顔つきになり、しばらく目をキョロキョロさせた。
「何もしなくてもいいからさ。もう僕は許したわけだし……他のみんなも……ね?」
「私はロシュア様が許したなら意義なしですよ〜」
《妾もご主人様の決定には逆らえんからのう》
「……す、すまない。本当にかたじけない」
彼女は地に頭をつけ、深々と土下座の姿勢を取った。
なんか本当に真面目な人……真面目なエルフなんだなぁと思った。
多分僕たちを襲ってきたのも、魔瘴を撒き散らす元凶だと思い込んでいたからで、融通の効かなさはあるものの根っからの悪人でも無さそうだ。
そうして僕たちは新たにエルフの戦士リーネさんをメンバーに加えて旅を再開した。
禁断の地が近くなると、先程まで感じなかった瘴気がそこら中から漏れ出ていた。
思わずリーネさんも鼻をつまんでいた。
「ここら一帯からなのだな……強い魔力を感じる。しかし、元凶と言える存在はもういないかもしれないな」
「そうなんですか?」
「ああ……。うまくは言えないが、感知してみた限りではもっと濃ゆいものが以前にこの辺を徘徊しており、ここに残ってるのはその余り……とでも言うべきか」
エルフは人間には感じ取れない気配やオーラなどを感じ取れる器官が生まれつき備わっているそうだ。彼女の場合は嗅覚だ。
それじゃあそんなの絶対ヤバいやつが潜んでいるじゃないか。
下手したら魔王クラスの……。
そういうやつがAランクモンスターを片っ端から生み出しているのだとしたら、天変地異レベルの大厄災だぞ。
岩場に囲まれた地帯にやってきた頃、まだ陽が登っているというのに周囲が暗くなっているようだった。
何かが現れる前触れと思えて仕方ない。
するとその影はまた一段と暗くなっていった。
そして巨大な影はだんだんとこちらを押し潰そうと近づいてゆき――
「!危ない!!逃げろ!!」
リーネさんの叫び声が聞こえていなければ、このまま踏み潰されていたことだろう。
頭で考える前に身体が動いていた。
本能的に危機を察知したのだろうか。
その後ズシンと大きな音が響き、大地が激しく鳴動した。
「な、なんですかこれ――」
「くっ、Aランクモンスター『ベヒーモス』だ!!こいつの体表はとても分厚く、まともに物理攻撃でダメージを与えるのは困難を極めるぞ!!」
リーネさんの解説通り、ベヒーモスは僕たちの何倍もの大きさを誇る黒い巨大な象のような怪物であり、顔はゴブリンや豚を思わせるようなものだった。
首から下はごつごつとした筋肉質な体付きであり、あちこちに痛そうな棘が生えていた。
さっきの影はこいつが踏みつけようとしてきた足だったのだ。
これも魔瘴の影響だというのか。冗談じゃないぞ。
ベヒーモスなんかAランクダンジョンの中でも最難関クラスの強モンスターだぞ!
奴は僕たちを真っ赤な瞳で視認すると、口から灼熱の炎を吐きつけてきた。
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