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激戦とくっころ

「ちょ、ちょっと待って!頼むから話を聞いて――」


「問答無用!」


 ハイエルフの女戦士、リーネは丸腰で無害な僕たちを相手にも容赦なく剣を振るっていた。

 見えるには見えるのだが、それでもかわすのがやっとだ。

 素早い刀の斬撃がワンテンポ遅れて残像になっているあたり、相当早く切りつけられている。


「ふん。悪党の癖になかなかすばしっこいな。普通ならここでバラバラに刻まれているところだが」


「だ、だから待ってよ!僕たちは悪党なんかじゃないって!」


「どこの世界に自ら悪党だと名乗る愚か者がいるか――『第二剣術・(インフェルノ)(ブレイド)』」


 リーネは魔法を使って刀に魔力を込めていった。

 炎魔法が剣全体に行き渡り、刀身には激しい熱が帯びた。

 やがて炎が刀から飛び出して振りかざす度にこちらに燃え盛ってきた。


(あち)!」


「ふっ。今度はちょこまかと逃げ回ろうとしても無駄だ。貴様らを地獄に送る煉獄の炎が現世の罪を断罪してくれようぞ!」


 まずい。

 たしかにこのままじゃ避けても避けても炎が追撃してきてキリがない。

 なんとか打開策を見つけないと……。


「どうした?何故反撃してこない。私が女だからと舐めているのか?」


「いや、僕たちはキミと戦いたいわけじゃないから……」


「ほざけ!」


 なんだかもう何を言ってもまともに取り合ってもらえないようだった。

 融通の効かなさは流石のハイエルフといったところか。

 彼女たちはとても正義感や使命感の強い種族であり、信頼する人物から一度こうと聞かされた時、また自分の確固たる信念で行動している時は、それに対して絶対の忠誠を捧げ何人たりともそれを捻じ曲げることはできないのだと言われている。


 要するに稀に見る頑固者だが、実力を持った頑固者ほど厄介なものはいない。


《ええい何をやっておるのじゃ!ご主人様ならそんなやつ倒してしまえるじゃろう!さっさと反撃せんか!!》


「そ、そんなことできないよ。僕たちは悪党なんかじゃないんだ!話し合って解決しないと!」


 と言ってもその線はもうほとんど薄かったけども。

 しかも今しがたサラの言った『ご主人様なら倒せる』の部分を長い耳で聞き逃さなかったリーネはますます怒りに満ちた表情でこちらを睨んできた。


「ほぅ……お前如き人間風情がこの私に勝てるだと?……いいだろう。ならばこの技を受けてみよ」


「えっ……あ、あのちょっと……」


 突然リーネは振るう刀の手を止め、呪文を詠唱しはじめた。

 すると今度は炎だけでなく水や雷に土や風などの複数の属性魔法が刀に宿っていった。


「あ、あれってロシュア様の合成魔法?!」


「ほう。そこの女。合成魔法は知っているようだな。だがこれはその更に上をいく技……誇り高きエルフの戦士にのみ許された秘技・合成魔法剣術さ!!」


 複数の魔法を帯びた刀が太陽の光を浴びて虹色に変化した。

 異なる属性が一つに折り重なった剣の威力は凄まじく、たった一振りしただけで地面が砕け散って大穴が開くほどだった。


「さぁ――これをその身に受けてみろ!『森羅万象斬』!!」


 とてつもないエネルギーの斬撃が僕に向かって飛び込んできた。

 森羅万象の名前の通り、この世の属性魔法の大半を詰め合わせた強烈な波動が暴風に乗って押し寄せてきた。


「逃げてくださいロシュア様!!」


 その誰もが絶大な魔法剣術の威力を想像し、顔つきが青ざめていった。


 しかし避けようにも斬撃の範囲は思ったよりも凄まじく、今更転移魔法で逃げ出すこともできないので、そのまま受け止めてみることにした。


「ふはははっ!とうとう観念したか!だがもう遅い!我が一撃の前にこの世界から消えて無くなるがいいーっ!!」


 斬撃が僕の手に触れた瞬間、その場に大爆発が起こり周囲に光と風が巻き起こった。


「うわぁあああっ!ろ、ロシュア様……!!」


 やがて光と煙が消えて視界が澄み渡った頃、ターシャさんは目を開けてその場を眺めると愕然として膝を落としていった。


「そ、そんな……ロシュア様……」


「ふっ。無理もない。我が究極の絶技を受けてまともに立っていられる生物なんていないから……な……?」


「ふー。服はボロボロになっちゃったけど、まぁまぁどうにかなったね」


 リーネが途中で言葉を紡ぐのをやめた原因は、恐らく僕が表向き無傷でその場に立っていたことだろう。


 陸地は大きく削れ、穴は底が見えないほど深く開き、到底誰かが生き残ってる様には見えなかったのだ。無理もない。

 足場は僕が立っているところのみを残して跡形もなく消え去っていた。


「ば……ばかな。そんなはずはない……私の森羅万象斬を……い、いやかといて避けられるわけも……」


 凄まじい一撃を受けて生還していた僕を見て、リーネは困惑と動揺を隠しきれない様子だった。

 服についた埃を払って彼女に近づいてみる。


「あの……これ僕たちのライセンスなんだけどさ。僕たちは正真正銘冒険者で、ギルドから正式な依頼を――」


「くっ、殺せ!!」


「いやなんで!?」


 全てがダメだと悟ったエルフのリーネはその場で大の字になって横になり、刀を地に置いて完全降伏の姿勢を見せた。


「さぁ。貴様ら悪党の好きなようにするがいい!あれは私の最大の技だったのだ。もう魔力もほとんど残ってはいない。このまま負けた生き恥を晒すくらいなら……人間にボコボコに殴られて色欲の赴くままに犯され、四肢をもがれた後晒し首にされて吊し上げられるのもよかろう!!」


「何一つよくないんだけど!?!」


 なんだそのとてもじゃないがお見せできないようなとんでもなくおぞましい惨事は!!

 一体全体人間をなんだとおもってるんだこの娘は!


「さぁ早く殺せ!!ひと想いに犯してみろ!!くっ……!」


「いやあの『くっ……』とかではなく……『犯せ』でもなくて……」


「む。ならば金か?しかし生憎だが人間の硬貨は持ち合わせておらぬのだ。エルフの金貨なら多少はあるが……人間の世界では不要なものだろう。ならばどうする?私を奴隷として売り飛ばして高い金にありつくか?それもよかろう」


「いや……ちっともよくないし、そんなことをする気もない……」


「ならば何が望みだというんだ!!」


「話を聞いてください」


「はい」


 こうして長い争いの末、意外にも半ばあっさりとエルフさんに事情を説明することができた。

 横になっていた彼女は起き上がって正座して説明を聞いてくれた。

 いや真面目か。あとここ石がゴロゴロしてるからふともも丸出しのキミにはめちゃくちゃ痛いと思うから無理しないで。

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