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成果報告と新たな冒険

「いらっしゃい……おおっ。そのお姿はもしやロシュア様御一行ですな。もうクエストクリアしたのですか?」


「うん。とりあえずこれ納品しますから確認よろしくお願いしますね」


「はーい。って随分個性的なアイテムボックスだね。どこで買ったの?」


「いや自作です」


「ふぁ!?」


 ガーベラさんは何度も何度も僕特製のアイテムボックス(野草と木の枝仕立て)を物珍しそうにさすって眺めていた。


「はぇー……すっごいこれ。うんすっごいよ」


「いや語彙力」


「いやいや。真面目にこれは凄いよロシュア君。まぁ私もギルドの受付嬢やってそこそこ経つけど、アイテムボックスを生成しちゃう魔法なんて寡聞にして聞いたことがないからねうん。しかも全部Fランク級のありふれた素材でこれほどの物を作るなんて……例えるなら水のない場所で水遁の術を使ったくらいすごいんだよこれ」


 何がどうすごいのかいまいち要領を得ない賞賛の御言葉だったが、まぁなんでもいいか。

 とりあえず今回のクエスト分だけでも回収してもらおう。

 まだまだこの後聞いてもらいたい話がいっぱいあるのだ。

 先に用事を片付けておくとしよう。


 まずは僕の回収分。


 アイテム、普通薬草30本(指定アイテム)。

 毒消し草15本(指定アイテム)そして月光草7本(指定アイテム)だ。


「うん。確かに回収必須内容オールクリアです!おめでとうございます!クエスト達成です!」


「わーい」


 これでこのクエストの累計クリア数は52回目だ。

 初めの頃はこればっか周回してたっけな……。

 懐かしい。こうして改めて初心を思い返してみると、今まで色々なことをしてきたのだなとしみじみ痛感する。


 お次はターシャさん。

 アイテム、シロハーブ32枚、ゼンマイ草28本、月光草20本(指定アイテム)、毒消し草20本(指定アイテム)そして普通薬草40本(指定アイテム)だ。


「色々拾ってきたみたいですね〜。ま、指定品以外は受け取れないので大事にしちゃっててください。そんでえーとはい!確かに回収必須内容オールクリアです!クエスト達成おめでとう!!」


「わーい!やりましたよロシュア様!」


 ぽよんぽよんと彼女の胸が揺れ、こちらに覆い被さってくる。

 ま、前が見えないげほげほ。


「あっ、すみません。つい嬉しくって……」


「まぁわかるよ。初めてのクエストだもんね」


 ちなみに僕は初見で15時間ほど森中探しまくって迷子になった上に、クエストは失敗だった。

 それを思うと彼女は自分一人の力でここまでやってのけたのだ。

 これはもう手放しで賞賛に値する出来事だろう。おめでとうターシャさん。


 最後にサラが自信満々にアイテムボックスを突き出した。


《どうじゃ?妾の戦利品は!》


「…………うーん……残念ながらこの中に指定された回収必須アイテムは一つも入っていないみたいですね」


《な、なんじゃと!ほ、ほほほ本当にそうじゃろうな?!何回も確認したか!?で、デタラメ申して妾を(たばか)ってはおらんじゃろうな!!》


 いやすごい焦りようだな。

 助言禁止だろうから今の今まで言わなかったけど、サラちゃん大分周回遅れな上に何一つ正しいアイテムは入っていなかったのだ。


 ちなみに彼女のアイテム、木の枝、小石、ありふれた野草、小石(中)、焦げた肉そして灰だった。


「ということは申し訳ないんですが……サラさんはクエスト失敗になっちゃいますね……」


《いやぁああああああっ!!》


 彼女の悲痛な叫び声がいつまでもどこまでもギルドのロビーに響き渡ることだった……。


 というかよくそれであんなに自信たっぷりにアイテムを曝け出せたな。どう考えても僕らの出したものと一致してないだろうに。


「いやーまさかこのクエストこんなにカスリもしないで失敗した人初めて見ましたよ〜まぁ次回またがんばりましょ!」


《く、……草なんてどれも同じだもん!!妾にとっては毒消し草だろうがほにゃらら草だろうが瑣末な問題じゃもん!!》


 目に涙をいっぱいにしてプルプル震えている姿に、一抹の哀れみと切なさが感じられる。

 あんなに頑張ってくれたのに……。

 こんなことでポンコツ扱いになるなんて不憫といえば不憫だ。


 ってそうそう。それで思い出した。


「あの、すみません……ちょっとクエストで散策している時にですね、奇妙な出来事が発生したんですよ」


「ふむふむ。何かね」


 そうして僕はアルラウネの種をカバンから取り出し、ガーベラさんに見せた。

 ガーベラさんはどこからともなく赤縁のメガネを取り出して、じっくりと種を凝視していた。


「こいつは?」


「それはアルラウネの遺した種なんですけど」


「待って待ってウェイワッツ??ユーなんて?あ、洗うね?」


「アルラウネの遺した種なんですけど」


「オーッ!!ジーザスシッツ!!なんてこった!聞き間違いじゃなかったみてぇだなハハッ!おいおいおい。兄ちゃん。嘘はついてねぇんだろうが、ドッキリにしちゃあ流石に悪趣味が過ぎるぜ。君たちが訪れたのはランクFの森!そりゃ中には初心者にはちーとだけ扱いにくい獣がうようよいるけどもだね。それでも超親切!超楽勝!それを……アルラウネ?そんなA級の化け物が跋扈している訳ないじゃないですかヤダー」


 ……まぁこういう反応になるわな。

 信じてもらおうにも種しかないんじゃどうしようもないか。

 ならせめて魔瘴の話でもしておこう。


「僕もそう思ってたんですが、実際に襲ってきましてね……で、その前なんですよ。なんか妙に森中の瘴気が濃くなったというか……」


「ほほう?」


「その時いきなりウェアウルフがそれはもう獰猛になったご様子で襲いかかってきてですね。その先にいたのがアルラウネってわけなんですよ」


「その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 僕らの会話に上からの声で割って入ってきたのは、全身を白衣で包んだメガネのお姉さんだった。

 茶髪でおでこ出しの長髪。先端はクルクルカールが愛らしい知的で聡明そうな人が階段から降りてきた。


「あっ、ダリア!」


 ダリアと呼ばれたいかにも学者っぽいお姉さんは、口元のほくろを吊り上げてにっこりと微笑みかけてきた。


「初めまして冒険者さん。私はダリア。このギルドでちょっとした生物実験とか生き物の生体調査とか担当させてもらってるの。ま、よろしくね」


「僕はロシュアと申します。どうもよろしく……」


「よろしくお願いしますねダリアさん。私、ロシュア様の未来のお嫁さんターシャです。何卒清らかな関係をっ」


 なんかいきなり横から凄まじい圧かけてきたなターシャさん。

 お相手が女性だからってそんなにムキにならなくても……。

 ダリアさんきょとんとしちゃったし。


「え、ええ。よろしく……アナタ、ユニークな仲間を連れているのね」


 彼女が面白そうにそう言ったのは、何もターシャさんのことだけではなかった。

 ダリアさんは火の精霊であるサラのところにもやってきて手を振った。


「やっほー。もしかしてアナタ、サラマンダーかしら?」


《えっ……あ、あぁよろしく……》


「テンション低!!」


 意気揚々と挑戦したクエストが失敗に終わったことで、彼女の炎は既に風前の灯火――というかもうほとんど消えかかって灰がかっていた。

 部屋の隅でじめじめしていた彼女に、ダリアさんは明るく振る舞っていた。


「すごいわ。本物の伝説に会えるなんて!私人間として感激だわ!!」


《ふふん!!当たり前じゃよ!妾はなんせサラマンダーじゃからな!》


 炎の精霊様は思ったよりも単純チョロインだった。

 もしやこのお姉さん、ツボを心得ておるな……?

 立ち直った炎の精霊さんをガン無視してこちらに来たあたり、完全に手玉に取っていることが窺える。

 人類のたゆまぬ進歩に一万年の伝説が懐柔され敗北する様を目の当たりにし、世の無常を感じざるを得ない。


「――でえっと。アルラウネよね?突然魔瘴が濃くなったって話だけど」


「あっ、はい……まぁ運良く倒せたんですが」


「実を言うとね、ここ最近あちこちでそういったA級モンスターによる被害が確認されているのよ」


「えっそうなの?」


 ガーベラさんはダリアさんの話を聞いて目と耳を丸くしていた。

 おい。ギルド内の情報統制よ。


「そのことについて調べていたらね……全ての事例において『高濃度の魔瘴』が確認されたのよ。それもA級モンスターの周りでね」


「そ、そうなんですか?」


「今現在キミたちから貰った情報を元に、私なりの仮説を立ててみるんだけど、もしかしたらあちこちで瘴気を撒き散らして生き物を活性化させている元凶がいるのかもしれないわ」


「そんなことができる魔物がいるんですか」


「そこでちょっとその原因となる地域を調べて来て欲しいのよね〜」


 彼女は白衣のポケットから紙切れを取り出して僕に手渡してきた。


「なんですかこれ」


「それは今さっき私が立てた仮説――その元凶とやらが活動していたと思わしき最初の場所が記されている地図なの。そこにいけば何か掴めるかもしれないのよ。……ただ、今なかなかそこに都合良く行けるイキのいい冒険者くんがいなくってねー」


「ちょ、ダリア。この人たちを行かせるっていうの!?だって超A級の魔物とかいるんだよ!?」


 ガーベラさんは机を叩いて激しく抗議した。

 額からは汗を垂らし、表情は真剣そのものだった。


「あら。彼らはそんなA級の怪物アルラウネを無事撃破し、こうしてここに五体満足でちゃんと生存して帰ってきてるのよ。それに伝説の精霊様もいるんだし大丈夫よ」


《もっと褒めろ》


 嬉しさからぴょんぴょんと飛び跳ねるサラの頭を、ダリアさんは撫で撫でしていた。


「それだってホントかどうか……」


「まぁそれは今から研究室で調べればわかることだわ。それじゃあ何かあったらこれに連絡してね」


 そして彼女はまたまたポケットから奇妙な形をした金属器を渡してきた。


「これは……?」


「それは私の考案した『念話装置』!所持者の魔力に応じて話したいことを頭で思い浮かべると、その念話をこっちの受信器で受け取ると、なんと相手とそのまま念話でお話できちゃうというすっごい発明品でーす」


「えええ!?そ、それはすごいですね」


「……ただ送信側は結構な時間と大量の魔力を送り続けてなきゃ話せないから結局おじゃんになったんだけどね。まぁ大事な情報とかあったら数秒だけでも連絡してきて」


 すごすぎる装置だとは思ったが、なるほどそんなデメリットがあったわけか。

 しかし離れた場所にいてもどこでも情報を共有できるというのは便利だ。

 通常の『念話』は使用者の魔力にもよるが、大体10メートルも離れてしまえば効果を発揮しなくなってしまう。

 それを思えば数秒程度でも上等だ。

 ダンジョンで何か化け物に遭遇しても『助けて!』とだけ叫べば十分状況を把握してくれるだろう。……助けが着く前に死んでそうな状況だけどそれ。


 いただいた金属器を手に、早速僕たちはダリアさんの――そしてギルドからの依頼を受けて出発の準備を進めていった。

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