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クエスト、完了?

「どうしようかこれ」


 ギルドに報告……しておいた方がいいのかな。

 何やら得体の知れない状況になっているようだし。

 しかし何もかもがわからないので信憑性を欠いていると思われてしまうのではないだろうか。

 僕は焼け落ちたアルラウネの種を拾い上げ、手荷物に入れようとした。

 しかしバッグはアイテムボックスと違って、薬草数個入れただけでパンパンになってしまうほど容量が小さかった。


 しまった。迂闊だった。

 そういえばアイテムボックスも撤収されてしまったんだっけ。

 全く。荷物係の僕から荷物を取り上げたら何が残るっていうんだ。ぷんぷん。


「しょーがないや……今作るか」


 元はといえばあのチームのアイテムボックスを作ったのも何を隠そうこの僕だった。

 耐久性と機能性に優れた渾身の自信作だったと記憶している。

 なんかもうすっかりそのアイテムボックスがある前提で草を積みまくって突っ込んでた。

 アイテムボックスは普段見えなくすることもできるし、入り口だけ別の空間(たとえば服のポケット)にしておく事でそのままアイテムを転送できたりもする。

 今持ってる材料は薬草少々、アルラウネの種は使えないにしても跡にあるこのねばっちい葉っぱとかは使えるかもしれない。

 小枝をちょっと拝借してこれを骨組みとしようか。

 多分……というかほぼ間違いなく不恰好な物が出来上がるだろうけど、それでもアイテムボックスには変わりない!


「?ロシュア様、何をなさっているんですか?」


「まぁ見ててよ。『錬成』――『アイテムボックス』!」


 手品師が何もないところからポンっと物体を出すみたいに、小気味いい破裂音と共に材料だったものたちが見事なアイテムボックスに早変わりした。

 直後――どっと肩の上に何か鉛のようなものが乗った感覚がして、全身に疲労と倦怠感が押し寄せてきた。


 ふ、ふぅ……。

 久しぶりにアイテムボックス錬成したぞ。


「な、なんですかこの箱は」


「そ……それはアイテムボックスって言ってね……はぁはぁ、その中に色んなアイテムを詰め込んで持ち帰ることが……はぁはぁ、できる冒険者にはか、欠かせない一品なんだ……」


「へ、へぇー……って今それ作ったんですか!?あんな木や葉っぱだけで!!すごいですね!!」


 彼女が手を叩いて賞賛してくれた。

 そう言ってくれると作った甲斐があるというもの。

 しかもちゃんと人数分3つ作ったぞ。ふー。

 アルラウネと戦った時より疲れちゃった。

 まぁ一通り薬草は回収したし、ここらでひと休みしていくか。


 出来立てほやほやのアイテムボックスに回収指定薬草を詰め込んで、木々を枕に横になった。


 その後すぐに僕のお腹からここ一番で一際大きな音が鳴り響いた。


 ……そういえば朝から何も食べてないや。

 腹ペコだ。


 見かねたターシャさんが目を輝かせて言った。


「そうだ!!この際ですから私、今度こそロシュア様に美味しいご飯作ってみせます!!」


「い、いやいいよそんな……ターシャさんは自分の分の薬草を集めないと……」


 このクエスト、チームで受けてる訳じゃないからこのままだと僕一人だけクリアになって他のみんなは失敗扱いになってしまう。


「ご心配なく!私も回収は終わりましたから!」


 彼女は自信満々に取ってきた野草を見せつけて、彼女用のアイテムボックスの中に大事にしまった。


 所々違う野草が入ってこそいるものの、ほとんど正解の薬草もきちんと集めていた。

 特に月光草は充実しているように見えた。

 まぁクリアできてるならいいか……。


「でもこの辺ご飯になりそうなものなんてあったっけ……」


「うーん。とりあえずあそこに生えてた赤と紫色のカラフルなキノコを具材に――」


「それ毒あるやつじゃん!!」


 この森毒になる方法なんて無いって言ったけど、ひとつだけあるじゃないか!!

 ……いや毒っていうか、なんか混乱したり麻痺したり頭がおかしくなったりしそうだな。

 むしろなんでそれを食材にできそうだと思ったんだこの人は。


 メシマズだなんて酷いことは言うつもりはないけど、それでも料理を任せるわけにはいかない危うさがあるぞ。


《ふふ。なんじゃお主。おなごのくせにマトモに料理一つできんのか》


「な、なによ!出来なかったらなんだっていうのよ!」


《いやいやこれは失敬。お主は散々我がご主人様の伴侶になるなどと夢心地でほざいておったみたいじゃが、それだと亭主は苦労することになると思ってな。のぅご主人?》


「え、え、え。そ、そそそんな振られても……」


 勝ち誇ったような顔を浮かべるサラに対して、ターシャさんは服の布を悔しそうに噛み締めていた。


「むきーっ!じゃあアンタは料理できるってわけ?」


《料理じゃと?そんな物必要ない。この森にいる生物を一通り焼き払ってこんがり焼けた肉を食えばよかろう》


「ふぇっ!?」


 炎の精霊様はさらっととんでもない事を申された。

 人間が焼いて物を食うことに関してのご理解はあるようだが、色々果てしなく間違っておられる気がするぞ。


《まぁ見ておれ――》


「ちょちょちょ、ちょっと!?サラさん?!」


 お戯れ……いえご乱心をおやめください!!

 あなたの魔力で焼いたらこの森消えますから!


《おいおいご主人様、そなたじゃないんじゃぞ。一万年以上魔法と共にあった妾が自分の魔法ひとつ御せぬとお思いか?だとしたらとんだ思い違いも甚だしいぞ。妾はそなたよりも魔法を扱う歴が長い、言わば魔法に於ける先導者なのじゃからな》


 得意満面の笑みを浮かべ、サラは両手から炎の龍を浮かび上がらせた。


《『双炎煉獄龍』》




   ◇ ◇ ◇



 まぁ予想通りというか。

 森は跡形もなく焼き払われましたよええ。

 たしかにこんがりボアやウェアウルフやらのお肉は焼き上がりましたが、火力高すぎてこんがりどころじゃ済まない黒炭と化してしまいました。


《ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……》


 大切な自然を焼き払ってしまった事を、彼女は深く深く地に頭を擦り付けて謝罪していた。

 炎の精霊の土下座なんて何気に滅多に拝めない……いや、生きてる限り普通ならまず見る事のない情けない事この上ない光景だろう。


 というか散々フラグ立てておいてこれですか。

 よくもまぁ魔法なら自分の方が先輩だなどと息巻いていたものだ。

 これならまだ僕の方がなんぼか出力コントロールできるぞ。

 森っていうかもうちょっとした戦争が行われたみたいな焼け野原になっちゃったし。


「『再生』」


 残す魔力を全て使い果たし、僕は焼け落ちた薬草の森を元通りにした。

 流石にこれだけの範囲を元に戻すには、相当な労力を要求され、もう指一本動かせなくなってしまった。


「あっロシュア様。大丈夫ですか?」


「ぬわぁあ……つ、疲れたぁ」


「それなら私がだっこして差し上げましょうか!?」


「う、うんそれはまぁ構わないけど……」


 果たして成人女性より少し細腕の彼女に、ある程度思春期を迎えた青年を持ち上げられるのか。

 それでも彼女はやる気満々だった。

 火事場の馬鹿力とでもいうやつか、ターシャさんは僕なんか綿のよう――羽のように軽いと言った具合で楽々持ち上げていた。


「あぁあああ!夢だったの!一度こうして大好きな殿方をお姫様抱っこするのがっ!!」


「そ、そうだったの?」


「もう本望です!!さっ、早くタキシードに着替えて私とこのまま人生のゴールインをなさいましょう!?」


「今すぐ降ろしてぇええ!!!」


 このままだと何処に連れて行かれるかわかったもんじゃない。

 しかし疲れ切って一歩も歩けない僕にとって、今は彼女だけが頼れる足なのだ。

 おまけに今の力では彼女の腕から逃げ出すことさえできない。


「ん?どうしたんでちゅか?そんなに暴れたら落っこちちゃいますよ〜ほれほれ〜」


「な、なんか密かな母性が炸裂してない?」


 彼女はまるで赤ん坊でもあやすように腕の中で抱かれた僕の頭を撫で回していた。

 やめてくれ。そういう趣味はないんだ。

 健全にいこうじゃないか心も体も。


 こうして僕らはそのまま森を抜け出し、地道にひた歩きでギルドまでクエストの事やら色んな出来事を報告しに向かった。

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