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クエスト・in・the・ウッズ

 今回僕たちが受注した依頼はこうだ。


【F難易度クエスト:薬草採取】


 ・指定された薬草を必要数集めてくる事(手段は問わない)


 回収必須指定薬草

 ・普通薬草 :30本


 ・毒消し草 :15本


 ・月光草  :7本


 以下は集めなくても良いが、あると大きく評価に貢献するもの


 黄金草、世界樹のひと枝、マンドラゴラ(原種)、夢幻草、竜王の蹄



 このように回収必須指定薬草を必要個数集めてくることが、今回のクエストのクリアにおける大前提である。

 そのためにまず僕たちが訪れる場所はこれまた薬草採取にうってつけな森、『ノンキットの森』だ。

 なんだか暢気な響きの大人しそうな森だが、これも立派なギルド指定冒険者区域となっており、一般人の立ち入りは基本的に許可されていない。

 リュリールの街から少し歩いた東に茂るこの森は、鳥や木の葉が舞い踊る比較的安全でのどかな森だ。一見は。


 だが、ギルドが指定した最低難易度「G」(つまり無害)ではない。

 武器を持たない民間人の侵入を拒むこの森には、常人では対処し切れない危険が少なからず存在するということだ。


 まずモンスターが生息すること。

 これが難易度を跳ね上げている最大の要因となっている。

 「え?いやいやモンスターが出るっていっても所詮難易度F程度の雑魚モンスターだろ?楽勝楽勝」などと考えていると痛い目に遭うのがお約束。


 実はこの森には非常に血気盛んな【ウェアウルフ】や赤いものを視認するや否や見境なく一直線に突撃してくる【レッドボア】などが生息している。

 こいつらは討伐難易度Dにも該当することもある危険なモンスターだ。

 何故そんな化け物が存在するのにランクFという詐欺が語られているのだ。ランクDにまで引き上げるべきだ!とお怒りになる冒険者たちもいる。


 だが、こいつらはある特徴に沿って襲い掛かってくるだけなので、知識があればFランク冒険者でもなんとか対処できる。

 そして目的となるのは飽くまでも【薬草採取】。

 【怪物掃討】ではないのでこのランク付けは妥当なのである。

 それでも危険地帯に飛び込むんだからその分難易度は上げて欲しいものだが。


「よーし。それじゃあ薬草をとっていこうか」


「はいっ!」


《ふわぁあ……》


 この広い森には薬草以外にも様々な野草が生えている。

 足元に点在している赤い草はメバキ草だ。

 一見いかにも!な薬草っぽい山菜だが、ただの草である。

 回収対象どころかアイテムですらない。

 なんの効果もない無能力アイテムである。

 売ってもいいが、効果のないアイテムは一律1ジール(青銅貨一枚)だ。


 カタツムリの抜け殻みたいな草は【ゼンマイ草】だ。

 これは歴としたアイテムだが、回収対象ではないし薬草ではない。

 所謂錬金術に活用できるアイテムだ。

 と言ってもレアリティは低い。ありふれている。


 ちなみにクエスト最中に入手したアイテムのうち、回収対象以外のアイテムはそのまま持ち帰っても良いことになっている。

 とはいえそれに目を奪われて荷物パンパンにして、肝心の指定回収アイテムを持ち帰ることを忘れてしまっては本末転倒だ。

 袋にも限りがあるので、基本的に指定回収優先で余ったスペースにレアリティの高いアイテムから順に詰めていけばいい。


「あっ!見つけましたよ!これどうでしょう!」


 やがてターシャさんが両手いっぱいに【シロハーブ】と【ゼンマイ草】を抱えてやってきた。


 【シロハーブ】は嗅ぐと混乱状態や麻痺状態を治す〝こともある〟比較的優秀なアイテムだ。

 しかしどれもこれも薬草ではない。

 が、僕が口出すわけにはいかない。


「うんいいんじゃないかな」


 協力することは禁止されているので、下手に助言することもできない。

 うーんそうなると後で教えてあげることに……なるのかなあ。

 同ランクだったら助け合うのはアリにしてほしいな。

 これだからパーティーを作っておく事にメリットがあるのだ。

 あと1人いないとそれは叶わない。

 満面の笑顔でうきうきしながら戻っていく彼女に若干の罪悪感を覚えながら、僕はひたすら薬草を探しに森を散策した。

 初心者向けながら捜索範囲がかなり広いため、回収薬草が何か知っている僕であっても、これは中々に骨の折れる作業であった。


 中には上級者でもうっかりするとひっかかりそうな色違いトラップも存在する。

 例えば毒消し草は紫色で真ん中に白い筋が刻まれているのだが、これに限りなく類似したマンドラ草というのがある。マンドラゴラではない。

 毒消し草の紫とほぼ同じ色で、更に中央に白い筋がある。

 違いは大きさのみ。あとは服用してからの効果?

 といってもここに毒の沼地もなければ、毒攻撃を使ってくるモンスターもいないので、試しようがない。


 肉眼での捜索は意外にも困難だ。

 まあ初心者は失敗を重ねて、何が危険で何が安全かを身をもって学んでいくのだ。

 簡単そうに見えて奥深い。クエストのイロハを学ぶにはまさにうってつけなのである。


「『範囲感知(サーチ)』」


 サーチは比較的重宝することの多い魔法だ。

 範囲を広げることも絞ることもでき、目に見えない魔法陣を張り巡らせることで、その範囲に存在する魔力を放つ物質や生物を感知することができる。

 人間を探す場合は『探知魔法(エクスプローラー)』の方が便利だ。

 基本的に僕はこの二つを使い分けて探索に臨んでいた。

 もちろん高難度になるにつれ、道中のアイテムよりも主モンスターを早く、そしてクリア後すぐさま別のダンジョンに赴き多く倒す方が効率的になっていったので、お役御免になったのは言うまでもない話だ。


 早速嫌がらせトラップのような毒消し草七連戦も、一本だけ光を放つ野草を発見する事に成功した。

 並びにマンドラ草に挟まれて毒消し草がぽつんと生え揃っている。

 こんなの誰が初見で判別できるんだ。

 そうして回収の難しい毒消し草を7枚ほど回収し、他の毒消し草も探しに行った。

 ターシャさんは片手に溢れそうなほどこれまで手に入れた野草を抱え込んでいたが、ふとその手の中に回収対象である【月光草】が入っているのを確認した。


「えっ、ターシャさんすごいね」


「そうですか?ふふ。私月光草だけは集めるの得意なんですよ」


 彼女は数ある野草の中から正確に月光草を摘み集めていた。

 一番回収必須個数が少ないのは、それなりに珍しい薬草であるからだ。

 月光の名にある通り、夜にしか目立たない地帯にひっそりと人知れず生えているのだ。

 僕でも補助魔法禁止で探すとなると普通に日が暮れてしまうだろう。

 それを彼女はいとも容易く集めていき、回収ノルマをとっくに達成しているほどだった。


「見習い時代に月光草は神聖な薬草だからと、教会総出で集めに行くことがあったんですよ〜」


「なるほどね。そういえばそんな逸話があったような気がするよ」


 月の光に照らされると青く美しい淡い光を放つこの薬草は、とある地域では神の座す植物として存在を神聖視されているそうだ。

 単に服用するだけで麻痺を完全に回復するだけでなく、これを染物に使うと美しい青色の着物が出来上がるのだ。


 すごい特技だなあ。ターシャさん。


「そんなに褒められると照れちゃって脱ぎたくなっちゃいますよ……」


「いや脱がないで」


 ナチュラルに露出宣言されても反応に困ります。

 着れる服は着てください。

 刺されても知りませんよ。


 なんて言ってたら突然木の影からガサガサと生き物が動く音がした。

 その場から逃げることもままならず、一匹の血に飢えた【ウェアウルフ】が血走った目つきでこちらを見つめて唸っていた。


「な、なんですかこいつ!」


「落ち着いてターシャさん。こいつは【ウェアウルフ】。鋭い牙と爪を持つ魔物だけど、強さ的にはまだまだ初級レベルだから」


 多分さっきの暴漢7人衆の方が強い。

 噛まれても回復できるし毒も麻痺もない。

 いつもなら遭遇しても怒らせず、下手に刺激せずに黙ってやり過ごせばよかったのだが、今回の彼は様子が違う。

 いつもよりも目を真っ赤に染めており、もう既に怒っているような感じだった。


「来る……!」


 薬草で手一杯となっている彼女の前に立ち、ウェアウルフの突撃に備えた。

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