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いざ、クエストへ!②

「るんるん〜ロシュア様と一緒に初クエスト〜楽しみだな〜ふふふっ」


 人生初のクエストに際して、ターシャさんはとてもご機嫌の様子だった。

 僕もはじめての時は随分と心が躍ったものだ。

 目に映るもの全てが新鮮で美しいときめきとワクワクに満ちた世界だった。

 一人前の仲間入りができたなどとはしゃいでいた事もあったなぁ。


 すっかり遠い日を思い出すように明後日の方向を見つめていた僕の前に髭面で筋肉質の男が現れた。


「げへへ……おいおいお嬢ちゃんたち。今からクエストかい?へっへっへ……」


 いきなり現れて随分な態度だったが、やがて男たちは僕たちの逃げ場を無くすように集団で囲んできた。

 なんでそんなことを知っているのか――答えは単純。

 あの場に居合わせていたからだ。


 どこかでひっそりと息を潜め、蛇の如く監視して僕たちのような初心冒険者たちから有り金を奪ったり、恐喝したりするためだ。


「あの……すみませんが私たち急いでいるので……」


 そんな彼らのいやらしい魂胆を敏感に肌で感じ取ったのだろう。

 ターシャは眉間に皺を寄せ、嫌悪感丸出しの状態でそいつらを無視して先に進もうとした。


 が、その瞬間。


「きゃあっ!」


「へへへ……つれねぇこと言うなよお嬢ちゃんさぁ」


「ターシャ!」


 彼女の細い腕は男の太くて長い手に捕まれ、嫌がる彼女を無理やり地面に押さえつけた。


「お前らみたいな女子供風情がよ〜冒険者名乗ろうなんざ百年早いってわけだ!!げへへ!てなわけでよ早速オレたち〝本物〟の冒険者様たちの〝慰め〟ってやつをしてもらおうじゃねーのよへへへ!」


 彼の汚い笑い声に同調するように、男たちは下品な顔つきでターシャたちに近寄っていった。


「いやぁ!助けて……もごご」


「おい騒ぐんじゃねぇよクソアマ。その顔傷モノにされたくねぇだろ?」


 大声で叫ぼうとした彼女の口を薄汚い布で塞ぎ、鋭く尖ったナイフの切先を向けていた。


 全く。僕たちが低ランク冒険者というだけで、一歩ギルドの目の及ばない範囲に出たらすぐこれだ。

 まあどう見ても強そうじゃないもんな僕ら。


 だがそれで仲間たちに手を出そうとするのをこっちも「はいそうですか」と受け入れるわけにはいかない。


「やめろ。僕の仲間から離れろ」


「あぁん?なんだてめぇは。すっこんでろ!今俺はお楽しみに突入するいいとこなんだからよ!」


 思考回路的にはこいつら最初にターシャさんを襲おうとした盗賊となんら変わらないな。


 ざっと見たところ7人。

 数による暴力に頼っている時点で二流。

 服装・武器ともに目立った点は認められない。

 その辺で調達した可能性、大。

 特殊な魔法器や金属器の所持は確認できず。

 囮やこちらを油断させるために行なっている可能性も捨てがたいが、それでもこちらはAランクレベルの炎の精霊様にこれでも元Aランクパーティーで怪物相手に命からがらの死闘を繰り広げてきたのだ。


 僕の見立てが正しければ、こいつらはCかD程度。

 取るに足らない連中だ。ナイフで威嚇なんかしてくれてるけど、つるまないと1人では何もできない輩ばかりだ。


 【身体強化】の魔法を使って基本能力を底上げする。

 こんな魔法使う必要もないのだが、まあ一応念のため。


「おらあああ!死ねえええ!!」


 大男のふりかざしたナイフが僕の額に突き刺さる――


 が、その瞬間ナイフの刀身は真っ二つに叩き割れ、男はただ困惑するばかりだった。


「そ、そんなばか――おごぅ」


 そこへすかさず僕のアッパーカットが突き刺さる。

 ……ん?この場合ボディーブローか?

 やれやれ格闘技は詳しくないのでまるでわからん。


「あ、兄貴!」


「野郎ぉ!よくも兄貴を!」


 そうして一撃で地に伏した大柄の男を「兄貴」と呼んで慕う部下たちの敵討ちが始まろうとしていた。

 残る6人全員がナイフを構えており、いくらなんでもあんなものが一斉に突きつけられれば、流石の僕でもただでは済まないだろう。


 だからそうなる前に【蹴る】ことにした。


「『伸縮強化』」


「ぐわあああっ!!」


「な、なんだこいつ!妙な魔法を使いやごほぉ!!」


 強化された身体能力と、体の一部にかけることで最大50メートルまで伸ばすことができる伸縮強化の魔法で押し寄せる連中を一網打尽にした。


 ちなみにこれでも一応手加減はしている。

 本気でやり返そうものなら、今頃こいつらの首から下は消し飛んでいたことだろう。

 それはいくらなんでもまずい。

 相手が喧嘩を売ってきた上に暴力で事に及ぼうと無理強いをしてきたアウトローといえど、冒険者同士で殺し合いなんて以ての外だ。

 こんな奴らのために僕たちが殺人犯の汚名を被る必要なんてない。


 デコピンの風圧でどこまで人間倒しできるか試してみたかったが、まぁこれでいいだろう。


 最後に鉄拳を腹部に受け、激しくのたうち回っていた大男(通称兄貴)がゆっくりと痛む腹を押さえながら立ち上がってきた。


「く……くぞっ覚えでやがれっ……!」


 口内から多量の血を噴き出しながら捨て台詞を吐き、彼は仲間を見捨てて自分一人だけ逃げていってしまった。


「べーっだ!ロシュア様に楯突くからそんな目にあうのよ!……うわぁああん!怖かったですロシュア様!」


「大丈夫?どこも怪我してない?」


「は、はい……ロシュア様に2回も助けていただけるなんて、ターシャは幸せものです……♡」


 完全にうっとりモードに入ってしまっていた。

 なんの気なしに押し付けてくる彼女の大房山が僕の心を掻き乱す。

 ええい失せろ欲望め。それでは襲ってきた男どもとまるっきり一緒だぞ。

 精神を清らかに保て!

 煩悩滅却。


 深呼吸して落ち着かせ、どうにかターシャの放つふわっとした花の芳香と柔らかいものの誘惑に耐えることができた。


 さっ、しょっぱなから出鼻くじかれちゃったけど気を取り直してクエストに出発だ。

 ゴロツキどもとまた巡り合わないよう、僕たちは駆け足で街を出ていった。

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