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適性検査と実力測定!?

「よし……これで再生完了……っと」


 はー。僕のせいとはいえ、今日でもう何回この魔法使ったっけ。

 ギルドの統率者でも疲れるくらいの大魔法だと発覚したのだ。

 疲れないわけがない。


 やがて元通り綺麗になったベビーサタン、リリスちゃんがその姿を現し――



「ばぁぶ……」


「もっ…………戻し過ぎたぁあああーっ!!」


 待て待て待て。なんだこの再生魔法は!

 確かにワインや傷やら戻したの納得できるよ?

 それに壊しちゃった水晶も新品同様に戻ったよねうん。

 そこまでは理解できるよ?


 なんで幼体の悪魔王(ベビーサタン)をマジモンの赤ん坊(ベビー)にしてくれてんだ。

 元通りってか、これじゃあ幼児化じゃないか。


「こ、こういうときどうすればいいんだろ……」


 じゃあ今度は進化させてみよう!

 なんてそう都合良く事が運ぶようなご都合魔法は存在しなかった。

 いや、僕の預かり知らぬところではもしかしたら存在するのかもしらないけど、僕はそんな魔法覚えていなかった。


 まぁ仮にもし覚えていたとしても、今度はどうせヨボヨボのおばあちゃんになって四苦八苦する未来が容易に想像できる。


「ごめんなさい……リリスちゃんこんなにしちゃって……」


「あー。いいんですよ。むしろこれでまたイチから十までみっちり仕込んでじっくりと調教できますから……ふへへ」


 そうかよかった。


 ……ん?今とても不穏なワードが聞こえた気がするけど……。

 ま、まぁいいか。

 

 ふぅー。いやーガーベラさんが許してくれたから、これで全てが解決した。

 よかったよかった。


 ある意味賭けだったんだ。でも僕は仲間の命を天秤にかけて、それを上回る利益がその先にあるなんて到底考えられなかった。

 気絶されてしまえばよかっただけなんだけど……。

 どの程度まで通用するのかまだわからないな。

 まともに戦ったことが少ない僕にとって、適切な力加減というのは一種の課題みたいなものだ。


 仲間を救うために飛び出したはいいが、敵諸共消し去ってしまっては意味がない。

 あー……それなら素手で戦ってもよかったのか。


 つい頭に血が上ってしまい、そういう冷静な判断もできなくなってしまっていた。

 未熟な自分が憎い。

 でももう一回考えてみたけど、じゃああのメスガキ系悪魔に無言の腹パンとかできただろうか。

 なら頭ごちか?

 小さい子へのお仕置きならともかく、中級悪魔一匹を気絶させるには少々弱いかもな……。

 結局どちらで戦うにせよ、今後力加減は常につきまとう問題になりそうだ。

 慣れてきたら対応も早くなりそうだけど。


 約束を違えて純粋な悪魔としての本能を疾走させた彼女にも非があるとはいえ、ペナルティはしっかりと与えられた。

 とりあえず僕のランクは今後の試験の如何に関わらず、ターシャさんの最終成績ランクのDからスタートする事に決定した。

 元がFだった事を考えたら、これでもすごい大躍進だ。


 申し訳なさそうにターシャさんがジト目でこちらにもじもじと向かってきた。


「あのぅ……本当にごめんなさいロシュア様!私が至らないばっかりにご迷惑をおかけしてしまい……!」


「いいんだよターシャ。ランクなんていつでも上げられるしさ」


 僕はできるだけ重い雰囲気にしたくなかったので、自然体で笑って過ごす事にしたが、彼女は本気で反省していたようで、珍しく手を握っても表情ひとつ――動きひとつ変えずに下を向いたまま悲しそうな顔をしていたままだった。


 僕の自己責任だからそんなに思い詰めてほしくないんだけどな。

 まあ難しいところか。

 以前は僕もクエストの度にミスするとチームのみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいになってたっけ。

 みんな基本的に許してくれるんだけど、当の本人としては胸が押し潰されそうな気持ちになるんだ。

 でも人間失敗やうまくいかないことの方が多いんだし、いちいちめくじら立てて「今すぐミスも敗北もしない完璧な絶対無敵の最強であれ!」なんて言う方がどうかしてるのだ。


 心は広く持とう。僕がされて嬉しかったことはしてあげよう。

 悲しかったことだけは絶対しないようにする。

 辛い思いをしたのなんて僕一人で十分だ。


 そうして彼女の次の番として、僕は受けなくとも良い試験を一から受け始めた。

 まずは一回戦として、スライムくんがプルプルと召喚される。

 こいつは服だけ溶かすという羨ま……いや許すまじけしからん淫乱な破廉恥野郎だ。

 しかし僕は男性。女性特攻の服溶かしにメタをはったぞ。

 ふははは。

 ターシャさんの炎魔法が素通りだった事を見ると、どうやら普通のスライムと何ら変わらない畜生であることは明白だった。

 ならばもう如何様にも料理することができる。

 どうしよう。初級魔法ならなんでもいいんだけどな。

 うっかり殴っちゃっても多分効くかわかんないし、ここは確実に魔法で炙るか。


「『火魔法(フレア)』」


 僕は彼女がやったのより数段劣る初級炎魔法を唱えた。

 するとどこからともなく地震が鳴り響くと、黒い地面の地盤が叩き割れ、そこからマグマが出現して周囲を火の海に変えた。


「ちょ、ちょっと!どうなってるんですかロシュアさん!」


「そ、そんなこと言われても!!」


 なんでだ!初級魔法のフレアを使っただけなのに!

 なんでこの世の終わりみたいな現象が起こっているんだ!


 明らかにオーバーキルなダメージを受けてスライムくんは光の速さで蒸発していった。

 というか、マグマに触れてすらいない。

 熱浴びただけで蒸発したぞ。


 幸いこの空間では魔法の威力が抑えめになるらしく、更に何が起きても自動修復されるため、天地崩壊の心配はせずにすんだ。

 スライムくんも倒されるためにあるようで、いくらでも量産することができるとガーベラさんの口から判明した。


「私の魔法もちょっと特殊なんですよ」


 彼女は世にも珍しい『スライム生成魔法』という固有魔法を持ち、無からスライムを作り出すことができた。

 他にも魔物の飼育、調教だったりと魔物関連に関してはまさにうってつけの人材であった。


 そしてドキドキの二回戦に突入したわけだが、僕が赤ちゃんにまで巻き戻してしまった彼女に代わって、新たなメスガキデビルちゃんが登場していた。


「きゃははは!アタシはリリセ!アンタら人間なんかざぁこなのよ!」


「……突っ込んだら負けかな?」


 これ名前ギャグで決まってるでしょ。


「ベビーサタンちゃんは全部で6号までいてね。全員姉妹なの。この子は次女のリリセちゃん。得意技は人間煽り。嫌いなものは人間」


「うん何が違うのかな??」


 量産型か。

 フレーズもそう違わずおんなじようなパーソナリティが与えられてるぞ。手抜きか?

 まぁ1個体ごとに性格の違う悪魔の育成準備なんて魔力がいくらあっても足りない、というのが真相だろうけど。


 今度はさっきまでの反省を踏まえて、デコピンで仕留めることにした。


「あべしっ!!うわぁあん!いたいいい!」


「勝者、当然のようにロシュア!!」


 やったぜ。あと一戦。ここからは未知のエリアだ。

 というか紛いなりにもサタンの名を冠する悪魔がデコピン如きで泣くな。

 なんかいじめした空気みたいになってるじゃないか。

 かといて全開フルスロットルしたら逝っていいよになってしまうから自重しなくてはいけないのだ。


「それではいよいよ3回戦!お相手はこちらっ!山の化身『グランド・ゴーレム』くんことシケン=クン3号だよ!」


 シケン=クン3号は巨大な土人形、ゴーレムだった。

 大きさははて……縦横で家10軒分くらいだろうか……。

 とてつもないデカさを誇るゴーレムだ。

 どう考えても部屋の外のギルドなんか屋根ごと突き破る程の大きさだったが、この黒い空間はそういった法則や概念を無視しているためか、どこまでも広く誇張も比喩も抜きで山のように大きなゴーレムを抱えても、まだスペースが余っているようだった。


 僕なんか小指で押しつぶせそうなグランドゴーレムくんは左右に空いたまんまるとしたつぶらな瞳でこちらを見つめてきた。


 か……可愛い。

 一家に一台置きたい(無理)。

 しかしそんな殺戮とは無縁そうぬ瞳をしたまま、本当に僕を押しつぶそうと勢いよく足を上げてきた。


「おいおいおいおいまじか――!」


 咄嗟に『転移魔法』を用いて間一髪のところでゴーレムの踏み潰しを回避した。

 あ、あぶねー。あんなもの食らったら命がいくつあっても足りないぞ。


 対象を見失ったゴーレムくんはキョロキョロと周囲を見回した。

 正直目玉だけで僕一人分くらいあるんだ。

 大きさの割に機動性もそれなりにある。

 最後の試験にしては随分難しすぎやしないか。

 これターシャさんがベビーサタンちゃんを攻略してたらマジでどうなってたんだ。


「逃げてはいけませんよ?」


 威圧的な口調でガーベラさんが僕に向かって言った。

 そしてその音に合わせてゴーレムの巨体が振り向いてきた。


「ちょ、今の反則じゃないですか!?」


「うるへーちくしょー!ギルドじゃ常識なんだよ!!ここじゃ現場がなによりのルールだ!覚えておきやがれクソッタレ!」


 ここにきて彼女のテンションはボルテージマックスの火山大噴火状態だった。

 これまで瞬殺されてきたシケンたちの恨みを晴らすべく、彼女はゴーレムくんをひたすら応援していた。


 くっ……こ、こんなの横暴だ!


 しかしこの状況を打破出来る手がないわけでもなかった。

 というかもう攻略したも同然だ。

 おおよその移動速度もわかった。

 こちらを視認してからの判断や、その行動選択も大体。

 あれほどの大きさを誇るゴーレムを自在に動かすには、相当な魔力が用いられていないとならない。

 だが、コストダウンで量産化を図っているギルドが、冒険者に向けた試験程度でそこまで本気を出すとは思えない。

 その証拠にゴーレムくんは、さっきから決まった行動しか行っていない。

 よってその命令式は予め与えられたもので、なおかつ単純明快なもの。


 となれば奴がこれ以上の何かをしてくる可能性は極めて低い。

 何せただひたすら殴る蹴るしてるだけで、その持ち前のデカさと強さで攻防一体の兵器となるわけだから。


 あちこちゴーレムの周囲を囲うように逃げ回り、僕は事前準備を完了させた。


「ひぃやっははは!観念したか小僧ぉ!」


 その発言に最早ギルド受付嬢としての一切を感じなかったが、別に僕は諦めて逃げ回っていたわけじゃない。


 『罠魔法』のトラップに、少しの『氷魔法』をプラスしてみる。

 単純な動きしかしてこないデカブツくんは、ものの見事に僕の撒いたトラップにひっかかっていった。


 ピキピキと巨大な足から順番に凍りついていき、奴はその場に静止すると身動き一つ取れなくなってしまっていた。


「な……動け!動けってんだよこのポンコツ!」


 ガーベラさんは必死で命令を送り込んでいたが、ゴーレムくんはそれを実行したくてもできないのだ。

 ちょんと足の方から突いてやると、彼は氷漬けの足からヒビが入って叩き割れ、やがて巨大な上半身を地面に勢いよく叩きつけるとそのまま砕け散った。


「ウッソだろおい!上半身に対して下半身が貧弱すぎる!」


「……いやそういう問題じゃないと思いますよ」


 物言わぬ土と成り果てたゴーレムを見て、彼女は悔し涙を浮かべながら合格宣言を言い渡した――


「ふっ……まだ良い気になるなよ旅人よ。奴はギルド四天王の中でも最弱……」


「四天王!?今のところ3体しかいなかったけど……まさか」


「そう。そのまさかだよ坊や。最後の相手はこの私――ガーベラちゃんが勤めようじゃないか」


 そして彼女は不敵に笑って、ドン!と僕の前に立ちはだかった。

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