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適性検査と実力測定③

「さぁいよいよ熱くなって参りました実力測定試験、第二回戦!続いてお相手はこちらー!」


「なんかもう楽しくなってきてない?ガーベラさん」


 気分はすっかり大会の司会者だ。

 一回戦のスライムときて、二回戦の相手は悪魔の格好をした女の子だった。

 黒いツノ、黒い尻尾に耳は鉤状に尖っており、両耳には耳飾りがつけられている。

 服装は露出度の高いハイレグコスチュームにヘソ部分がごっそりと丸見えになっている破廉恥なものだった。

 ぽっこりと突き出たお腹に、幼さを残す丸みがあり、肌色がやや薄めの青色でなければ、どこからどうみても人間であり、街中にいれば事案ものであった。


「きゃははは!何おねーさん。見るからによわそー。ざぁこ♡ざぁこ♡」


「くぅ……!なんですかこの生意気なガキは!」


 おいおい。仮にも聖女様が子供相手に使っていい言葉じゃないぞ。


「失礼しました。お『クソガキ』でしたわ」


「違う。そうじゃない」


 暴言と丁寧語のサンドイッチやめろ。

 それ使っても依然罪は軽くならない一方だから。

 悪魔然とした二回戦の相手は背中のデビルな翼でふわふわと、ターシャさんを煽るように飛び回って遊んでいた。


「アタシはリリス。おねーさんみたいな可哀想で弱っちそうなざこ人間は可愛がってあげるんだから!」


 なんかさっきの服だけ溶かすスライムといい、ギルドの嗜好が垣間見える瞬間だぞ。


「失礼ですね!彼女は立派なギルドが誇る第二の刺客……シケン=チャン2号。種族は『幼悪魔王(ベビーサタン)』のリリスちゃんなのだ」


「コラ!!何勝手にアタシの正体バラしてくれてんのよ!!」


 今の発言を聞き逃さなかったターシャさんが、今度は彼女を煽るようにやにや笑みを浮かべた。


「あらぁ。貴女さんっざん私相手に粋がってたくせにまだ『ベビー』ちゃんなんでちゅねぇ〜大丈夫でちゅか〜?おむちゅとれてまちゅか〜?一人で歩けまちゅよねぇ〜?」


 相手の弱点を見つけるや否やこの清々しい程の転身っぷりである。


「は?は!?はぁ!?良い気になんなよ人間!アタシはな!あの超超超ちょーお有名な魔王様の息子……」


 えまさかの男の娘なのか?

 おいおいギルドさん。それは業が深すぎるぞ。


「……の娘の親戚の知り合いの間にできた子供の従姉妹の叔父から生まれた悪魔の娘なのよ!」


「いやそれ限りなく赤の他人じゃないですか」


 僕がいうはずだった冷徹なツッコミがターシャさんの口から飛んでいった。

 というかそんなに等身離れていとも『サタン』を名乗ることが許されるのか。魔界って広いなー。魔界ってか魔族。


 自分より格下と思い込んでいる人間に対して、罵倒され蔑まれたことで彼女の誇り高きプライドはズタズタにされ、青かったはずの皮膚を真っ赤にしてターシャさんに襲い掛かった。


「もーあったまきたわよ!こうなったら地獄よりも恐ろしい真の絶望ってやつを教えてあげるんだから!普通に死んだ方が良かったと後悔するといいわ!」


 セリフだけなら一丁前に魔王やってるんだけどなぁ。

 しかしあの曲者スライムをこさえたギルドが放った二回戦の刺客だ。

 ここまで勝ち進んできた冒険者に対する戒め的な、見た目の出オチで終わらない程度の強さは持っておろう。


「『地獄炎(ヘルファイア)』!!」


 そしてその予想に違わず彼女は片手の魔法陣から黒と赤の混じった灼熱の炎を放ってきた。

 彼女はまだ幼体だからか、ドラゴンや魔王の放ってくるそれよりも規模や威力も小さかったが、なんの装備もなく初心冒険者たるターシャさんには十分すぎるほどの脅威だった。


「きゃあああっ!!」


 先程服が破れ切った時の状況とは異なり、セクシーというよりも痛々しい様子で彼女の肉体は黒く焼け焦げ、はだけてしまっていた。


「くっ、『回復魔法(ヒール)』!」


 彼女はすかさず傷口を癒やし始めた。しかし。


「ふん!どうしたの?守ってるだけじゃ勝てないわよ!『地獄炎』!!」


 彼女が回復すれば、悪魔もまた炎を放つ。

 攻撃と回復のいたちごっこである。

 ターシャさんにとって唯一反撃の術があるとすれば、あのい……なんとかモードに早変わりして魔法をぶっはすることだ。


「『淫乱ドピンクモード』だ少年」


「人がせっかく善意でにごした言葉の続きをあっさりと言わないでくださいよガーベラさん。あとなんか最初の時より呼び方変わってませんか?」


「呼び辛い言葉も時代と共に段々言いやすい形に変化していくでしょう?それと同じようなものよ」


 まだ吹けば飛ぶような歴史しか残っていないのだけれど。


 それは置いておくにしても、真面目に今の彼女に状況を打破できる要因は奇跡以外にない。

 さっき唯一の対抗策がモードチェンジだと僕は考えたが、今の彼女は変身を果たした為、エネルギーを充填するために時間経過での自然回復を待つしかない。

 まだ賢者モードを抜け切っていないのに、小悪魔の連続攻撃を立て続けに受け、それに対する回復のループでどんどんジリ貧に追い込まれている。

 素人目から見ても勝ち目は薄かった。

 ただ、ターシャさんの回復魔力は相当なものだ。

 もし小悪魔の魔力が先に尽きれば、どうにか引き分けくらいには持ち込めるかもしれない。


 しかし様子を見る限り、小悪魔の魔力は無尽蔵にありそうだった。

 現にターシャさんはすでに疲労困憊の顔つきなのに対して、小悪魔の方は地獄炎を連発しても汗ひとつかいていない。

 とうとう回復魔力も尽きたのか、彼女はがくんと膝を落とした。


「よわよわ!きゃははは。やーっぱりこんな程度なのね」


「ターシャさん……」


「くっ……悔しいです……私の実力はここまでなんですね……!」


「それじゃターシャちゃんはここまでで試験はしゅうりょ」


「なぁんてそんな事許されるわけないでしょ!?アタシをコケにした報いをその身で受けなさい!」


 彼女はここ1番の巨大な魔力で火球を操り、無防備なターシャちゃんにぶつけようとした。


「危ないっ!」


 僕はその攻撃を防ぐため、彼女の前に乗り出して火球を受けた。


「ロシュアさん……!」


 反則行為になるのは分かっていた。

 ペナルティなら僕がいくらでも受ける。

 ただ仲間に対する攻撃はここまでだ。


「大丈夫?ターシャさん」


「す、すみませんロシュア様……今すぐ回復を……え?傷がない……?本当に大丈夫なんですか?」


「あぁ。大丈夫大丈夫」


 背中に痛みはなかった。

 よくパーティーにいる時は未知の敵と相対する際、必ずといっていいほど先頭に立たされ、敵の攻撃を引きつける『囮』役に抜擢されていた。

 もちろん中には逃げきれずに攻撃を受けたこともある。

 ドラゴンの牙で噛まれたことだってある。

 そんなのに比べれば中級悪魔程度の火炎なんて屁でもない。


「くっ、生意気ね人間のくせに!いいわ今度はアンタがアタシの相手ね!」


「もう試験が終わったにも関わらず、無抵抗の人間に追撃を行ったきみを……僕は許すわけにはいかない」


「きゃははは!だからなんだっていうわけ!?アンタたち人間の勝手な道理をアタシに当てはめないでくれる?」


 けらけらと彼女は嘲笑うばかりだ。

 ふっ。全くだ。

 ギルドの用意した試験で悪魔を相手に振りかざす理屈じゃない。

 よって手加減はしなくていいはず――。

 腐っても名前に『サタン』がつく生き物だ。

 そうそう簡単に死にはしないだろう。


「あ、あのロシュアさん……?な、何をし」


 まず風魔法に炎魔法を組み合わせ、雷魔法と水魔法を合体させる。

 そしてそれらに鋼鉄化魔法を加えて威力を底上げする。

 魔法耐性があっても中級悪魔程度の装甲ならこれで貫けるだろう。

 昔はサポーターとしてみんなの武器をカッチカチにしていたなぁ。懐かしい。

 強くなってからはもう必要なくなっちゃったけど。


 もちろん僕の使える魔法なんて本職じゃないから、全て基本的な初級魔法だ。だから数多く組み合わせないとまともな威力にならないのだ。

 こういう時、ソアラなら一発でドカンと爽快に吹き飛ばしてくれるんだけど。毎回あの手の魔法使いを羨ましく思ってしまう。

 だってかっこいいじゃん。一撃で決めたら。


 サポーターで荷物持ちに過ぎない僕なんかがまともに敵と戦おうものなら、あれこれ工夫を重ねていかなければならない。


「え……ちょ、ちょっと人間。そ、それ何?」


「『合成魔法』――『鉄槍(アイアン・スピア)』」


 大きさ設定はとりあえず僕の10倍ってところでいいだろう。

 これ大きくても中身スッカスカだとこけおどしにもならないからね。

 これくらいの大きさならさっきまでの魔法をパンッパンに詰められる。

 彼女が味わった恐怖、その身で感じてもらうよ悪魔さん。


「えい」


 僕が放ったやや遅めの鉄槍を、悪魔はげらげらと笑いながら転がって見ていた。


「ぷっ。ばっかみたい!やーいざーこ♡ざーこ♡あんなになんかすごそうな事しておいてこぉんなおっそいよわっちそうな武器一個作るだけなん――」


 途中まで喋っていた彼女が消し飛んだのは、迂闊にもその起爆武器に触れてしまったからだ。

 まぁ避けても狙い続けるように『追尾魔法(ホーミング)』をかけてるからいつかは当たるんだけどね。


 瞬間的にその場に超新星爆発に匹敵する凄まじい衝撃が巻き起こった。


「はわあああああああーっ!!」


 あれ。こんなに威力凄かったっけ。

 爆風の勢いが凄すぎてガーベラさんとターシャさんのパンツが丸見えになってしまったが不可抗力だ。許せギルド。

 しかし今回は部屋を壊すこともなく、ちゃんと綺麗に収まった。

 さすが天下のギルド様の用意した空間だ。本当に傷ひとつ付いてないぞ。

 安心安全、信頼のギルド製ガードですな。ははは。


「いや!!あの!!なんですか今の!!」


「えっ何って合成魔法だけど……」


「いやいやいやいや。合成魔法とかじゃなくて。普通属性の異なる魔法同士を組み合わせるなんて高度過ぎて不可能なんですよ!?」


「そうかなぁ。あ、ほら例えば光魔法と炎魔法を組み合わせればこんなふうに擬似的に太陽の光を再現することができるんだけどね」


「いや。そんな常人に再現のしようのない例え出されても……優位性について問うたわけではなくて……」


 そんなに驚かれたことが意外だった。

 確かに予定より威力が大分オーバーフローしちゃったけど、合成魔法自体は初級魔法からなるものだし、時間もかかる上にあんなに遅くなってしまうのだ。

 実戦では使い物にならないと言われて、長らくパーティーからは重宝されなかった不遇魔法なのだ。ぐすん。せっかく寝ずに考えたのに。


「あっ。いけない。悪魔さん消し飛ばしちゃったね。それに試験の妨害をしちゃってごめんなさい」


「あ、いやハイ」


「でも試験を終えると運営であるガーベラさんが言ったのに、それをガン無視して攻撃してきたんですから少しくらいは大目に見てくれますよね?」


「あ、ハイ」


 よかった。許してくれなかったらどうしようかと思った。

 こんなところでライセンス剥奪なんて洒落にならないからね。

 すぐに悪魔ちゃんを『再生』で元通りにし、事を丸く収めた。

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