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Aランクパーティー、復活!!

「うぅ……やたら暗いわねこの洞窟……それに何か変に肌寒いし……」


「とりあえず照らそうか……【閃光魔法(フラッシュ)】」


 ロシュアの指先から光が満ち溢れ漆黒の洞窟内を色づかせていった。

 明かりに満ち足りた洞窟は一見何の変哲もない至って一般的な岩壁だった。


「わーっ。なんかこの感じ懐かしくない?」


「確かにちょっと前まで私たちこんな感じでしたね」


 ロシュアが補助魔法を使って安全な探索を確約し、戦闘は身体強化や魔力補強を行なって難敵相手にも物ともせず進撃する。

 ロシュア自身も一抹の懐かしさを感じずにはいられなかった。

 ただあの時と決定的に違っていたのはこのパーティーには単なる荷物持ちも役立たずもいなかったことだ。


 彼は3人と肩を並べて冒険を続けることができる事実に未だ信じられないといった顔つきをしていた。


「いつ何が襲ってきてもいいようにみんなには補助魔法をかけておくね」


 ロシュアが手をかざすとカムイら3人の足元に魔法陣が出現した。

 その後、彼らは全身からはちきれんばかりのエネルギーを感じ取り、有り余った力の波動が体外にまで顕現し光と共にオーラ状になって溢れていた。


「う……おおおおっ!久しぶりにきたな……!」


 もう何年も味わっていない馳走にありついたように、カムイの頬は自然と緩んだ。

 痩せこけていた骨と皮が目立つ皮膚はかつての栄華を取り戻すように膨れ上がり、活力にあふれる健康体そのものと化していた。


「きゃあああっ!これスゴイ!マジでスゴイんですけど!!」


 何よりその補助の恩恵を一番に実感できるのがソアラやルーナのような魔法職だった。

 元々それなりに常人より優れていた彼女らの魔力は今、ロシュアによってそこら辺の一流魔道士にも勝るとも劣らない量にまで跳ね上がっているのだ。

 これが興奮を覚えないわけがない。


「すごいね……ほんとにみんな見違えるようになったよ」


 そう。それはかつてロシュアが最後尾で拝んでいた景色、超Aランクパーティー『黄昏の獣王団』の全盛期たる姿であった。

 激しいオーラに呼応するかのように洞窟の奥からはモンスターがうじゃうじゃと湧き上がってきた。


「来たな……!」


 カムイたちのエネルギーを食ってやろうと光の餌に釣られた魔物は洞窟の奥にまで列を成していた。

 先頭に現れたのはロシュアの頭身を数倍は有に超える全長を誇る『タワースライム』であり、その数はざっと10匹はいた。

 尤もそれだけにとどまらず、さらにその後ろに鋼鉄の尻尾と肉体を誇る『アイアンスコーピオン』に全身炎を纏った『フレアセンチピート』、全身が棘に包まれた殺人兵器『キラーボール』などどれもこれも軽くBランク以上の強さを誇る怪物ばかりであった。

 しかもこの数を相手取るとなると、上級パーティーでさえ8人はいないと苦戦を強いられるほどだった。

 あのロシュアでさえ単独で挑もうものなら戦闘の長期化は避けられなかったであろう。

 Dランク上がりのカムイたちでさえ到底相手になるものではない。


 しかし……


「はははっ!今の俺たちなら負ける気がしねぇぜ!」


 ロシュアの加護を受け戦闘力を数十倍から数百倍以上にまで上昇させてみせたカムイたちにとっては、最早造作もない相手だった。

 百だろうと二百だろうとバッサバッサと己の剣術で薙ぎ払っていき、ソアラは敵の魔法耐性などお構い無しに呪文で消しとばしていった。

 回復さえ不必要な状況で手が空いたルーナも、強化された体術で迫り来るモンスターどもを片っ端から蹴り潰して回り、あっという間に敵の掃討が完了した。

 ロシュアも援護しようと構えていたが、かつての力と勢いを取り戻したカムイたちの連撃によって出る幕を無くしてしまった。


「い、いやぁ〜……お見事……。やっぱすごいねみんな……」


「すごいのはお前の魔法だ。俺たちの力じゃない」


 拍手され手放しで絶賛された事に対して、カムイは目線を地に伏して極まり悪そうに頭を掻いた。

 対してソアラだけは唯一明るく楽しげに、取り戻した力に酔いしれていた。


「やっぱすっごいな〜ロシュアの補助魔法!また昔に戻ってきた感じがするもん!今ならどんなクエストでも怖くないって感じ!?」


「……お前なぁ……」


「あはは。でも本当にすごいよ。僕の今できる補助魔法なんて本体に比べたらほんのちょっとのものなのに」


「そうなのか?俺はなんかもう全盛期以上に力をもらっているんだが」


「そうだね……まぁ3年前の時、もっといえば僕がカムイのパーティーに入っていた頃くらいにまで落ちてるかな」


「馬鹿野郎、それで十分すぎるわ」


 これで本体が揃っていたらと思うと……。

 魔王が数体滅んでいたかもしれない、とカムイは頭の中で想像していた。

 ちなみに本体の方はというと、生まれたばかりの子供たちにかかりっきりになっていた。

 家事や育児の大半をロシュアは肩代わりし、妻であるターシャには十分な休憩時間を与えていた。

 当初ターシャは家事に協力しようとしていたので、疲れない程度にお互い様子を見ながら交代制で行っていくことに取り決めた。

 時間配分としてはロシュアが6のターシャが4の割合だった。

 互いが互いを思いやることのできるとても円満な夫婦関係であった。


「しっかしよく分身動かしながら育児なんて出来るよな」


「あー……でもほとんど分身は動かしてない感じかな。個々の意識があるとでもいうか……」


「じゃあロシュアは2人いるってこと??それってやばくない!?」


「そんな感じになるのかな。限りなく本物の僕に近いんだけど……バラバラの自我を持ってて自由に動ける……けれども統一する時はちゃんと1人の〝僕〟になる……みたいな」


「いやそれさらっと言ってますけどとんでもない事ですからね?」


 莫大な魔力と幅広い学問によるロシュアのトンデモ芸はそれだけにとどまらなかった。

 道中何度もパーティーはロシュアの開発した常識離れの魔法によって安全かつ最適な進路を迎え、旅路は非常に円滑に進められていった。


「あーあー。こんなことなら古龍の洞窟もロシュアについてきて貰えばよかったのにー。そしたらあたしら今頃Sランクパーティーだったかもよ?」


「逃した魚は大きかったですね」


「けっ。あん時は俺たちだけでなんとかなると思ったんだよ!……時間を巻き戻せるってんなら今すぐ過去の自分をぶん殴ってやりたいもんだぜ」


「人生って案外そんなもんだよね」


 やがてパーティーは洞窟の行き止まりに到達した。

 そこには大きな看板がわざとらしく立てかけられており、そこには「地獄だけど素晴らしいお宝!!!」と「天国だけど大した付加価値のないお宝!!!」の二択が用意されていた。


「……なぁ、思ったこと言ってもいいか?」


「どうぞ」


「この洞窟、絶対あのギルドマスターが作ったろ?!」


 考えてみれば唐突に話しかけてきたあの老婆の段階でだいぶおかしいものがあった。

 あの老婆もギルマスの回し者であり、参加者をこの洞窟まで案内させるためのものだった、カムイはそう考えていた。

 これまでの文体や、このようなあからさますぎる看板などからもそれは容易に連想できた。

 それが思い当たるからか、ロシュアもぎこちなく苦笑した。


「どっかで見てんじゃねーだろうな……」


「多分見てると思う……それも僕たちだけじゃなくて参加者全員…………」


「悪趣味にも程があんな……。で、どっち行くかもう決めたか?」


「そりゃ決まってるじゃない!」


「ええ」


 カムイたちは全員一致団結して一つの道へ進んでいった。


「『地獄だけど素晴らしいお宝』の道!!」


 しかしこの時彼らはまだ気付かなかった。

 この洞窟には他にも探索者が潜んでいたことに……。

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