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Sランクの実力

「今誰かがあたしの魔法を完コピしなかったかにゃ!?」


「い、いえ誰もそのようなことは……」


 もぬけの殻となった会場で職員と共にのんきにバーベキューの準備をしていたのはクラウスだった。

 ギルドマスターでありながら、ほとんどここから動くことはない。

 というのも彼女が千里眼の如き視野の広さでギルドに居ながら一歩足りとも動くことなく冒険者全員の監視が可能だからだ。

 しかし時たまおかしなことを口走るので、職員も呆れ顔で雑に返すのが一種のテンプレとなっている。


 器用にも串に刺さったピーマンの部分だけをかじり残しながら天を仰いでいた。


「それにしてもまさかSランクのパーティーがやってくるなんてね〜人生何が起こるか分かったもんじゃないねぇ〜」


「はい……。『永遠なる明星』は前人未到の偉業を成し遂げ、瞬く間に進撃してきた超新星ですから。個々の実力も非常に高く、あのロシュアさんをも上回るかもしれないと言われており、現在世界最強のパーティーの称号を欲しいままにしてますからね」


「あの顔でナンバーワンですか……」


「……いや顔関係ないと思いますけど」


 しきりに足を意味もなく交差させたりジタバタさせたのをやめたかと思うと、今度は勢いよく状態を起こして懐から肉を取り出した。

 クラウスは肉を火で炙りながらにやにやと笑っていた。


「まぁ実際強いと思うよ〜。あたしの目立てでもあいつらは別格だ。この中じゃダントツと言っても良い」


 ロシュアが襲いくる黒の盗賊団を蹴散らしたのと同時期に、件のSランクパーティー、永遠なる明星も快進撃を続けていた。

 遠国からやってきたということもあり、話題性は抜群。

 参加冒険者の多くが彼らを実力試しも兼ねて襲撃を図ったのだ。


「……やれやれ。この国には身の程知らずが多いようだ」


 フェルナンドは艶の孕んだため息を溢しながらも、本を読み且つ歩く速度を緩めることはなかった。

 他のメンバーも基本何事につけ動じも関心もしないスタンスをとっていたが、一度実力をはっきりと思い知らせてやるためにと珍しく相手取る姿勢でいた。


「お前らを倒せば必然的に俺たちがSランクになれるってわけだ」


「遠路はるばるようこそおいでなすってくれたぜ」


「この刀の錆びにしてくれるわ!」


 次から次へと怪しげな男たちが武装して現れる。

 永遠なる明星の中でも一際プライドの高いフリードは下衆の吐く品の無い物言いに大層辟易しているという様子だった。


「雑魚をつけ上がらせると厄介ですねぇ……実に厄介……」


「こいつらって殺してもいいんでしょーか(問)うっかり殺しちまってもルール上問題はないんですよね?(怒)」


「あぁカーラ。ルールには強者が弱者に対してやってはいけないことなどなかったからな。殺すなり千切るなり筋肉を見せつけるなり思う存分愉しむといいぞ」


 フリード、カーラ、マルコの3人が戦わないリーダーに代わって前に出た。


「何を馬鹿なことをほざいてやがる!まずは貴様からだ僧侶フリード!」


「お前は確かに超一流の魔法使いらしいが所詮は僧侶!回復魔法しか使えないクズ同然の職業だな!」


 男がそのようなことを口にした瞬間、周囲には「ビキィ」という音が聞こえたような気がした。


 その後、男の何名かは突然街の壁まで吹き飛ばされていた。

 飛ばされた男の肉体は窓ガラスを突き破ってそのまま室内に貫通し、取り巻き数名は首が埋まってしまっていた。


「な、なんだ――何しやがった!!」


「わ、わかんねぇ!何も見えなかった!」


 突然の出来事に狼狽える男たちに構わず、中心でどす黒い殺意に満ちたオーラを放っている人物がいた。

 ぷるぷると震える拳と眼鏡を理性で精一杯抑えながらフリードは仁王立ちしていた。


「い……今なんて言いやがったてめぇらぁあああっ!!」


 魂を込めた迫真の叫び声が周囲にこだまする。

 それだけで大気は揺れ、空気は変動し男たちをすくみ上がらせた。


「ひっ……!」


「僧侶が回復魔法にしか能のない貧弱でゴミ以下の何の役にも立たないクソザコナメクジだとぉおおお!?あぁあああん!?」


「い、いや誰もそこまでは言ってな――」


「るせぇえんだよぉおおおゴミどもがぁあああっ!!回復職舐めんじゃねぇええ!!」


 叫ぶたびにより一段と大きくドスの効いたものに変わっていくため、誰もが怯えて腰を抜かしてしまっていた。

 そして一人一人が怒り狂うメガネの鉄拳に沈められていき、へたりこんでいた男はローリングソバットの要領で遥か彼方まで蹴り飛ばされてしまった。


「ど、どのへんが回復職なんすか!!」


 その場で誰もが抱いた疑念に対して、彼は全て拳で答えていった。

 血飛沫と男たちの骨が砕け散る音で周囲が満ち足りた頃、一歩出遅れたマルコたちがやれやれと動き始めた。


「ったーく。フリードのやつすぐこれだもんな」


「煽り耐性なさすぎ(笑)」


「くっ……!こうなったらそこの女だけでも!!」


 さっきまでの戦いを見てか、全身を甲冑に包んだ男が建物の裏から現れカーラに奇襲を仕掛けた。

 振り下ろされた鋭く長い剣をいとも容易く彼女は受け止め、そのまま刀身を握りしめた。


「な、なんだこのガキ……!全然動けねえ……!!」


「うわぁ弱すぎ……(呆)もうちょっとマシなことできなかったんですか?(失)」


 そのまま彼女は足元に魔法陣を出現させ、甲冑男に向かって魔法を発動させた。


「は、はっ――来るならこい!この鎧はな、対魔導士ように作られた特別製も特別製よ!どんな魔法でも傷一つ付かない優れものなんだぜ!?魔法使いなんざ俺の敵じゃね――」


「【炎魔法】」


 彼女が放ったのは至極単純な炎魔法、フレアだった。

 程度の差はあれど今や誰でも使えると言われている初級も初級の基礎魔法だ。

 しかし男の全身を灼いたのはそんなちっぽけなものでは決して無く、むしろ地獄の炎を呼び寄せてしまったようでさえあった。


「ぐげぁああああああっ!!」


 男は自慢の対魔法の鎧すら残さず塵と化して消滅した。

 対魔法防具と聞いて僅かながらもテンションが上がっていた彼女は、そのあまりの手応えのなさに酷く落胆していた。


「…………はぁ(息)」


「おいおい!お前らだけ随分楽しそうじゃないかフリード、カーラ!なぁなぁ俺も混ぜてくれよ!!」


 槍を持って突進してきた男たちの攻撃を一度に受けたのはマルコだった。

 鎧ひとつ、服ひとつまともに装備していない彼の生命線はその鋼の肉体のみであった。


「な、なんだこいつの身体!」


「全然貫けねぇぞ!!」


「ん〜……弱い!弱すぎるぞ弱者!!何故そんなに弱い!!」


 マルコが膨張させた筋肉を一気に縮めて息を吐くと周囲に衝撃波が巻き起こった。

 武装していたものたちも構わず吹き飛ばしていき、やがてマルコ自らが筋肉質で長い腕を伸ばして男たちの首をへし折っていった。


「脆いなぁ。脆すぎて加減すんのが大変だぜ」


「なんだよ……なんで剣も槍も全く効かねえんだよ……!何も装備してないくせに……!!」


「ば、化け物だ……!こいつら全員化け物だぁあああ!」


 ようやく自分たちが場違いな怪物たちを相手にしていたことに気付き、残っていたものたちは全員逃走を図ろうとした。


 ――が、すでにその先には先頭で本を読んでいたはずのフェルナンドが立ちはだかっており、彼らの行手を塞いだ。


「ひっ……!!」


「Sランクパーティーに喧嘩を売っておいて、まさか自分だけ逃げられるとでも思ったのか?」


 恐怖に怯える彼らに近づいていくフェルナンドの姿は、最早狩るものと狩られるもの、処刑人と罪人の図式に成り下がっていた。

 ようやく本を閉じた彼は次々と魔法陣を展開させた。


「【風魔法】、【重力魔法】、【雷魔法】、【炎魔法】、【爆発魔法】、【水魔法】…………」


「ひ、ひいいっ!!」


「合成魔法――【超大竜巻雷撃真空波】」


「ごはぁあああっ!!」


 多種多様な魔法が組み合わさり、一つの巨大な災害となって男たちを一人も逃さず一網打尽にした。

 しかし街だけは一切傷付けず、敵だけを狙って攻撃していた。


「行くぞ」


 フェルナンドの号令で彼らは宝探しを再開した。

 彼らが通った後に、誰も残らない。

 彼らに挑んだものは跡形もなく倒されてしまう。

 それが彼らを最高峰のSランクパーティーたらしめる要因でもあった。


 もっとも彼らはまだ本気の1割足りとも出していないのであったが……。

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