激動の宝探し
「にしてもジール王国領全土なんて規模が凄まじいな。あのおとぼけギルマスも激務とか言ってたけど、まさか一人で宝全部隠し回って行ったんじゃないだろうな」
「…………あり得るねあの人なら……なんでもありだから……」
「主催者なのにギリギリまで忘れてることなんてあるんですね……」
ルーナもギルドマスターのめちゃくちゃ振りを目の当たりにし、ほとほと疲れ切っているようだった。
クラウスの辞書に「常識」という二文字は存在しない。
常人には計りかねないぶっとんだ感性と底知れぬ能力が彼女にはあるのだ。
「マーブルも知ってたのね、この勇者決定会みたいなやつ」
開幕で会場に居たパーティー一同が宝目指して突っ走って行った中、残ったカムイら『暁の獣王団』とマーブルたち『混沌の隠者』たちは並走してゆっくり宝探しをすることにした。
「ええ。アタシたちもそろそろ新しい何かにチャレンジしようと思ってね!それにもし勇者と認められれば、アタシたちもSランクに昇進できるかもしれないし!」
「えっ、そうなのか?」
「勇者といえばお国の……いえ大陸の最高戦力でしょ?国中の誰もが認めてくれるだろうし……。そんなの冒険者にとってはこの上ない名誉じゃな〜い?」
キラキラと子供のように目を輝かせてマーブルは夢見心地で語っていた。
彼にとって性別問題はひとつの大きなコンプレックスであるため、それを跳ね返せるほどの栄誉を賜れるのはまたとない絶好の機会だった。
「まぁ自称勇者ちゃんも世の中にはいるみたいだけど」
「ふんっ。誰が自称だ。俺は由緒正しき勇者の――」
「で、どうしようかしら。アタシたちどこから別れようかしら」
「えっ」
「ここから先はもうみんなライバルってことでしょ?でもアタシギスギスしたのはやーなの。だからお互い正々堂々と気持ちよく汗を流した上で勝ったり負けたりしたいなって。それを決めるスタートライン、どこにしようかしら」
「そうだね……じゃああの木を越えたところで」
ロシュアが指さした地点には王都の街中では珍しい一本の大木が生えており、そこには大きめの木陰が一直線のようにかかっていた。
「……うん、良いわね。じゃああそこを越えたら本格バトルスタートね。手加減はしないわよ」
「こっちもね」
木陰に到着した後、二つのパーティーは左右に分かれて宝探しを開始した。
カムイもあちこちをキョロキョロと見回してみた。
「しっかしどこにもそんな宝なんて見当たらないぞ。本当に王国領全部回るつもりでやるのか?」
「それはちょっとしんどいからさ、魔法使っちゃおうよ」
カムイの返事を待つ前にロシュアの範囲魔法が発動する。
王都全域を包み込むように見えない魔法の網が張り巡らされていく。
「ねぇ今何やってんのロシュア」
「範囲魔法でここら辺を探してんだと」
「え?ここら辺全部??ヤバくない?」
「バーカ。だから言ってんだろ。ロシュアはやばかったんだって」
「でも分身体だからね……魔力もできることも本体と比べられると大分制限されちゃうんだ」
「いやいや十分過ぎるぜ。そんで宝って見つかったのか?」
範囲魔法を解くとロシュアは大きく息を吐き出した。
「とりあえずこの近辺だけでも36個は確認できた。うち8個はこの木の中にあるよ」
「なんだと!……はははそりゃ盲点だったぜ。よーしお前ら、この木を片っ端から探っていこうぜ!」
「おーっ!」
カムイとロシュアの捜索によって木の中から幾つかそれと思わしき無機物が発見されていった。
しかしそれらは全て〝宝〟と呼ぶには余りにも陳腐で杜撰なものばかりだった。
「……なんだよガラクタばっかりじゃねぇか」
割れたコップの破片や、ゴムでできた球体に、ありえない方向にねじ曲がった食器など到底宝とは思えないような代物が木の根元や幹の隙間に隠されていた。
内一つはとても大層なものでもしまってあるかのようにご丁寧にも箱の中に詰め込まれていた。
箱の外装が豪華だっただけに、カムイたちはひどい肩透かし感を喰らって放心していた。
「あのギルドマスターさ、絶対意地悪いよねきっと……」
「僕もそう思う……。それに常人が見つけ出せるようなところには隠してないと思う」
「とりあえずこいつらはゴミってことか?それともこれもポイントに含まれんのか?」
「一応魔法で隠してあったみたいだし、もしかしたらそれこそこういう一見使い道のないアイテムに見えるものが実は高ポイント〜みたいなこともしそうじゃない?あの人」
「た、確かにな……けどよ、持っておくにしてもスペース足りなくならないか?」
「あぁそれは大丈夫。アイテムボックスがあるから」
そう言ってロシュアはかつて自分が作ったお手製アイテムボックスをどこからともなく出現させた。
しかしそれはとてもこじんまりとしており、カムイの腰に身につけていた空の小袋よりも矮小だったため、最早箱であるかも疑わしいほどだった。
「こ、これがアイテムボックスなのか?えらいちんまりとしてるが……」
「うん。僕が前作ったやつを改良してみたんだ。試しに入れてみなよ。見た目によらず色んなもの詰められるよ」
「おおお……すげぇ。一瞬でぬるっと入っていったな……」
「え?てかこれ自作とかどんだけなんロシュア」
「一応100万個は物が入るはずだから、空きが足りなくて困ることはまずないとおもう」
「ひゃ……っ!?」
カムイたちは開いた口が塞がらなかった。
「そ、そそそそ、そんな大容量のアイテムボックスなんか聞いたことも見たこともねぇぞ!?た、たしか大賢者とかが昔作ったらしいアイテムボックスでようやく1000個とかで、大飢饉や災害に備えて民に希望をもたらしたとかで……」
「すっご〜!独学でこんなもん作れるの?」
「う、うん……」
ちなみにこれに似たような物は一度前にカムイたちの前で作ったのだが、その時は然程重要視もされず「そんなもん作って遊んでる暇があるなら武器の一つでも作れ」と言われていた程度だった。
ロシュアなりに複雑な表情を隠せずにいたが、ともかく得られた戦利品を全てアイテムボックスに詰め込んでいった。
――その直後、空気がピリッと揺れ何かが変化したのを一同は感じ取った。
振り返るとものすごい速さで針がロシュア目掛けて飛んできた。
すんでのところで回避したため、木に命中しただけで事なきを得た。
「……っ誰だ!」
「げへへへ……お前ら……アイテムボックスなんて良いモン持ってんじゃねぇか」
ロシュアの呼びかけに応じてぞろぞろと建物の影から黒ずくめの男たちが一斉に現れてきた。
全員黒い目出し帽を被っており、服からズボン果ては靴に至るまで全身の全てが影に混じりやすい黒色に包まれていた。
リーダー格の男と思わしき人物が唯一手に先程ロシュアを狙った長めの針を所持していた。
目出し帽の隙間から微かに下品な笑みを覗かせながら男たちは針や剣を構え始めた。
「大人しくそいつと今手に入れたお宝をよこしな……そうすりゃ悪いようにはしねぇ」
「くっ……こいつら『黒の盗賊団』か……!」
「誰がアンタらなんかにやるもんですか!」
「へへへ……なら仕方ねえ。そんじゃあ痛い目に遭わせてやるしかねぇみたいだな!!」
黒ずくめの男たちは全員で機敏に動き回りながらロシュアたちの周りを駆け巡っていた。
宝探しと銘打ったこの予選、宝は自分で見つけるだけでなく他者から奪うことも可能という訳か――!
「……厄介だな……全く!」
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