再会と旅立ち
「あらカムイちゃんじゃな〜い。ひっさしぶりぃ〜。ねえねえアタシたち、アルちゃんと組んでAランクのパーティーになったのよ〜すごいでしょ!」
「あ、ぁあ……そうなんですね…………」
「ちょっと何よそのリアクションの薄さは!アタシたち、あれから色々あったのよ〜。龍の討伐をしたり、お使いを頼まれたりホントここ数年あちこちを行ったり来たりの怒涛の大忙しだったんだから……ん?そちらの可愛い男の人はどなた?」
マーブルはロシュアの存在に気がつくと、ぱっと首根っこを捕まえていたアルフレッドを離して急接近していった。
その切り替えの速さと距離感の歪さにぎょっとしたものの、すぐにロシュアは笑顔で彼を迎え入れた。
「は、はじめまして。僕はロシュアです。カムイたちの知り合い……ですか?」
「ふふふ。まぁ色々……ね。ってか、それじゃアナタがウワサのロシュアちゃん?まぁ〜会えて感激ー!!よろしくねよろしくね!アタシはマーブル!この『混沌の隠者』美人団長よん」
マーブルは銀の髪と豊満な乳を揺らしながら前のめりになって自己紹介をした。
求められた握手を受けて互いに親交を深めあっているところに、彼のパーティーメンバーが遅れて到着してきた。
「あっ!お、お前!」
そのメンバーに対して真っ先に反応したのはカムイだった。
それが彼にとって見覚えがあり、忘れ難い人物であったからだ。
「げ、もしかして……カムイさんですか?」
彼女もまた彼を見つめて顔を顰めていた。
純白がまぶしいフリルのシャツに桃色のスカートをたなびかせ、お尻の方には人間らしからぬ龍の立派な尻尾が生えており、どこからどう見ても龍人の女性そのものといった格好をしていた。
そして一番最後に遅れてやってきた脂肪分の塊のような肉体をした男性がハァハァと息を切らしながら入ってきた。
「何何?全員カムイの知り合いみたいな感じ?」
「あ、あぁ……。あの龍人のような女の人はミシロ。人間だったんだがブラックドラゴンに食われちまって、その後どういうわけか生き残って龍に転生しちまったんだ」
「貴方のせいでね」
カムイの口から次々と繰り出される衝撃的事実に耳を傾けている暇もなく、ミシロはジトっとした目つきでカムイを睨みつけていた。
「ワケありってことね」
「はいはい!ミシロちゃんもその辺にしときなさいよ。昔は昔、今は今。でしょ?」
ぽんぽんと子供のように頭を撫でられ、ミシロは小さめな唸り声を上げると不服そうに頷いた。
「しっかし驚いたな……まさかマーブルのパーティーに入ってたなんてな。深紅の薔薇の連中に抱き込まれてたのかとばかり思ってたぜ」
「アンルシアさんたちは王宮の要請もあって冒険者からは一旦手を引いたんです。私はまだ冒険者やっていたかったですし、そこにマーブルさんがたまたま4人目を探しておられたので乗っかっただけですよ」
頑なに彼女はカムイとは目を合わせようとせず、壁に向かって話し続けていた。
3年も月日が経ってみるとミシロも中々に大人の女性へと成長したな、とカムイは思っていた。
気弱でやや頼りなさげだった彼女の表情にはかつての弱々しい面影は無く、堂々としており凛々しい雰囲気を出していた。
片やかつての栄華は見る影もなく、健康的で勢いのあったカムイたちは今やすっかり痩せこけた子犬のように落ちぶれており、それを理解しているからかカムイも彼女を直接見つめようとはしなかった。
「一応紹介しておいた方がいいかしら?ここにいるツンツンくんはアルフレッドちゃん。こう見えて意外と気の利く良い子なのよ」
「余計なことを言うな」
「あ、勇者の人……」
ロシュアが思い出したかのようにポンと手をついた。
「お前もどんな覚え方だ……。俺様こそ稀代の天才。光の勇者――」
「で、こっちがミシロちゃん。優しい女の子だけど、とっても強くて頼もしいのよ」
「おいこら!人の話を遮るぐふ」
自己主張の激しいアルフレッドを押しのけてマーブルは最後の一人を紹介した。
「そして最後にこっちのちょっとぽっちゃりさんが凄腕の盗賊、ルード=グラファイトちゃん。心根のねじくれ曲がったド助平野郎だけど、実は神業の持ち主なのよん」
「ぐへ……ひどいなぁもぅ……」
汗ばんだ顔つきでグラファイトは喉の奥からねちゃねちゃと何かが絡まったような音を発していた。
たちまちソアラたち女性陣の表情が凍りついていった。
「と、というかアンタそんな名前だったのね……名前負けしてんのよデブ」
「ふひっ……き、きみはソアラちゃんだねぇ……また会えて嬉しいよぉ」
「いやーっ!!」
「このノリもなんか懐かしいなぁ……」
思いがけぬ再会を果たしたカムイたちの裏で大きな咳払いをする男がいた。
「……そろそろ良いかな?」
フェルナンドだ。
話の腰を折り遮られたことに対して、彼と仲間たちはひどく腹を立てている様子だった。
「そういえばどうして『永遠なる明星』と勇者のみんながここに?」
話の根本に立ち返ろうとロシュアが背後のギルドマスターに疑問を投げかけてみた。
依然ギルドマスターは「?」という顔つきでふにゃふにゃ寝言を呟いているだけだった。
「……っ!まさか忘れたとは言わせないぞ!今日はここで古今東西からあらゆるパーティーを集めて『勇者決定会』を開催するということを!!」
堪らず声を上げたのはフリードだった。
これまでにないほど腹の底から力を込めて大声を出して半分寝ぼけているクラウスの首元に掴みかかった。
「勇者……」
「決定会?」
「はて?そんなこと言ったっけ」
「言ったわよ!」
マーブルたちも不安そうな表情を見せていた。
クラウスは両手を交差するとひたすら地面を見つめていた。
「…………あー。あー……。なんか爪先まで思い出しかけてきたかもしれん……。そうそうそういえばあったよあった。いやー忘れてたよ」
「…………先行きが不安になる発言ね……」
フェルナンドの話を聞くに、発案も司会進行も全てギルドマスターである彼女本人で集合場所もここ王都ギルドになっていたのだが、当の本人が今の今まですっかり忘れてしまっていたことで会場は急拵えのドタバタ感を余儀なくされた。
「…………こ、こけにしやがって……!」
怒りに震えるSランクパーティーを横目に、ロシュアはやれやれとため息混じりに壇上のギルドマスターを見つめていた。
「にゃーははは。いやーここんところ激務過ぎてすっかり忘れとったよ。えーこほん。森羅万象古今東西あまねく冒険者諸君よ!!よくぞ集まってくれた!この場にいるということはつまり、諸君らは今より始まる過激な地獄に飛び込む覚悟を持った勇気ある冒険者である!!」
「えっ?」
何も知らされていなかったロシュアとカムイたちだけが置いてけぼりにされていた。
それに対する詳細な説明などはなく、ひたすら現場ではクラウスの進行が続いていた。
「まず諸君らに敢えて今更説明する必要もないと思うが、今大会は世界を託せるほどの逸材、新たな伝説を生み出し得る『勇者』を選定するためのものである。諸君らもご存知の勇者とは、民そして国から認められた天才中の天才であり、王都の長い歴史の中でも幾度となく選定されてきた偉大なる存在のことである」
「…………そうなの?」
ロシュアがふとアルフレッドの方を向いた。
「何故俺を見る」
「今大会は大きく予選と本戦の二つに分けられる!まず第一の振るい分けだが、これより3日の間、諸君らには我らがジール王国国領全土に渡りこの私が隠した〝ある宝〟を探していただきたい!」
「ある宝?」
「宝は至る所に隠されている。山の中、海の底、果てはどこまでも広がるこの空の上……。しかし簡単に見つけられてもつまらんだろうと思い、私はあるルールを敷くことにした。それがこれだ」
クラウスが合図するとカーテンの向こう側に巨大な紙が表示され、そこには数字や文字が刻まれていた。
「私の隠した宝にはその捜索難易度からA+〜Fまでのランク付けがなされている。どれがどの難易度に該当するかは一切説明しないし聞かれても答えるつもりはないっ!諸君らが『これだ!』と思った宝を好きなだけ集めてきて欲しい。また、集めてきた宝にはランクに応じて更にポイントが付与される仕組みとなっている。Aランクのものなら100点、Dランクのものなら15点とこんな具合にね。最終的に集めてきた宝の合計ポイントが最も多かったパーティーを上から順に8つ選び予選突破とする!説明は以上!」
会場に集まった複数の冒険者たちが一斉に歓声を上げた。
「な、なんかとんでもないことが始まってるみたいだね……」
「あぁ……パーティー再結成したばかりだってのにな」
「今の説明で理解できなかった凡人はすっこんでいろ」
またしてもカムイたちの神経を逆撫でするような発言をしたのは会場内唯一のSランクパーティーが一人、フェルナンドだった。
彼は高圧的な口調と余裕たっぷりの笑みを浮かべて髪をかきあげた。
「そこで指でも咥えて見つめているがいい。俺たちが真の勇者となる瞬間を」
風のように消えていったフェルナンドたちを見て、カムイたちは久しぶりに忘れかけていた怒りを思い出してきた。
「むきぃいいいっ!!何なのよあいつらっ!Sランクだからって調子に乗りすぎ!!性格悪いし!」
「…………」
彼らの態度に思い当たる節があるようなないような、ロシュアはひたすら汗をかいて立ち尽くしていた。
「なんだか知らないが、とにかくやるっきゃないな。正直初クエストがこんなに大掛かりなもんだとは思ってなかったが、これは良いチャンスだ。行くぞみんな!」
「おーっ!」
そうしてリーダーカムイの下、再び獣王団は冒険へと乗り出した。
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