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Sランクパーティー、登場

「お疲れカムイ、みんな。どうだった?」


「あぁ。……なんとかギリギリクリアできたぜ。一応ランクD冒険者として始めさせてもらうことになったんで……まぁよろしく」


「へぇ。実は僕も新しく試験を受けた直後はDランクからスタートしたんだ。なんか感慨深いものがあるね!」


「そ、そうなのか?お前ならAスタートくらいだと思ってたのに」


 大層不思議そうな様子でカムイは満面の笑みを浮かべるロシュアを見つめた。

 今でこそロシュアはSランク冒険者に相応しい偉業を成し遂げた実力者ではあるが、新たに冒険者としてやり直した際はDからだったのだ。

 カムイの仲間だった頃は更に下のFランクであり、その素晴らしい才能はずっと埋もれたままだった。

 ロシュア程の実力があれば色々な過程をすっ飛ばしていきなりAから始まってもなんらおかしくない。

 少なくともカムイはそう思っていた。

 実際その評価は至極正しいのだが、ロシュア自身そこまでランクに確執や拘りも見せなかったため、繰り上がるのが大分遅れてしまっていたのだ。

 無論本人もそれで構わないと思っている。

 ロシュアは飽くまで人から認められてようやく功績を挙げるようなタイプなのだ。

 向上心とプライドの塊であるカムイとはそこが最大の違いであった。

 

 ともあれこれで全員冒険者登録を済ませたことで、晴れてパーティーとして活動することができるようになった。

 期待を胸に早速クエスト受注に乗り出そうとした途端、王都ギルドの扉が威勢良く開いた。


「……全く。どいつもこいつも大したことのない有象無象ばかりじゃないか。これではわざわざ遠くから来た甲斐というものがない」


「……ですね。まぁ多く見積もってもAランクの冒険者ばかり……。ふっ、我々には取るに足らない連中ばかりです」


「そう言うな。弱者はとても弱い。弱いなりに必死で頑張っているのだ。蟻さん頑張れの精神で応援といこうじゃないかフリード」


「筋肉ダルマくんの良い人アピールうざいでーす(怒)いい加減本音のどす黒い部分を曝け出して社会的に死んでくださーい(笑)」


 突如として現れた四人の男女たちはズケズケとギルドに向かって躍進してきた。

 一見失礼極まりない彼らの歯に布着せぬ言動にさしものカムイたちも唖然としていたが、すぐに彼らを見つめ直して背筋を引き締めた。


「あっ、あいつは……!」


「今をときめくSランクパーティー、『永遠なる明星』の御一行だね」


「わあああっ!ぎ、ギルマス!いつの間に……!」


 半ば恒例行事と化したギルドマスター・クラウスの神出鬼没にロシュアは別段驚きもせずにため息をついていた。

 紹介にあったSランクパーティーは、たしかにその場の誰よりも派手な衣装を身に纏い、常人ならざるただならぬオーラと圧倒的な存在感を放っていた。

 大柄な男にフリードと呼ばれたメガネの男性がクイッと中指でフレームを整えた。


「ふん……。これはこれは初代ギルドマスタークラウスさん。雑な紹介をどうもありがとうございます」


 皮肉たっぷりの挨拶と最低限度のお辞儀を済ませ、フリードは前に乗り出した。


「で、そちらのゴミは一体なんですか」


 彼は明らかにカムイたちに向けて挑発するように冷たく言い放った。

 そのあからさま過ぎる真っ直ぐな煽りを間に受けて、ソアラが顔を真っ赤にして怒りを露わにする。


「なっ、なによ……!!」


「お、落ち着けソアラ……!」


 暴れ出すソアラを羽交い締めのように背後から手を回したカムイに対し、「実に滑稽」と言わんばかりにフリードは微笑を浮かべていた。


「全く……ここは家畜小屋か何かなのかい?耳障り目障り鼻障りと堪らないよ」


「あ、あんたがどんだけ強くて偉いか知らないけどね!ちょっといきなり言い過ぎなんじゃないの!?あたしらがなんかあんたらにしたってわけ!?」


「それは違うぞ女」


 大柄な男は音も立てずにソアラの背後にふっと出現し、彼女の数倍はありそうな大きな掌を小さな頭上に掲げた。


「弱いものは強いものに逆らうことはできない。これは自然の摂理だ。故にお前たちの様に弱い弱いか弱い羽虫は俺たち強いものに何を言われても仕方がないのだ。ましてや『言い過ぎる』ことなどありはせんのだよ」


「な、なによこいつ……!」


 子供のように撫でられようとする大男の手をさっとかわしながらソアラが嫌悪感たっぷりの眼差しで見上げた。

 男は上半身裸であるが、鎧など不必要なほどにパンパンに膨れ盛り上がった硬そうな筋肉をしており、今にもソアラのか細い首など軽く捻り潰してしまいそうな雰囲気を醸し出していた。

 腹部から背中の至る所に夥しい数の傷跡が付けられていたが、そのどれも紋様のように黒く塗り潰されていた。

 どこまでいっても嫌味な口調と全身から滲み出る不快感を隠そうとしないフリードと異なり、大男は陽気にガハガハと大声で笑いながらまるでそのことがさも当たり前の常識であるかのようにしていた。


 ある意味底が見えない彼の態度に却ってソアラは恐怖を覚えた。


「……な、なんなのよこいつら……Sランクパーティーだからってなんなのよ……」


「聞いたことがあるな。ここ数年で数々の偉業を成し遂げて名実共に最強のSランクに成り上がったパーティーがいるって」


 ロシュアが額に緊張感を漂わせながら語り始めた。

 その噂はカムイも酒場で働いている時耳にしていた。


 稀代の天才であり、回復魔法の使い手フリード。

 無から有を作り出すと言われる世界でも5指に入ると謳われる魔法使いカーラ。

 1000人もの大群を相手に三日三晩傷一つ付けられることなく戦場に立ち尽くし、生き残ったとされる戦場の英雄マルコ。

 そして最も彼らをSランクパーティーたらしめている大賢者フェルナンド。

 特にフェルナンドは一時冒険者人生を退いたロシュアに代わって台頭してきた天才中の天才であり、才覚だけなら彼をも凌ぐと噂されていた。


 左右で色の異なる瞳を携え、透き通った銀色の前髪を揺らしながらゆっくりとフェルナンドはロシュアの元に歩み寄ってきた。

 彼もまたカムイたちなど眼中にもなく、まるで居ないものであるかのように押しのけてロシュアの前に立っていた。


「……こちらも風の噂に聞き及んでいるぞ。王都には魔王さえも手玉に取り、世界を操るほどの大魔法使いロシュアがいる……とな」


 普段なら称賛を素直に受けて照れているロシュアであったが、フェルナンドから向けられた憎悪に等しいおぞましい感情の込められた目線から、全くそのような心持ちになれなかった。

 ――それどころかむしろカムイたちを邪魔者扱いした横柄な態度に怒り心頭……といった様子でさえある。


 今にも一触即発な雰囲気の中、いつの間にか集まっていた聴衆たちが彼らを見つめて査定する。


「お、おい……さっきロシュアって言わなかったか……?」


「嘘だろ?あの伝説の?」


「ばーか。今はフェルナンド様の時代だろーが。そりゃたしかにロシュアは一時代築いた大物だろうけどよ……」


「けど見てみろよ。ああして並んでみると、どっちも中々迫力あるじゃねぇか」


 ざわついてきた会場など意にも介さず、両者は一歩も譲らず見つめ合ったまま固まっていた。

 勝負は今から始まっている――。

 バチバチと殺気をぶつけ合う2名に割り込むようにクラウスは火中に飛び込んでいった。


「はいはいストップストップ。ええとぉ?まずぅ……チミたち?多分リーダーのフェルナンドさんだと思いますけど、いきなし現れてギルドの冒険者全体を侮辱するような行為は謹んでもらいたいですなぁ。仮にも皆の憧れ、規範となるSランクパーティーなのですから」


「……ふっ、いやいやこれは失敬した不老のギルドマスター殿よ。俺もこいつらも、どうにも長旅でストレスが溜まっているようなのだ。まぁ本当に自分が弱いと思っていないのなら、軽く聞き流してくれ給えよ。ほんの冗談というやつだ」


 うすら笑いを浮かべるフェルナンドには、ちっとも譲歩や協調などといった感情は込められていなかった。

 この場にいる全員を敵に回しても何ら不利益にならない――いや、むしろ望んで敵になろうとしている節さえ感じ取れた。


「……そもそもちみたちは一体全体なんでここに……」


 ギルドマスターの言葉を遮るように彼らの後からまたまたパーティーが現れた。


「ふぅ!ギリギリセーフかしら?いやぁごめんなさいね。アルちゃんがお寝坊さんだから時間間違えちゃって……」


「おい!わざわざそんなこと言う必要もないだろこのオカマ野郎!勇者である俺の印象がだな……って、んっ?あいつらって……」


 そのあり得ないメンツを目撃し、カムイたちに再び動揺が襲いかかった。


「な、なんであいつらが……!」


 彼らはここ数年でAランクの仲間入りを果たしたパーティーであった。

 そしてそのメンバーの半数はかつてカムイが入隊拒否した〝イロモノ〟たちであったのだ。

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