ゼロからの冒険者試験②
「なんでしょう……この感覚……!久しぶりにピンチだというのに、ものすごく燃えてきちゃいました!」
「あたしも!……なんかいけそうな気がする!」
新たな希望に満ち溢れた俺たちは今や一致団結して強敵に立ち向かっていた。
かなり無茶苦茶な戦力差ではあるが、それをひっくり返すことができる起死回生の策が俺たちにはある。
正面を俺が、左右にソアラやルーナたちが散らばりドラゴンを囲んでいる。
強敵の唯一弱点たり得る可能性がある背中は未だガッチリと守られている。
けどもしかしたら……。
「あのバカでかい龍をすっ転ばせることができるかもしれねぇ」
「どうやってですか?」
「……ソアラ、お前氷魔法は使えるか?」
「えっ?ま、まぁ一応やれないこともないけど……」
彼女は自信なさげに頷く。
ソアラは炎魔法専門の一流魔法使いである。
しかしそれと相反する属性である氷の魔法まで覚えるとなると、さしものソアラでも難しいに違いない。
とはいえ、今回は致命打を与えるための氷じゃなくていい。
ほんの少し、地面を氷漬けにしてくれりゃそれで。
「今から俺があいつの注意を引きつける。その隙にソアラはこの床に氷魔法を張り巡らせてくれ。そしてルーナはチャンスがあればあいつの背中を狙うんだ。できるだけあのドラゴンにもわかりやすくな」
「そ、そんなことしたらまた逃げられてしまいますよ」
「いやそれでいい。……だから出来るだけソアラの作った氷のとこまで追い込むように背中を狙ってくれ。いいな?」
それを聞くと二人とも決意に満ちた表情で見つめ返してくれた。
いくら囮作戦を取ったところであいつの背後を狙うことなんてそうそう無理な話だ。
奴はこちらの存在を感知した時点で凄まじい速さで逃げ出して行っちまう。
だったら勢いよく転ばせればいい。
深呼吸して龍の前に立ちはだかり、手にした剣を勢いよく奴にぶつける。
案の定硬い鱗に阻まれてまともなダメージになりはしない。
だがこれだけでも龍の注意を引けることはさっきのさっきで学習済みだぜ……!
「オラオラこいよ!その翼は飾り物か?お前の攻撃なんてな、これっぽっちも効いちゃいねぇんだぜ?!」
わざとらしく手を叩いてみて煽るようなパフォーマンスを取る。
生憎煽るのは得意分野なんでね。
言葉を理解しているのかは甚だ不明だが、煽りに乗じて龍はこちらに向かって鋭い爪を伸ばしてきた。
それを合図にソアラが氷魔法を床の僅かなスペースに張り巡らせ、ルーナがガラ空きになった背後を狙う。
出来るだけ引きつけておくためにその場に残った俺はそのまま奴の一撃を浴びることになった。
右肩にかけてグサリと衝撃が走る。
歯を食いしばってなきゃ悲鳴をあげちまうところだった。
血は吹き出すし額から噴き出る汗でいい加減目眩さえしてきたぜ。
だが龍は攻撃を終えた途端、ルーナの攻撃を敏感に察知してまた逃げ出そうとした。
けっ一太刀くらいは浴びせたかったぜ。
肉壁損、痛み損だぜ。
しかしその逃げ場には氷で覆われた地面があり、足元を確認せず全力で突っ走ってきたドラゴンはバナナの皮でも滑るようにつるんと間抜けに滑り落ちた。
焦っていたのかゆっくり爪で地面を掴むこともままならず、奴は横倒しになってしまった。
あれほどの巨体だと落ちる時に衝撃波と共に轟音が鳴り響く。
地響きをあげたドラゴンは起き上がれない。
「今だ!奴の背中を狙え!!」
「はい!」
鉄の味がする口でなんとか大声を絞り出すと、ソアラとルーナが一気にガラ空きになった奴の背中を狙った。
弱点を切り裂かれたドラゴンはけたたましい悲鳴を上げると、突然肉体が徐々に姿を消え始めやがて完全に風と共に消滅した。
「ど、どういうこった?」
「わ、私たち……倒した……んでしょうか?」
「おめでとう!!よくやった負け犬諸君!!」
高みの見物を決めていたギルマスが天空から舞い降り、拍手を送ってきた。
どうやら試験終了らしい。
ルーナに回復してもらい傷を癒すと同時にどっと疲れがやってきたのか、俺はその場に寝転んだ。
しんどい。
久しぶりにマジの大物戦闘をしたって感じだ。
「いやーはじめはどうなることかと思ったよ〜。感動したっ!!きみたちならやればできると信じてたよ」
「ったく……どの口が言うんだか……」
けど試験を攻略できたのは紛れもなくギルドマスターのお陰だ。
あのまま何の助言もなく進んでいたなら、間違いなく終わっていたのは俺たちの方だったことだろう。
「ありがとな。ようやく思い出したぜ」
「おいおい感謝なんてしてくれるなよ。何か掴んだのは君たちだ。あたしゃ何も特にしちゃいないよ」
「そうかよ」
「ねーねー!あたしらめちゃくちゃ強くなったんじゃない!?あんなにすごいドラゴン倒したんだし!!もうランクAに帰り咲いてもいいんじゃない!?」
達成感からかソアラがやたらとテンション高めに同意を迫ってきた。
「おいおい。楽に勝てたわけじゃないんだぜ。……まぁあのドラゴンはそりゃあA級だったかもしれねぇが……」
「んにゃ?何を言っているんだい?あのゴールデングランドドラゴンは討伐難易度Cだで」
「………………ん?Cぃ!?」
いやいやいやんなバカな。
だってあいつあんなに強かったってのに……。
あれがワイルドオークとかと同じCだっていうのか。
「弱点に気づければ普通に誰でも撃破できるし〜。あとドラゴンとは言っても所詮ギルドが作ったしょっぱい土人形だし〜模造品だし〜。偽物だから決まり切ったパターンでしか行動できない事を加味してもギリギリのCだであいつは」
「ま、まじかよ……」
AはいいすぎにしてもまさかBでさえないなんて。
俺は今後何を信じたらいいんだ。
「ちなみにチミたちがかかったタイムは5分25秒だね。うーん、遅いっ!!」
「ひ、必死だったんだよ俺たちも!!」
というか初見殺しが過ぎる。
誰があんなデカくて強い化け物の弱点を看破できるんだよ。
「やられた回数と倒すまでにかかった時間を考慮して……うん。おぬしは全員Dランク冒険者ってことじゃな」
「ま、前より下がってるぅ〜!!」
まぁ前は俺が間抜けなことやらかして不正の末にCに降格したってだけで本当の実力はどんなところか不明だったからそんなもんなんだろうけど。
し、しかしDかぁ……。
過信するわけじゃないが、せめてBくらいにはなれると思っていた。
以前測定した結果より大分衰えている……ということなのか。
「いやいや。チミたち自体はそこまでランクダウンしちゃいねーよ。……ただ年月も大分経ってランクの基準それなりに高くなってきちゃってるのよ。数年前まではランクAだった人が呆気なくCに落ちるって話も実はそう珍しい話でもないわけよ」
「そ、そうなのか?」
「まーランクなんてものは常に更新されてナンボだし?それに合わせて魔物なんかも段々強くなっていくわけだからさ。日々精進せいってことだよ若者よ!」
勢いよくケツをバチンとしばかれてしまった。
なるほど。そういや時間で言えば俺たちがAとして名を馳せたのなんてもう5年以上前の話か。
流石にそれだけ時間が経てば実力に差が開いてもおかしくはない……ということだな。
自力でAに登るのは並大抵じゃないぞこれは。
一体あとどれだけの年月がかかるやら。
「おいおい。そんなシケたツラしてんじゃないよ。まだDだぜD。これからまだまだ未来も希望も一杯あるじゃねぇか。まぁまたゼロから頑張れよ。今度はロシュアの枷にならないようにね」
「誰がなるか」
日々精進か……。
努力なんて天才には縁遠いものだと勝手に勘違いしてたな。
世の中には努力する天才もいるんだ。
例えばロシュアとか。
そんな奴らに勝って這い上がるためにはこっちも努力で勝つしかねえな。
まずは一勝。
この調子でどんどん強くなっていってやろうじゃんか。
手にしたライセンスを握りしめ、俺たちは新たな一歩を踏み出していった。
準備は整った。
俺たちのゼロからの冒険はここから始まるんだ。
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