適正検査と実力測定①
適性検査とは、どの職業に就くのが最も相応しいのかを簡易的に測るためのものだ。
たとえば剣が優れている人は『剣士』や『戦士』など肉弾系前衛職に。
魔力が高い人は更にそこから本人の魔法の特性によって攻撃系の『魔法使い』と回復系の『僧侶』に分かれる。
もちろん全部優れてるっていう稀代の天才やスーパーエリート新人類みたいな人もいる。
そういう人たちはこの適性時点で異例の結果を叩き出し、特例でS級の扱いを受ける。
常人と混ぜないための措置であると同時に、検査の手間など省くためだ。
まぁ本当四半世紀に一度あるかないかくらいの奇跡なんだけどね。
まずは何もかも初めてなターシャさんに譲ってみる。
彼女は期待と緊張を胸に抱いたような顔つきで、眼前の水晶球に触れる。
水晶はぽうっと青色の穏やかな光を放った。
ということは――
「うん。ターシャちゃんは『魔力』が高い『僧侶』系に属する人間だね」
やっぱり。
大抵青色は回復魔法に長けた人間が出す光の色だ。
赤が攻撃系じゃなかったかな。
緑が一般的な人間で、白色が魔力がほとんどなかったり、魔法以外に優れた才覚を持つ人……そんな感じだったと記憶している。
何も光らなかったら魔力も他の才能もなしみたいな。
ちなみに前の僕は何も光らなかった。
何回手を触れてみてもダメで軽くショックを覚えた記憶がある。
続いてサラさんに譲ってみたが、彼女は「先にやれ」と面倒くさそうに言って頭から降りようとしなかった。
しょうがないので僕が水晶に手を触れた。
水晶は何も光を放たず、変わらないままだった。
ほらねやっぱ――
「うわあああっ!!な、なんですかこれ!」
そう思っていた矢先、先ほどまでうんともすんとも言わなかった水晶くんが突然虹色の光を上げて存在を高らかに酒場中に主張し始めた。
「あ、赤?緑?いえ青に――そ、測定できましぇん!」
情けない声をあげてガーベラさんは目をチカチカさせていた。
うっかり失明させてしまったんじゃないかと心配になったが、なんとか皆無事に目が見えるようだった。
そして水晶は役目を終えたように音も立てずに砂となって消え去った。
「あっ……あああ!すみませんすみません!い、今直しますから!」
「あーいやいや気にしないで。こんなのよくあ……いやよくあることでは全くもってないけど、代わりの玉はいくらでも待って今なんて言った直すって――」
「『再生』」
すると塵と化したかつて水晶だった砂粒は徐々に一つに集まってゆき、元通りの美しい球体へと姿を変えていった。
「いやーよかった。……って良くなかったか。すみませんでした僕の不手際で……」
「いっ、今何をどうやったんですか!?回復以外のさ、再生魔法なんて神話の書や古代の文献以外で聞いたことも見たこともないですよ!?」
「え。普通ですよ。前のパーティーではよく壊れたやかんとか、取れちゃった紐とか直すのに使ってましたから」
「いや使い方っ!!」
仲間からは『地味でパッとしないお前そのもの』な呪文と言われ、これもハズレ同然の役立たず魔法という扱いだったんだけれども。
そんなに驚くほどのことなのだろうか。
誰でもやったらできるからそう言ってたんじゃないんだろうか。
「い、いやいやいや。壊れたものを修復するのってすんごい大変なんですよ?我らがギルドの総統者様ですら、三日三晩寝ずに魔力を込め続けてようやく元に戻るかどうかって具合なんですから……まぁだから新品一杯買って作ったりしてるんですけどね。……それをこんな短時間で、しかも新品同様の規格まで修復再生できるなんて…………さっきの虹色の光といい、あなた一体何者なんですか?」
「えっと……元荷物持ちでFランク冒険者です」
「神様にその嘘まみれの舌を引き抜かれて死んでしまえ」
ええー。
その後すぐ彼女は「すみませんつい」と謝ったので半ば冗談だとわかっていたが、そんなに大それたことなのだろうか。
いやまあギルドのお偉いさんがそんだけ苦労してやることなんだから、すごいことには違いないんだけれど……。
イマイチぱっとこないな。
そしてようやく満を辞して精霊様が水晶に手を触れた。
水晶は真っ赤な炎を上げて燃え盛っていた。
「お、おー……すごいですね。これはもうミタコトノナイ炎魔法の使い手デスヨーヤッター」
《声が死んでおるぞ人間。全く気持ちが込められておらぬわっ!ご主人様の後だから無理もないが!!》
完全に空気を持っていってしまったようだ。
なんか申し訳ない……。
目立つ必要のある場所でもないんだけど。
「さーてそれじゃあいよいよみんな大好き実力測定の時間ですねー」
「実力測定って……何するんですか?」
「はいこちらっ!ギルド特性サンドバッグ型インディケーター『サンドバッグ=クン』でーす!これを数分の間、ひたすら殴り続けちゃってください!」
「ええっ!?」
「そしたらこちらの用紙にあなたの叩き出した測定結果が自動筆記される仕組みになっておりまーす。なんでかわかりませーん」
そこは分かってなくていいのか。ギルドの職員よ。
まぁこんな複雑そうな仕組みを全部理解しろという方が無理かもしれないけども。
見るからに間抜けそうな顔で今にも「殴ってください!」と言い出しそうなお顔をしたサンドバッグ同然の変な物だったが、これでも歴とした測定装置だ。
これを殴りつけることで、色々詳細な結果がフィードバックされる。
たとえば魔力:100とか、物理適正:80とか。
こういった書かれ方で、測定者のありとあらゆる綿密で詳細な情報がこれでもかと言わんばかりに書き記される。
前やった時、全ての数値は「0」だった。
散々このことを仲間や他の人にもいじられたっけな。
ターシャさんはどんな結果になるのだろうか。
「では測定はじめーっ」
「オラオラオラオラオラ!」
ターシャさんは聖女としての顔つきから一転、マッチョメンな武闘の方を連想させるゴツいものになっており、日頃の鬱憤を解放するようにサンドバッグくんをボコボコに殴りつけていた。
しかしよかったのは外見上の勢いだけで、サンドバッグ=クンは何発食らっても揺れることひとつなくその場にぷかぷかと浮いていた。
やり尽くした彼女が息を切らしたところで測定結果が書き出された。
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実力測定 結果
測定者:ターシャ
性別:女
種族:人間
実施者:ガーベラ
以下全て推定値
攻撃力 :20
防御力 :10
回復魔力:120
攻撃魔力:10
俊敏性 :8
体力 :2
器用さ :18
総合判定:Dランク
特化判定:Bランク僧侶
あなたは 僧侶系職業に適正があります。
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ターシャさんの結果はこの通りだ。
ただ殴ってるだけなのに防御力の測定まで出来るとはこれいかにといった感じだが、気にしたら負けなのだ。
その後やる気のなさそうな精霊様は「しばらくご主人を見ている」などと仰り、またまた僕がサンドバッグ=クンを相手取った。
どうしよう。また水晶みたく壊れたら大変だしな。
「心配なさらず!このサンドバッグ=クンは特別製中の特別製ですから!絶対に壊れません」
「そうなんですか?」
「過去にこれを壊した実績があるのはS級の勇者だったり、大魔道士や賢者様くらいですのでー。正確な結果を出すためにも本気でお願いします!」
よしよし。そこまで言ってくれたならもう安心して全力を出せるぞ。
「はぁーっ‼︎」
ありったけの力を拳に込めてサンドバッグ=クンに打ち込んだ。
すると当たった手応えもないうちから彼は一瞬で弾け飛び、更に酒場の壁をそのまま突き破ってその空間だけをぽっかりと消し去った。
「ええええええええ!?」
その場にいた全員が叫び声を上げた。僕も。
消し飛んだ空間からは外の景色が丸見えとなっていた。
壊れないと念押ししてくれたその舌の根も乾かぬうちにこの事態。
しかも本気で殴ったからか、今度は酒場の外にまで甚大な被害が。
測定装置が崩壊したというのに、筆記くんは律儀にも結果を書き記していた。
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実力測定 結果
測定者:ロシュア
性別:男
種族:人間
実施者:ガーベラ
以下全て推定値
攻撃力 :0
防御力 :0
回復魔力:00
攻撃魔力:00
俊敏性 :00
体力 :0
器用さ :00
総合判定:
特化判定:
あなたは
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はぁーやっぱり0かなどと思っていたが、今回はところどころ歯抜けのように空白になっていた。
「いやいやこんなはずありませんよ!!……これ、もしかしたら書き切れていない可能性がありますのでちょっと調整してきますね!」
「あ、うん」
そして新たに大型の機械を導入して書き記した結果がこちらだ。
――――――――――――――――――――
実力測定 結果
測定者:ロシュア
性別:男
種族:人間
実施者:ガーベラ
以下全て推定値
攻撃力 :8256530
防御力 :1509500
回復魔力:22500000
攻撃魔力:162500000
俊敏性 :723500
体力 :500000
器用さ :9800000
総合判定:不明
特化判定:不明
あなたは 全職業に適正があります。
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「えええええ!?」
もう何度目かになる大声を張り上げ、みんなその結果に釘付けとなっていた。
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