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やっぱりキミはそういう奴だよね

「なんじゃロシュアよ」


「その……カムイたちを減刑していただけないでしょうか?」


 その瞬間王様の顔は凍りついたように固まり、その後激しく困惑の色に歪ませた。


「お、お主今何を申しておるかわかっておるのか?!まさかこの大法螺吹きの味方をするというのではなかろうな!」


「み、味方とかそういうのではなくですね……」


「そうだぞ何を考えているんだロシュア」


 聴取の中、虹の翼からもエルフのリーネさんが納得のいかないという様子で割り込んできた。


「どうせキミのことだろうから彼らを憐れんで助けてあげようと手を差し伸べているつもりなのだろうが、それは偽善にさえならない愚行だぞ。カムイたちの犯した罪は罪として、正しく認めさせる必要があるのではないか?」


 リーネさんの仰っていることも尤もな話だった。

 でも、だからこそこんな形で終わらせていいはずがない。


「その通りです。……けれどこの一件には僕にも責任があるんです」


「責任って……。さっき風のサーガ様が明かしてくださったように、キミは完全に疑いようのないほど無実だ。愚かしくも封印を解いてしまったのは他でもない彼らだ」


「ええ。でも、僕はそれをすぐに話さなかった」


 怖かった。話せなかった。

 やった本人じゃなければ良いのか――

 否、そんなことあるはずがない。


「僕は結局止めることもできなかった。いつでもそうなんです。その場の雰囲気に流されるだけ流されて、どうしようもない段階になってようやく事の重大さに気づいて……。今回の出来事だって僕がもっと早くギルドや然るべき機関に報告していれば事態はより迅速に収束していったはずなんです」


「そ、それはそうかもしれないが――」


「見ているだけで何もしなかった。そして封印の事も抱え込んで見なかったことにした。同罪なんですよ、僕も」


「じゃがお主はきちんと再封印の使命を果たしてくれたと聞くぞ」


「そうなんですジール国王様。この件はとっくに終わってることなんです。だからせめて、カムイたちにも反省の機会を与えてあげてほしいのです」


 このまま順当に進めば彼らは多分今後一生日の目を見ることはないだろう。

 確かにカムイたちのしでかしたことはとんでもない大罪だ。

 でもだからといって無事に終わらせた僕だけが救われて、彼らに全ての責任をなすりつけて終わりだなんて、そんなの納得できない。


「罰はもう十分受けたことでしょう」


 聴取の面前で罪を晒され、今までの悪事に否が応でも目を向けなければならなくなり、冒険者としての資格まで剥奪される。

 これ以上はもう良いんじゃないだろうか。

 罪を償う機会さえ与えられず、生命まで奪われなければならない事なのだろうか。

 だからこれは僕の勝手な意見だ。

 事件解決した僕に免じて彼らを許してください、そう言っているようなものなのだから。

 勝手で我儘で傲慢な――一国の王に楯突くような大それた反逆行為。

 でももし叶うなら。


「どうかその機会を今一度お与えください。お願いします」


 僕が頭を下げると、先程までの喧騒が嘘のように全員が静まり返ってしまった。


「それはならん」


 その静寂を打ち破ったのは長身の男性だった。

 彼は鋭く険しい顔つきで僕の方を睨んだ。


「お前は被告人であり、ただのいち冒険者に過ぎない。これ以上の干渉は許されるべきではない。……もう少し自分の立場を理解した方がいい」


「は、はい……すみませんでした」


 まあこうなるだろうな。

 流石にそこまでは叶わない。出過ぎた真似だったか。


「……お前にはできないが」


 しかし彼はそこから付け足すように語り続けた。


「ギルドマスターにはそれができる」


「えっ?」


 それを言った彼は不服そうな顔つきで、ため息をこぼしていた。

 言われたギルドマスター・クラウスさんはニコニコ顔で手を振っていた。


「まぁ初代ギルマス特権ってやつだねー。我の言葉は全てのギルドの総意であるとみなされるってやつ」


「……そういうことだ。彼女を通して自分の思いの丈でも伝えてみるんだな」


 これを伝えるのは本意ではなかったのか、彼は咳き込んでそっぽを向いていた。


 こ、これはチャンスなのか?


「だ、だったらお願いしますクラウスさん!僕にできることがあるなら何でもしますから!どうかカムイたちの処遇を……!」


「ん?今何でもするって言ったよね?」


 クラウスさんは悪魔の如き邪悪な微笑みを浮かべて顔を近づけてきた。

 仮にも裁判で、それも大勢の前でやるような表情では決してなかったが、今は何を犠牲にしてでもこの人に上を説得してもらうしかない。


「じゃあ……あたしと結婚してもらおっかなー」


「えっ……えええええ!?」


 驚いたのは僕だけではなく、聴取や深紅の薔薇の面々(主にはターシャさん)だった。


「ちょ、そんな交換条件あり得ませんわ!!ロシュア様には私という正妻がいましてね!!」


 誰しも訳がわからないという困った様子の中、当のクラウスさんだけはずっと悪魔的な笑顔を浮かべていた。

 ……え。これはいって答えたらどうなるんだろ。

 結婚……するのかな。

 こんな形で。こんなところで。


「冗談だよ。何真に受けてんだよ」


 そのあまりの振り幅の大きさに、恐らくこの場の全員がずっこけてしまったことだろう。


「あ、あのですね!!」


「まあまあまあ。ほんのジョーク談よ。冗ークってやつ」


 この場を和ますために言ったのかもしれないが、全てにおいて果てしなく間違っている。

 少しも反省する素振りもなく、彼女は振り返って王様に喋りかけた。


「ま、ほんじゃそーゆーわけだから。減刑よろしくちゃん」


「お、王様に向かって……なんて態度を……」


「……ま、まぁ他ならぬお主の頼みとあらば聞き入れんわけにはいかんだろう」


 現国王が……というよりジール王国が建国されるよりも遥かに昔から、なんなら創設期からギルドマスターだったようなクラウスさんだからこそ通る無茶だと、王様やお偉い方の態度からなんとなく量り知ることができた。


「お怒りな気持ちもわかるけどさ〜。ちょっと冷静さを欠いてたんじゃない?ロシュアくんの言うようにさ、もう終わってるわけだし」


「たしかにそうじゃな。……じゃが罰は罰として与えるぞ。それもロシュア、お主も巻き込んでな」


「えっ」


 な、なんだろう。一緒に地下帝国10年とかだろうか。

 たしかに何でもする覚悟で口走った言葉ではあったが、今後大丈夫なんだろうか僕。


「まずこの不届き者たちは冒険者資格を剥奪とする。これだけは譲るわけにはいかん。ただし刑期は3年とする。この3年は嫌でもただ働きをしてもらうぞ。冒険者資格をもう一度得たくばみっちり反省の意を態度で示してもらうぞ」


 国王様は先程の血走った怒りの形相から一転、普通の優しそうなおじさまに戻られていた。

 それでもカムイたちは「ひっ!」と怯えてはいたが。

 まあ100年死ぬまで働くよりは何倍もマシになったといえるだろう。


「ありがとうございます」


「ふん。お主にも働いてもらうぞロシュア。お主は今後わしの城の王宮兵士として尽くしてもらうとしよう。お主ほどの実力があるならばそれも相応しいことだろう。じゃが辞めさせはせんぞ。お主が言ったように封印の件やあれこれの事が残っておるからのう」


 じゃが――。

 髭をいじりながら王様は更に言葉を紡いだ。


「この者たちの尻拭いを果たし、無事にこの国の危機に尽力してくれたお主のことじゃ。勝手に魔王の封印を変更したことや、今回の件などはこれで不問としようぞ」


「す、すみませんありがとうございます何から何まで……」


「元を辿ればお主のせいではないからのう。本来なら手放しで賞賛に値することなのじゃが、まぁ色々複雑じゃのう」


「……こほん。え、えー……それでは今回の王国裁判ですが、被告人ロシュアは無罪……として、カムイたち黄昏の獣王団は冒険者資格剥奪の上、3年間は無償労働の刑とする。これでよろしいですかな?」


 すっかり立場をなくしてしまった裁判長が申し訳なさそうに切り出した。


 しかし聴取は裁判が収まるにつれ、ざわつきはじめた。


「なんて素晴らしい人格者なのだ。あれほどの仕打ちを受けて彼らを救わんと乗り出すなんて」


「でも罰は罰でしょう?彼らを減刑してしまえばまた同じことを繰り返すに決まってるわ」


「全くだ。彼らみたいな人間は許されるとすぐにまたつけ上がって同じことを繰り返すぞ。正当な罰を与えるべきだ」


「それは王国がしっかりと見極めれば良いだろう。何も殺す必要はないというわけで……」


「そもそもこいつらに生きる資格はあるのか?極悪人だろ?」


 会場の評価は見事に二分されていた。

 どうやら一筋縄ではいかないようだった。


「ふーむ。どうやらあたしらだけで決定するのもなんですかね」


「え、ええ……。そのための民衆ですからね」


「こーゆー時、揉めたらコイントスよね」


「そんな規則知りませんよ。多数決で是非を取りましょう」


「あーそうそうそれそれ」


「仕方ないのう……ではロシュアの提案に可決するものは左手を、そうでないものは右手を挙手してくれないか」


 すると先程の意見のように本当に右と左の真っ二つに分かれていた。


「ありゃーえーと数えるねいちにい………ざっと賛成13、反対13とありゃりゃりゃ。全く同じになっちゃったよ」


「どうします裁判長」


 一応民主主義に則って聴取の意見は聞いてみるのだが、最終的な決定権は裁判長に委ねられる。

 これに関しては民意を無視した独断にならないようにするための取り決めらしい。

 国王の後押しこそあるが、やはりそれでも最後の最後に公正かつ厳正な判決を下すのは裁判長なのだ。

 しかし今回のケースは完全に是非が互角。

 裁量は彼の手にかかってるといっても過言ではない。


「それでは最終的な判決を言い渡す。今回の件で、民意はカムイらを許すものと許さないものに二分されたが、私は……」


 深呼吸し目を瞑った後、ゆっくりとその目を開いて彼は宣言した。


「私は裁判長として彼らの人としての可能性を信じて、今後同じような悲劇が二度と繰り返されぬよう、より良い道に進んでくれるという想いをかけ、情状酌量の余地を与えるものとする!」


「……裁判長……!」


「これにて王国裁判を閉廷とする」


 一同思うところはあったようだが、これで全ての騒動に決着がついたとようやく胸を張って言えるのではないだろうか。

 なんだかとてつもないご都合主義感満載だけど、これでよかったんだよね。


「ロシュア様!どうしたんですか!」


「え?あ、ああ……これで終わりかと思ったら腰が抜けて……」


「全く……。どれだけお人好しなんだキミは」


「でもそれがキミだよね」


 いつもの面々がいつものように笑顔で僕を出迎えてくれた。

 僕は最後にカムイの方を見つめて裁判所を出て行った。

 彼らとまた再会するかはわからない。

 もしかしたらもうこれで今生の別れとなるかもしれない。

 だから僕は彼らをずっと見ていた。

 彼らの姿が見えなくなるまで、目を逸らさなかった。


 弱かった僕を拾ってくれて、ほんの少しでも楽しい時間をくれて、一緒に冒険してくれて


「ありがとう」


 多分、その言葉は放心の彼らに届いているはずはなかった。

 それでも僕は最後にそう呟いた。


 3年後、きっと心を入れ替えてくれるんじゃないかと僕も信じてる。

本当はあと1話くらいで完結の予定じゃったが

もうちょっとだけ続くんじゃ!

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