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質疑応答

 王都裁判所は簡素で窮屈な空間だった。

 四方を囲む巨大な城壁がいかにも犯罪者を閉じ込めるための檻に見えて、居るだけで生きた心地がしなかった。

 その堅牢な世界にぽつんと佇む執務室に僕はぶん投げられた。


「これから裁判の為、貴様に質疑応答を行う。なおこれより先の会話は全て記録される手筈になっている。よって虚偽の申告をすることなく、ありのままの真実のみを述べるがいい」


「わかりました」


「では入れ」


 用意されていた椅子とテーブルの先には既に先客がおり、机に足を上げながらタバコを蒸していた。


「おうおうお前か。国家騒乱の嫌疑がかけられているつーやべえやつは」


「え、ええと……はい。あなたは……」


「俺の名はザイム。ま、あんたの弁護人兼裁判なんたらこうたら取締役だ。ひとつよろしくな」


「は、はい。僕はロシュアと申します」


 結局弁護人以外のことは何する人なのかいまいち要領を得ない話し方だった。

 握り返した手はごつごつとしており、体格からも分かるように絶対内職で収まるような人間ではないことが窺い知れた。

 ボサボサとした金髪で健康的な褐色の肌。

 細く鋭い目からは微かに紫色の光が覗き見える。

 相当なやり手なのだろうか。部屋に入ってくる前から僕をじっと睨みつけて離れないことが気になる。


「ほんじゃえー今からさっそく質疑応答をはじめっけども。ここにくるのは初めてか?」


「はい」


「過去の罪状は無し……と。まあこの辺は書類にもある通りだな。んじゃ単刀直入に聞くぞ。禁断の地の奥深くに留置してあった壺の封印を解きましたか」


「はい」


 そこに関しては今ひとつ確信が得られなかったが、多分とか曖昧な答えは言わない方がいいだろう。

 あまりにもあっさりと受け答えをしたからか、ザイムさんは目を丸くして呆気に取られていた。


「み、認めちまうのかよ……まぁいいや。じゃ動機は?」


「動機は……無いです。ぶつかってうっかり割ってしまった……くらいにしか」


「なるほど。故意じゃなくて事故だと」


「はい」


 少なくともそれは嘘じゃ無い。というか、封印の壺だとわかってて叩き割るはずがない。それくらいの常識はある。


「んーそうなるとちょっと面倒だぞ。周囲の状況証拠とか目撃とか色々こねくり合わせてそれが社会的、公平的、そして公正的に判断した上で『故意ではなかった』と認められねぇといけねぇからなぁ」


「目撃……僕はかつて『黄昏の獣王団』の方々と一緒に向かっていました。それ以外に人はいなかったです」


「ま、そいつらに聞くしかねぇわな」


 頭をガシガシと面倒臭そうに掻きむしって彼は次の話を始めた。


「んじゃ次の質問な。お前は復活させた魔王と共同で人間世界に被害を与えた。真か偽か」


「いや……魔王と戦ったのは本当ですが、街に被害は出してない……と思います」


 結構バチバチやり合ったけど、誰も周りにいなかったはずだ。


「いやね。街の人とかから目撃情報が上がってんだけどもよ。何やらメテオを降り注がせたとかなんとか言っててさ」


「げ」


 そういや倒すために使ったんだった……。

 魔王の後に使ったからそう思われてもおかしくないのか……。


「まぁ究極魔法なんてそうそう使えるもんじゃねーし、怪物の側で戦ってたあんたを見て連中が誤解しただけ、とも取ることはできる」


「魔王と戦ってる時に使いました。それは事実です」


「ま、まじかよ。ギルマスから色々聞いてはいたが、そんなに化け物だったとは思いもしなかったぜ。まその件は別にいい。無事封印もしたらしいしな」


 「問題は」と言って彼は机上の足を組み替えた。


「再度封印したはずの魔王を解き放っちまったって話になるんだが、これは真実か?」


「はい。壺の中に一緒に封印されていたかつての英雄、ええっと裸の王様アルリムが暴れていたのでそれを止めるための対抗手段として……僕の独断で開けました。すみません」


「おーそいつのことはきいてるよ。ギルドの連中が全裸の化け物男に手を焼いてるってな。で、そいつは結局どうなったんだ?」


「ここに……」


 僕は菱形のペンダントを机の上に置いた。

 クラウスさん曰く「壺って形にするから復活とか割れたりとか散々な思いをすんだ。だったらこんなふうにお洒落なアクセサリーに形を変えちまえばいいんでねーの?!」と言って封印したものを無理やり加工したらしい。


「へーっ。無事封印出来たってわけだな」


「みんなの力があってのことです……」


「ほんで魔王の方は?」


「い、今は外に出たままとなっています」


 人を襲う心配がないとはいえ、流石にこれはまずい状況だと思う。

 再封印をしなかったのも僕の独断だ。

 好き勝手にやったといえばやったことになる。


「ふー。まぁこんなもんか。一応全部あんたは世のため人のためにやったことで悪意はなかったって見て間違いねーな?」


「はい」


 いっぱいいっぱいだった、という方が正しいだろうか。

 一通りの質疑応答を終えて、彼は立ち上がって言った。


「よし、俺からは以上だ。とりあえずそこで待ってろ。心配すんな。あんたを悪いようにはしねぇ多分」


「は、はい」


 多分ですか。

 なんか心配になる人だったが、悪い人ではなさそうだ。

 もしかしたら良い方にやってくれるかもしれない。

 期待を胸に裁かれる時を待った。

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