疑惑
それは突然のことだった。
楽しい楽しい焼き肉パーティーに興じている頃、その主催者であるクラウスさんが黒鎧の騎士たちを連れてギルドに現れたのだ。
「な、なんでしょうか……あの人たち」
「なにやら穏やかじゃなさそうだな……もぐもぐ」
食べたままシリアスを維持するのは不可能に近い芸当だったが、リーネさんは焼き肉片手に呟いていた。
騎士たちの内の一人が僕の元に直行してきたかと思うと、いきなり手錠をかけてきた。
「な……!」
「貴様がロシュアだな。これより王都裁判所に連行する。抵抗は止めて速やかに連行されたし」
「ちょ、ちょっと待ってください!裁判所って……ロシュア様が一体何をしたって言うんですか!」
黒騎士の一見理不尽にも思える荒っぽい要求に対して、ターシャさんが全力で抗議した。
「黙れ。これは決定された事項なのだ。この者は国家騒動事件の疑いがかけられている重要参考人の一人だ。よって我ら『サイヴァーン』が責任を持って連行する」
「そ、騒動事件って……」
「おい!ギルドマスター殿もなんとか言ったらどうなんだ!本当にロシュアが罪に問われるべき人物なのか、あなたならわかるだろう!?」
「……前にあたしは君たちの味方であるとは限らないって言ったよね」
「い、いやそんなこと言ってない気がするのだが……」
「言ったよ多分63部とか70あたりで」
「相変わらず訳の分からないことを……」
しかしギルドマスターの口調とは裏腹に、どうやら彼女は本気であるみたいだった。
僕たちをまじまじと見つめ、その後手錠にかけられた僕の手をすごい力で引っ張ってきた。
「待て」
立ちはだかったのは深紅の薔薇の皆さんだった。
「これが国家の要求した一大クエストをクリアした人間に対する扱いなのか?突然現れて書類も手続きも無しに送検するとはあんまりではないだろうか」
「だとしたらどうする。ここで我らに歯向かうか」
「随分と暴力的な思考だな。とても『公正』を謳い、『公平』を司る裁判組織とは思えない発言だ」
「我らを愚弄するか!」
黒騎士たちが激昂し、剣を構えた瞬間クラウスさんが手を出して彼らの動きを止めた。
「緊急事態につき王都ギルドマスターとしての権限をもって許可ちまちた。邪魔する人たちはあたしが制裁を下します。それでもよろしいか?」
「くっ……!」
そしてクラウスさんは地面から植物の蔓を召喚し、その場にイユ全員を縛りつけた。
「なんだこれは……!くそっ!動けない!」
「まー諸々の事は裁判で語り給えよ冒険者諸君。今は彼を連れて行かせてもらう」
「こんな横暴がまかり通るというのか……!」
「まかり通るとも。だってあたしはギルドマスターだから」
そう言って彼女はゆっくりと僕を連れて黒騎士の方々と歩き出し、ギルドを抜けていった。
「お前にもきてもらうぞ。黄昏の獣王団」
「へっ?お、おう……あっちょ、お、お手柔らかにしてくれ!」
何故かカムイたちまで首根っこ掴まれ、一緒に彼らの歩く先までついて行った。
「ロシュア様!!」
ドアを抜けようとしたその時、ターシャさんの悲痛な叫び声が背中から聞こえてきた。
「絶対……帰ってきてくださいね!……いや、必ず連れ戻しますから!!」
「うん。またねみんな」
「ロシュア……」
動けなくなった全員の物悲しそうな瞳がちくちくと突き刺さってきた。
大丈夫。絶対帰ってくるから――
なんて言葉が出てこなかったのは、僕自身思い当たる節があるからだ。
一度目の魔王封印解除に加え、二度目の意図的な解放。
これらは言い逃れのできない罪状であろう。
多分そのことでこれから裁かれるのだ。
もう10年……いやもしかしたら一生日の目を見ることはできないかもしれない。
それでも今は先に進むしかない。
ここで暴れて罪が重くなれば、ますますこの世界にはいられなくなるだろう。それだけは避けなくては。
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