カムイとギルマスと騎士たちと
「じゃきみたちはここでおるしゅばんね」
「な、なに!?てめぇそれは……い、いや。それはちょっと無謀ですよギルドマスターさん!!」
「ふぇ?なして?」
「だ、だってですよ?この洞窟はめちゃくちゃ強いバケモンが山ほどいるんですよ?」
「うん知ってる。だからきみたちはお留守番」
「いやいやいや!そ、そんなことしたらギルドマスターさん一人で入る事になっちゃうじゃないですかぁ〜。いくらなんでもそれは無茶というかなんというか……」
「んークラちゃんは大丈夫よん。というか弾除けがある分集中できないかも」
ごく普通に自分たちがハブられ前提の弱いもの扱いをされ、カムイたちは怒りに震えていたが、ここまで散々な思いをしてきたため、ぐっと飲み込むことしかできなかった。
「えい」
クラウスが木の枝で彼らの周囲に円を描くと、巨大な結界が出現した。
「これで外部からは爆弾でも剣でも破壊できなくなったから。安心したまえよーきみたち。ただ内部からはいつでも出れちゃうかんねー一歩でもそこ動いたら殺すよ〜?いいね?」
「あ、はい……」
そうしてなんでもありのギルドマスターが洞窟の中に消えていった。
「でどうすんのカムイ様」
「バーカ。んなもん律儀に守るわけ……」
カムイが一歩そこから出ようとしたその瞬間、結界の中から巨大な手が出現し、彼らを地面に叩きつけた。
「ぐああっ!」
《だーかーら言ったでそー?一歩でも動いたらころちゅって。フリじゃねぇからな?いいな?マジそこ動くなよ》
「は、はい……」
そして彼らは結界の中から全く動けなくなってしまった。
「ね、ねぇどうすんのよ。コア奪って手柄横取りするんじゃないの?」
「そ、そんなこと言ったってよ……もうこっから出られねえわけだし」
「ていうか何者なんですかねあの人……飄々としてるかと思えばとんでもない事やってのけちゃうし……」
「なんか聞いた話によるとよ、あの人はギルドってもんが世に普及される前の前から、つまり創設期からずっと現役でギルマスやってるらしいぜ」
「はぁ!?じゃあすごいおばさんってこ――痛い!」
《おばさんだとぉ?!ふざけんじゃねぇよ!!》
「き、聞こえてるんですね……あは、ははは〜やだなぁー!おバカさんあたしって言おうとしたんですよ〜えへっ、えへへ♪」
結界の内部は向こうと繋がっているようで、カムイたちの様子や会話などは全て筒抜けとなっていた。
仕方ないので彼らは念話を使って会話する事にした。
『ちょっとどうすんのよ!そんな計画バレしてどうにかなる相手なの!?』
『俺が知るか!ここからできる手段は二つだ!』
『何と何?』
『まず①、コアを手に入れたあいつを不意打ちで気絶させてコアを奪う。その②にあいつにうまいこと睡眠薬でも飲ませて、昏睡したところでコアを奪う!』
『……①が絶望的に無理ですね……しかし②はなんとかいけるかもしれません』
『でもどこにそんな睡眠薬なんてあんのよ』
『ご心配なく。こういうこともあろうかと、アイテムボックスの中に1ヶ月前に手に入れておいた強烈な眠り草を入れておいたんです!』
『おおおでかしたルーナ!早速それを茶に混ぜて飲ませるぞ!』
『バレない?大丈夫?あの人勘も鼻も良さそうだけど』
『大丈夫よソアラさん。これは一粒でもあればギガンテスだって眠らせることができる超優れものですわ。あとはお茶に適当な香りと薬味でも混ぜておけば……』
『あっ、そっかぁ。味に違和感なくあっさり飲んでくれるから安心だね!!』
『ふっ、そういうことか。よしやっちまえルーナ!』
「おまたせ」
「うわあああっ!!ま、また突然現れやがって!!」
それまで内密にひそひそ話を行っていた3人の間に、突然ぽんっと何の前触れもなくギルドマスターは現れた。
片手には大きな球体を抱えていた。
「そ、それがコアですか……へ、へー……なんか重たそうですね!?持ってあげましょうか!?」
「えー。いやいいよーそんな」
「いやいやいや!ここまでお疲れでしょう?さっお茶でも飲んで!」
「いやー悪いなーそこまでしてもらっちゃってぇ」
くくくバカめ。
人間ってやつは適当ごますっておくだけでも簡単に騙されやがる。
邪悪な笑みを浮かべたカムイがルーナによって調合されたお茶を受け取り、ギルドマスターに手渡した。
「いやでもあたしだけ飲むのわるいなー。あっ、そうだ!みんなで飲もうぜ」
「げ!?」
「ん?どうしたの?」
「い、いやいや。ま、ま、ままずはギルドマスター様からですよ。我々下々の者が先に飲むなんてそんなそんな無礼な真似できませんよ〜なぁ?お前ら」
「そそそそうですわ!そんなお茶に何か毒でも入ってるわけじゃあるまいし、さっさと飲みやがれですわ――」
「ああいやいやなんでもないの!!うん!さ、冷めちゃうでしょ!?早く飲んで!?」
「……冷茶なんだよなぁ……」
誤魔化しが効かないレベルで致命的なミスを犯したルーナをボコボコにボコっている裏で、クラウスはやれやれ顔でぐびっとお茶を飲み干した。
「おおおおおお!!」
「やったわ」
「やりましたわ!」
「ぷへー。うん、美味しい!」
そして彼女はそのまま眠るようにバタッと倒れてしまった。
「くくく……いやぁまさかこんなにうまくいくとはな。いかに100年以上生きながらえた天下のギルドマスター様といえど所詮は俺たちと同じ人間……取るに足らんということですよ」
「いやー我ながら名演技でしたね」
「「どこが!?」」
カムイとソアラに一斉に怒鳴られたルーナは「?」というような表情で二人を見つめていた。
カムイが呆れてため息をついた。
「まぁいいさ。おい。ギルマスの抱えてるコアを取ってくれソアラ」
「はいはーいっと!……ふんんんっ!」
「おいおい丁重に扱えよ?貴重な貴重な魔神のコアだからな」
カムイたちは得意げに息巻いていたが、ソアラがいつになってもコアを持ってこないので流石におかしいと思い、彼女の側に寄って行った。
「いつまで時間かけてんだ。早くしねーと起きられるかもしれないじゃねーか」
「そ、それが抜けないのぉ!」
「はぁ!?どけ貸せ!こんなん球体なんだしするっといけ…………ぐっ、ぐぬぬぬぬぬっ!!な、なんだ!もんのすごく硬い……!すげえ力でコアにしがみついてやがるこいつ……!」
カムイの全身全霊の力をもってしても、ギルドマスターの片手に絡み付いたコアを引き剥がすことはできなかった。
「お、おいこいつ寝たフリして起きてんじゃねぇのか!?」
しかしカムイたちが確認すると、ギルドマスターはすぴすぴと寝息を立てて目を瞑っていた。
「うーん……これで起きてるんだとしたらちょっとめちゃくちゃですね……」
「くそ……どうすんだよコレ。このままギルマスごと提出すっか?」
「それで……いいんじゃない?てかなんで引き離す必要なんかあるんですか」
「そうだよ。受付の連中とか絶対俺たちに何があったのか知らねぇはずだからさ、『あ、ちょっとコア回収してたらギルドマスターさんがじゃれついてきてそのまま寝ちゃったんですよーあはは』とか笑って流しとけば俺たちがクリアしたことになんじゃね?」
「そうですわ!じゃ、早速ギルドいきましょうね!」
「よーし!希望の光が見えてきたぞ〜!!」
とそこまで意気込んで昏睡したギルドマスターを連れて歩くこと3時間。
すっかり彼らの体力が尽きてしまったことに気がついた。
「へ、へぇ……へぇ……こっから……どうやって帰るんだ……」
「く、……くるときテレポってもらったから……あれだったけど……帰りこれ……きつくない?」
「お、王都から……迎えでもこないと……厳しいですわね……」
満身創痍となってその場で寝転んだカムイたちは、ふと遠くから黒塗りの甲冑を着込んだ騎士たちが馬に乗ってやってくるのを確認した。
「がははは!おい見ろよ!ツイてるぜ!あれに乗って王都まで案内させるぞー!!」
早速カムイが疲れからふらつく足取りで馬の方に体当たりしていく。
「あのーすみませーんちょっといいっすかー?」
しかし騎士たちは馬の速度を緩めることなく直進し、そのままカムイに激突していった。
「おいゴルァ!!降りろ!!てめぇ人様が助けを求めてんのにその態度はなんだぁ!?ライセンス見せろぉ!何級だてめー!」
「……あ?」
一人の騎士が仮面を外すと、この世のものとは思えない鬼のようぬ形相に血走った眼が確認できたので、カムイたちは震え上がった。
「すみません!許してください!!何でもしますから!!」
迫真の命乞いと土下座により、カムイは騎士の怒りを鎮めようとした。
すると騎士たちは途中で進む手を止め、彼らに近づいていった。
「お、おい効いたんじゃねぇか?これ」
「み、みたいですね……なんかすごく強そうな方々ですけど……」
「やっぱり命乞いは全世界共通のラブアンドピースの指標なのよ!」
「だ、だな。平和が一番!」
交渉するならまさに今この時――
今度こそと思い頭を上げてカムイは黒塗りの騎士に近づいていった。
「あ、あのすみません、さっきは無礼な真似をぐはぁ!」
「お、おい。あんた王都のギルドマスターだろ?こんなところで何してる?」
「ん?んーんにゃあ……っておいおい……。せっかく気持ちよくお昼寝したフリしようと思ってたら半分本当に寝ちゃってたところなのに……誰よあんた」
「やっぱ起きてたしあの人……」
「……俺たちは王都に派遣されてきた組織『サイヴァーン』の精鋭部隊だ。あとはわかるな?」
騎士が甲冑についた星を指差すと、全てを理解したようにクラウスが両目を開いた。
「……やはりそういうことか……」
「なんだ?おい。こいつら何なんだ?あんた何を知ってるっていうんだ?」
「とりあえず全員ギルドに連行するよ【転移魔法】」
「うほーありがてぇ!」
これでようやく戻れると喜んでいるカムイの裏で、ギルドマスターと騎士たちは深刻そうな雰囲気を漂わせていた。
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