祝勝会!!
「おいロシュア……お前……何かめちゃくちゃ好き放題やって自分の力を誇示してるみてぇだが……勘違いすんなよ。お前は俺たちの荷物係でしかねぇ。所詮は落ちこぼれにすぎねぇんだ。わかってるよな?」
などというカムイの本心は言葉として出てこなかった。
ただ目の前のロシュアを羨望と憎悪の念を込めて睨みつけることしかできなかった。
彼自身、もう何か言うことに意味はないと知っていたのだろう。
頭にあった理想的なプランも、ロシュアが深紅の薔薇のメンバーを全員連れて帰ってきたことで破綻し、結局何もかもが失敗に終わったのだ。
成そうとしたことは何一つ達成できず、反対に自分が何もできないと確信し追放を言い渡したロシュアは何でも魔法のようにこなしていく。
腹の底から怒りが込み上げてきても、それをぶちまける場所も術も彼は知らないのだ。
睨みつけられたことで気弱なロシュアは怯んで後退し、まじまじとカムイの方を見ていた。
やがて居た堪れなくなったカムイがダンジョンを抜け出し、とぼとぼと黄昏の獣王団の元へ戻っていった。
「なんだったのよあいつ……ロシュア様に何か言いたいことがありそうだったけど」
「放っておけ。バカの戯言に付き合うと頭が痛くなるぞ」
アンルシアが胸中の毒を全てぶちまけるように呟いた。
その言葉を言い切る頃には、カムイの姿はどこにも見えなくなってしまっていた。
「じゃあ壊しちゃったダンジョンを元通りにしとこうか……」
「え?」
「【再生】」
メテオの衝撃ですっかり沈んでしまったダンジョンは、一瞬のうちにかつての立派な姿を取り戻していった。
虹の翼の面々以外でその場にいた全員が呆然とその様子を眺めていた。
「ちょ、ちょっと待って!?やばくない!?何今の!」
「すごいな……こんなに見事な再生魔法は記憶にない……。やはりキミがあいつらをAランクパーティーにしていたんだな。なぁ、そうなんだろう?」
「えっ?そ、それは誤解ですよ。だってカムイやソアラはすごく強かったし……僕は後ろで荷物持って補助魔法使ってるだけでしたから……」
それはロシュアの本心だった。
これまでの数年間で彼が染み付いた負け犬根性は、そうそう払拭されるものではなかった。
が、これまで彼の散々な面を目撃してきた深紅の薔薇は断固としてその評価を認めはしなかった。
「いやいや。あいつら口だけでなんにもしなかったよ?ねぇ?」
「うんうん。なんか自分たちは超Aなんだぞーって息巻いてたけどさ。魔物に襲われて手も足も出せてなかったし」
「そうだな。私が見る限り、彼らの実力はBかC程度。かつてはAほど実力があったかもしれないが、ランクによる力の基準なんて一年もあれば目まぐるしく変動するものだ」
「そうなんですか?」
「ああ。故にそこで慢心し、キミからの絶大な支援を受けていることにさえ気がつかず、そこから努力しようとせずひたすら楽をして好き放題やってきたのだ。その事に今も気がついていない。……ま、哀れといえば哀れだな」
「そ、それじゃ僕のせいじゃないですか」
「い、いやそうではない。むしろキミがいなければあいつらも夢を見る事なく破滅していたというか……」
ロシュアからの思わぬ意見にアンルシアは戸惑いを隠せなかった。
気負う彼にターシャがそっと寄り添っていった。
「でも思い出してください。私と初めて会った時、ロシュア様は死にそうな顔をしてたんですよ。庇ってくれた怪我じゃなくて心が傷ついていたというか……。だから私がなんとかしなきゃって……。あの時ですよね?ロシュア様があの人たちにパーティーを追い出されたって」
「う、うん」
ロシュアの表情に嫌な汗が垂れ始めた。
忘れもしない出来事。自分の居場所が無くなっていくような感覚。
「カムイさんはそれをやった張本人なんですよ。それに、ねっ?ロシュア様の居場所ならここにあるじゃないですか。今更過去のことを気にする必要なんてありませんよ」
「そうだな。というかむしろ私たちにはロシュアがいないと困ることだらけだぞ」
《全くじゃ。妾の眠りを覚ました癖に責任も取らんつもりか。ご主人様は永遠に妾たちと一緒になる定めがあるのじゃぞ》
「ちょっ、それ愛が重くな〜い?」
「てゆーかロシュアくんモテモテじゃん」
「あは、ははは……皆ありがとうね」
ふと、ロシュアが振り返ってみると、そういえばこの場にいる全員が女性であることに改めて気が付いた。
それまでは意識することのなかった明確な『男女の差』が目に飛び込んできて、不覚にもロシュアは赤面を始めた。
「わっ、ロシュアくん真っ赤〜」
「エッチな目で見てるんじゃなーい?えーやだー」
「ちちち、ちがいますよそんな!」
「ダメですよロシュア様は私だけ見ててくださいね〜」
「あはは〜」
女性陣たちは本気で嫌がっている様子もなく、むしろ完璧超人と思われたロシュアの意外な一面を見つけてイジって楽しんでいるというだけだった。
「じゃあ……そろそろ」
「ああ。ギルドに帰ろうか。ロシュア、すまないが【転移魔法】を頼む」
「うん……この人数いけるか分かんないけど、ま頑張ってみるよ」
ロシュアが巨大な魔法陣を足元に呼び出し、全員が収まったのを確認した。
「【転移魔法】」
一行は王都のギルドに無事生還した。
「うわ!すごーい!一瞬で帰ってこれた!」
「しかもあんなに人いたのに〜ロシュアくんマジでやばくない?」
外部の人間から褒められ慣れていない彼は彼女たちの黄色い一言一句に反応して嬉しさと申し訳なさから目を泳がせていた。
「遅ぇんだよお前ら!!焼肉冷めちまったじゃねーか!!」
そこには満面の笑みで一人焼肉を楽しんでいるギルドマスターがいた。
「クラウスさん!?……ってまさか本当に準備してたんですか!?」
「あたりめーだろ。全員分きっちりあるからな〜。頑張ってくれた深紅の薔薇の皆さん、そしてロシュアくん率いる虹のハーレム団の皆の祝勝会だ!」
「そんな名前じゃないですけど!!」
「細かいことはいいさ。ま乾杯しよーぜ乾杯」
全員がいつのまにか用意されていたジョッキを手に取ってそれぞれ持ち上げた。
「かんぱ〜い!」
各々が好きなようにギルドマスターが用意した巨大鉄板の上で焼いた肉を食べていた。
「んー美味しいです〜」
「ガーベラさんたちも誘えばよかったかなぁ」
「ところでチミたち。魔神のコアは回収したかね?」
「あっ」
すっかり忘れていた。
戻す事には戻したのだが、まだ沈んだ魔神のコアが下層に眠ったままである。
「まーそっちはあたしが後で回収しとくから。主役はここで大人しく焼肉でも食ってろよ。んじゃちょっくら行ってくらあ」
「す、すみませんなんか何から何まで……」
「いいってことよ」
そうして彼女が勢いよく扉を開いて外に出ると、思いがけない客に出会った。
「おや?黄昏のあんちゃんにねえちゃん」
カムイたちはギルドの入り口で何かするわけでもなく、ただひたすら窓の外から焼肉を物欲しそうに眺めていた。
全員木の葉やら土やらでボロボロになっており、とてもかつてAランクパーティーだったとは思えないような貧乏な姿になりかわっていた。
「うう……美味しそうですね……」
「今頃あれ食べてるのあたしらだったのに……なんでロシュアが来るわけ!?おかしーでしょ!しかも魔神を倒しちゃうなんて!」
「んなもん俺が言いてえよ……なんだって全く……」
「よっ」
「うわあああっ!!てめえどっから現れやがったぁあ!!」
「いやドアから出たが」
ギルドマスターが出てきた事にも気がつかないほど、彼らは食い入るように窓からロシュアたちを見つめていたようだ。
彼女が焼肉片手に気さくにぽんっと肩を叩くと、カムイは飛び上がって腰を抜かしていた。
「な、なんだよ。あんたも俺たちがAランクじゃねぇとか、ロシュアすげーとか言いたいんだろ!もう放っておいてくれよ!クソ!」
「なんかやつれてんねぇ。食うかい?」
クラウスはカムイたちに向かって串に刺した焼き立ての肉を差し出した。
もうすっかり魔力も体力も尽きて空腹の絶頂期にいるソアラたちにはそれがどんなお宝よりも素晴らしい物に見えた。
かくいうカムイも口では強気なことを言っておきながら、肉の放つ魔力には抗えないような表情をしていた。
「だ、誰が貴様らの施しなんか受け」
「うるせぇつべこべ言わずに食えほら!」
「もぐ!!」
黙っていても何も起きないと判断したギルドマスターが即決で彼らの口に一本一本焼き肉を突っ込んでいった。
彼らもそれを吐き出そうとはせず、ただひたすら文字通りに肉を噛み締めていた。
「う、……うまいじゃねぇか……くそ!」
「お、おいひい……あたしこんなの食べたことないよ……」
「わ、私もです……おお神よ。まだあなたは我らを見捨ててはいなかったのですね……」
「……う、うん。よかったね。じゃあたしいくからさ」
「ああおいおい待てよ親切なギルドマスター。お前前々からいい女だとは思ってたが、どうやら底無しに良い女みたいだな。どうだ?俺のパーティーの4人目に入らないか?あいつに代わって天下取ろうぜ?」
「まだ諦めてなかったのかよ……んーまぁ考えといてあげるよ」
「ちっ……まぁいい。いつでも来てくれたまえよ。俺たちは大歓迎だからなっ!……で?今から何しに行くんだ?」
「いやま大した用事じゃねーよ。古龍の洞窟で魔神を倒した際に出たコアをうっかり回収し忘れたから取りに行こうとね」
「なに!?そうか。それは大変だろう。よし!俺たちもついていくとしよう!」
「いや別にいいんだけど……」
「何言ってるのよ!お肉の恩もあるし、困った時はお互い様でしょ!」
「そうですわ!ここまでよくしてもらったのに、なにもしないのはとんでもない無礼な罰当たりになりますわ」
「てなわけで俺たちに任せとけって!よしいくぞおめーら!」
「おー!!」
「あ、おい待てよ〜……まぁいいか。今更あいつらが何しようと関係ないしな。でもミスりそうだからあたしもついてっとこ」
カムイたちはイキイキとした表情で古龍の洞窟に向けて走り続けていた。
もちろん彼らがそんな善行のために動き出したわけではないことはクラウスも知っていた。
魔神のコアを手にいれて、俺たちがクリアに名乗り出てやる!
そうすりゃまだチャンスはあるぜ!
といったいつもの浅はかなプランである。
しかし途中で息が切れた彼らにギルドマスターが追いつき追い越した後、彼女は再び戻って声をかけた。
「……転移魔法る?」
「ひ、ひぃ……ひぃ……は、はい……」
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