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新たな一歩。冒険者登録します!

「はーいいらっしゃい……って、あらこれはこれはロシュアさんじゃないですか。おや?今日は随分と珍しいお客様を連れているじゃないですか」


「ええ。この子、炎の精霊でサラマンダーっていうんですけど」


「すごーい!本物見たの初めてですよ〜!!握手してもいいですか?!」


「構いませんけど……やめておいた方が無難かと」


《気安く触るでないぞ》


 僕の頭の上でぽっぽかっかと熱を吹き出しながら、炎の精霊様はガーベラさんを睨みつけていた。


「……みたいですね」


 咄嗟に身の危険を察知したのか、さっと彼女は出しかけた手を引いた。

 この子……精霊様は呼び出した僕にしか懐かないという習性があるみたいで、他のどの人間に対しても今みたいな反応しか返さない。

 一応言って聞かせれば理解はしてくれるんだけども。

 早速ライセンスを提示してクエストに乗り出してみようとした。


「おや?ロシュア様の所属がAランクパーティー『黄昏の獣王団』になっておりますが、あちらの方ではメンバー登録が解除されておりますね」


「え、ええ……」


 また思い出したくないことを思い出しかけてズキンと胸が締め付けられるような感覚がし始めた。


「ん〜そうなりますとライセンスの方を一旦作り替える必要がありまして……今からですとざっと1週間ほどかかりますので、余程特別な思い入れがない限りはこちらを破棄して新規登録された方が良いかと思われます」


「1週間!?そんなにかかるんですの!?」


 驚いたのはターシャさんだ。

 無理もない。彼女は冒険者ではなく聖女(見習い)として生きてきたのだから。

 ギルドでは冒険者登録の他、パーティー所属の登録も行える。

 登録ができるということは、当然抹消することもできるわけで。

 ただし、本人の意向を無視した一方的な登録解除が行えるのはリーダーだけであり、他のメンバー同士は飽くまでも同じ立場である。

 通例、よっぽどそこで何か揉め事でも起こらない限り追放や抹消なんか行われないし、やるとしても抜ける本人とリーダーによる両方が申請手続きを行なった上で実行される。

 これが正式な脱退完了であり、この場合はライセンスに記載されていたパーティー名が消えるだけで特に問題はない。


 ところが、一方的に抹消されてから7時間以内にこちらも正式な脱退の手続きを行わなければ、ペナルティとして1週間も期限を延長される。

 また更新を無視して(たとえ冒険をしなくとも)過ごしていた場合、更にペナルティ時間が跳ね上がる。

 多分冒険者同士の公正さとかそういうの遵守するためにあるのだろう。

 はてさてどうしようか。

 普通なら時間がかかってもこれまでの記録を帳消しにするくらいならってことなんだけど、僕の残した成果なんて所詮お荷物係の個人ランクFなんだから。


「あの……すみません。私恥ずかしながらこういうことに全く詳しくないのですが……今の話を聞く限りですと、ロシュア様は以前どこかの組織から無理やり追い出されて、しかも正式な手続きをしなかったからその罰?を与えられている……のだと」


「あぁ。大体それであってるよ。……僕は昨日そのAランクパーティーから追放されたんだ」


「えええええ!?そ、そんなことあり得ませんわ!!ロシュア様ほどのお人が……ロシュア様が追い出すことはあってもその逆なんて……!」


《たしかに奇怪な連中じゃの。妾を呼び起こせるほどの人間なんぞそうそうおらんぞ。……ということはそのえーらんくぱーてーとやらはロシュア以上の……》


「はんっ!!そんなことぜーったい。100――いや1000%天地がひっくり返ってもありえませんわ。ロシュア様は様々な魔法が使えて力持ちで優しくてイケメンで素敵でハンサムでクールな救世主で私の未来の旦那様なんですからっ」


「た、ターシャさん落ち着いて……」


 というかイケメン的なことしか言ってないじゃないか。

 それによくよく聞けばなんだ最後のは。

 旦那様じゃないってのに……。


 そして当の『未来のお嫁さん』たる彼女は更に腕にしがみつくと、僕の顔をじっと見つめてきた。


「ねっ、この際ですからっ。そんなひどい人たちとの過去は切り離して、新しい冒険に出てみませんか?……あっ、も、もちろんロシュア様の経歴が無くなってもいいというわけではないんですよ?……ただ、そんな辛い思いを背負ってまで継続する価値のある経歴なのかな……と」


 途中から申し訳なさそうに声を小さくして目を俯かせていた。

 この子の言っていることは誰がどう聞いても間違いなく正論だ。

 第一、本来なら追放されたからといっていつまでもしがみつこうとしている僕の方がおかしいのだ。

 されたらされたでとっとと割り切ってソロ冒険者として活動するか――パーティーという制度に未練があるのなら、他の募集しているところに入れば良いのだ。


 しかし追放されたての僕は(今もだけど)まだ未熟だったから、こんな辛いことを受け入れられるやつなんていない、そして死ぬほど苦しいなら楽に死んでみようなんて極端な自暴自棄にまで陥ってしまっていたけど、やり直す方がしがらみも断ち切れてうじうじと悩むよりもよっぽど良いじゃないか。


 楽しかったという思い出は思い出のままに。

 これを機に心機一転ならぬ新規一転して新たな一歩を踏み出してみよう。


「じゃあ……今から冒険者登録を……」


「はい!私もロシュア様と2人で一緒にお願いします!」


「はいかしこまりましたー」


 今やたら『2人で』の部分強調してきたな。

 それに彼女も冒険者になろうとしていたとは意外だ。


「夫のいるところに妻ありですから。もし何か危険なことがあっても、私があなたの盾となり薬となりますから。ねっ」


「おやおやおやおやおや。愛ですねロシュア様」


「う、うーんうーんうーん」


 なんかもう「うーん」顔を浮かべて半笑いするしかなかった。

 嬉しくないこともないんだけど……。

 散々我慢を強いられてきた彼女に「もう一年待とうか」なんて酷なことは言いたくないが、つまりそうなるともう婚姻は前提の話で進めなくてはならないな。

 うーん。酒場にいた人の視線が痛い。

 あれらは散々僕もかつて浮かべてきた羨望の眼差しだ。

 ちらりと横目でターシャさんを見てみる。


 これまでいきなり下着姿だったり、寝起き裸エプロンだったりでロクに彼女をじっくりと観察できなかった僕だけど、改めて日の当たる空間で見つめるとやっぱりすごい美人だ。

 ちょっと中身がアレなだけで、僕なんかには本当勿体無いくらい。人生をあと那由多転生し直してもまず巡り会うことができなそうな。

 そしてさっきから話が頭をぬけてふわふわしてくるのは、そんな彼女の豊満でボリューミーなおっぱいがふわふわしているからではないかと勘繰ってしまう。

 押し付けすぎですターシャさん。

 僕も鼻血出して倒れてしまいかねないのでやめてください。


「あっ、そうだ。ついでだからその精霊さんも登録しちゃう?」


「えっ。そんなことできるんですか?」


「ええ。我らが冒険者ギルドはどんな者でも冒険者になれるのが売りですよ。目玉が飛び出た腐乱死体、心臓を失ったヴァンパイア、頭部を引きちぎられた魚に、突然動き出した人形だって登録手続きを行って皆一様に冒険者になれるんですから」


「なんでそんな的確におぞましい例えしかしてこないんですか!?」


 過去にそんな事例があったとでもいうのか。

 怪奇現象なんて生やさしいレベルじゃないぞ。

 冗談抜きでマジモンの化け物屋敷じゃないか。

 差別するわけじゃないけどそこは流石に選んで!?

 死体は死体のままにさせとこ?!

 ヴァンパイアも灰にするなり適切な処置を施してあげようよ。


 まぁもし例えだったとしても、まだ炎の精霊様ならその中でいえばまだまだあり得る事だ。

 しかしこの子は良いんだろうか。


《妾はご主人様に絶対服従にゃん》


 なんだその威厳の欠いた語尾は。

 そんな猫撫で声でご主人様萌えなキャラではなかったろう。

 どちらかといえばツンでデレな方面だったろう。


「そういえばこの子の名前どうしようか。サラマンダーってのもなんか素っ気ないし」


「ん〜ロシュア様が直感で決めちゃって問題無いと思いますよ」


「じゃあ『サラ』で」


 サラマンダーだからサラ。

 我ながらやり尽くされた感満載のなんの捻りもない名前だが、覚えやすいし呼びやすい。


《ふむ……心得た。では妾はサラと名乗ることにしよう。改めてよろしく頼む人間》


「はいはーい。じゃあ3人分の申請をしますねー。……あっ、そうだ。その前に〝これ〟やっときましょ」


 ガーベラさんは机の上に大きな水晶玉を置いた。


「これは……?」


 ターシャさんが不思議そうに見つめていた。


「そっかそっか。ターシャちゃんは初めてだもんね。今からやるのは適性検査と実力の測定ってやつですね」


「適性……?」


 悩める彼女と興味なさげな精霊様、そして今回で通算2回目の僕がその説明を受けた。

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