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プロローグ:追放は突然に


「そういうわけだから。お前もう明日からウチのパーティーに来なくていいからロシュア」


「へ?」


それは余りにも突然といえば突然な。

無情で無慈悲な宣告だった。

冒険者の間でも有名な酒場「フランチェスカ」の一角で、僕は騒然と立ち尽くした。

額から汗が滴り落ちる。

まだ何のことだかわからない。

心臓が激しく高鳴る。


「はぁ〜……っ。面倒くせぇなぁー。そんじゃバカなお前にもわかりやすく教えてやるよ」


ドスン!と周囲に響き渡るほど大きな音でカムイは尊大に椅子に座り直した。


「クビだってんのク・ビ。解雇。お払い箱。ユーはいらないオーケー?」


「な、なんで……どうして……」


「はぁ?お前なんて別に居ても居なくてもいいだろ。所詮ただの『荷物持ち』でしか無いんだから」


僕はロシュア。

このAランクパーティー「黄昏の獣王団」に入ってから、もう三年になる。

と言っても、僕の仕事はお世辞にも華々しいものと言えるものではなく、メンバーの荷物をもったり、洞窟を明かりで照らしたり、ギルドに帰るための転移魔法をほんの少しやっていた程度だ。

しかしそんなものはこの強い皆にとっては吹けば飛ぶ紙切れのような役割に過ぎない。


例えば目の前で偉そうに座ってるカムイなんかは、最前線で強大なモンスター相手に戦う戦士――ソルジャーだ。

多彩な剣術を操り、肉弾戦では無類の強さを誇る名実ともにパーティー最強の、まさにリーダーに相応しい男だ。


次に彼の隣で僕を冷徹にメガネ越しで見つめてくるルーナ。

彼女はチームの要ともいえる回復魔法を司る僧侶だ。

豊富な魔力を誇り、彼女にかかればあらゆる傷が癒せるという極めて重要なパーティーの生命線だ。


最後にお菓子を頬張って嬉しそうにしているオレンジポニーテールのロリっ娘ソアラは、こう見えてルーナとは正反対の位置に立つ攻撃魔法の使い手、つまり魔法使いだ。

あらゆる攻撃魔法はお手の物といった高性能ベビーフェイスは、物理のカムイと並んでチームにおける二枚看板だ。


そう。羅列してみるとハッキリと浮き彫りになる

僕という存在がパーティーにとって「お荷物」であるという事実。

荷物持ちの僕が一番のお荷物だったなんて皮肉が効きすぎている。


でも僕にだって意地はある。

こんなにもすごいパーティーに誘ってもらえたから。

少しでもみんなに貢献したくて、この一年間あれこれ死に物狂いで色々頑張ってきたのだ。


納得のいかない顔を全開にしていた僕に、僧侶のルーナが眼鏡をクイっとさせてため息をついた。


「アナタは確かに出来ないなりにパーティーについていこうと頑張ってきたわけですが、『取り分に見合った働きをしているか?』と問われますと正直微妙ですね」


「そ、そんな……」


ルーナは別段僕に対して優しかったわけでもないが、

誰よりもチームにおいて感情論を抜きにして正確なジャッジが下せる聡明で優秀な人であった。


その彼女からこうもハッキリと「いらない者宣言」を突きつけられると胸にくるものがある。


というか、これまでずっとやってきた仲間からこんな評価をされていたなんてそれこそどうにかなってしまいそうだ。


「全くもってルーナの言う通りだな。お前に回す分の金や取り分を減らせば、今の財政状況はもっとよくなったというのに。全く」


そう。今このパーティーはお金の状況が余りよろしくない。

というのも表立ってはっきりとは言えないが、カムイが夜通し女の子と遊ぶためやギャンブルで使いたい放題しているからだ。

もちろん僕が管理している時はそんなこともなかったが、ある時「何でパーティーの大事な資金源を荷物持ちごときのお前に管理されなきゃいけないんだ?腹立つ」と言われてしまい、それ以来ずっとカムイが自由に使ってしまうようになったのだ。


だが、そんな彼の横暴にはチームメンバーの誰も文句を言わず、むしろその原因が取り分を取った僕にあるとしている様子だった。


ちなみに僕に回ってくる取り分なんて本当に少ない。

実は1/4などではない。

まず何か発見すれば、カムイを中心に分配がリーダーのさじ加減で勝手に決定され、その後全員が取った余り分を僕が頂いているといった具合だ。


よって僕が責められるのは筋違いも良いところなのだが、やはりというか誰もそのことを擁護してくれるものはいない。


「ソアラも何か言ってよ……!」


「うーん。居ても居なくてもいいんならさ、別に居なくていいんじゃない? てか誰も困ってないんだし」


「そうそう。俺たちすでに十分通用するくらい強いしさ」


「あっ、前々からうち気になってたこと()って良?」


「ん。どぞ」


「荷物持ちってぶっちゃけ要らなくない?」


「それな。つーか今言おうとしてた」


「そ、そんな……」


すっかりパーティーはもう僕を追い出すムードで談義に花が咲いていた。

彼らの愉しそうな笑い声が、今はとても心苦しい。



「てわけで消えろ。ゴミ」


「そんな……あ、あんまりだよ。みんなだって長い付き合いだろ?」


「え。なにそれ。もしかして時間の長さで良くしてあげないといけないの? ウワ〜きんも〜」


「非モテの発想ですね……むしろここまで温情をかけてパーティーに置いてあげた私たちを敬って欲しいくらいですのに……。惨めにも執着めいた固執であろうことか私たちの方を責めようとするなんて……」


「おいおいルーナ。そこまで言ってやるなよ。こいつは荷物持つことにしか〝脳〟がないバカなんだからさ。ぎゃははは!」


「ぷっ。これは失敬しましたカムイ様」


「あははは〜!」


もう何を言ってもみんなは聞き入れてくれなかった。

これ以上抵抗したら何をされるのか分からない。

前みたいに「生意気」だと言われて顔が腫れるまで殴られるかもしれない。


こんな理不尽な思いまでして黙ってここを去るのは嫌だったけど、意固地になって居座り続けられる状況でもない。


振り返って僕はみんなに背を向けた。


「あっ、そうだロシュア〜」


するとソアラが笑顔で駆け寄ってくれた。

なんだろう……。もしかして、謝ればまたパーティーに入れてくれるのかな……。


「はいっ」


「……?な、なにかな」


「は?何かなじゃねーよ。この店のお金払ってよお金。出て行くんだから当然でしょ?」


それは予想されていた希望とは真逆をいくような、

悪魔のような返答だった。

そこにはもう優しかったソアラの笑顔も無くなっていた。


お金……。

払わなくちゃいけないのだろうか。

僕は何も飲食していないというのに。

そりゃあ場所代くらいは必要だろうけどさ。

僕席にも着いてないわけだし。


というか、最初に3人席しか選ばなかった時点で気付けばよかったんだ。

一応聞いてみたんだけど、笑って遮られちゃったんだ。

だから気にも留めなかったんだ。


もたもた僕がカバンを開けていると彼女は「チッ!」と大きな音で舌打ちをした。


「マトモにお金も出せないの?ホントグズ。もうさ死んだ方が誰かの役に立つんじゃないの?」


苛立ちから貸して!と叫んだ彼女は、勢いよく僕からカバンを取り上げて財布をひっくり返した。

あり金を全て取られ、更に持っていたアイテムまで徴収されて空になったカバンをどさっと胸の方に投げつけられた。


「何見てんの?何か文句でもあるわけ?」


「えっ……いや、その……どう考えてもお金取りすぎなんじゃ……」


「はぁ!?あんた計算もできないわけ?!いい?あんたみたいな荷物持つことしかできない能無しを一年も置いてあげたのよ。これはその分の正当な対価だってわからない??」


「やれやれ……馬鹿もここまでいくと呆れて言葉も出ませんね……」


「全くだ。つーか誰だよ。こんなどうしようもない馬鹿の無能をパーティーにいれたの」


「やだーカムイ様じゃなーい!」


「あははは。悪い悪い今もう追い出したからさ。な、硬いこと言いっこ無しだぜソアラ〜」


「うふふふ」


こうして僕はお金もアイテムも、あるものあるだけ全部奪われて酒場から逃げるように出ていった。


こんなことってあるだろうか。

僕が何をしたっていうんだろう。

もし神様という存在がいるのなら、僕に教えて欲しい。


実力が足りないのにチームに入ったのが罪なのだろうか。

偉そうに居座ったその罰を与えられているのだろうか。

さっさとお金を出さなかったからだろうか。


いくら考えても答えが出そうにないが、最後に突然豹変してきたソアラの怖い顔とあのセリフだけがずっと頭によぎった。


『もうさ死んだ方が誰かの役に立つんじゃないの?』



「うっ……おええ……」


胸の奥と腹の底から込み上げる吐き気から、嘔吐しかけてしまった。

周囲の人間から冷たい目線が突き刺さる。


そういえばさっきのみんなもこんな目してたな。

いきなり居場所を奪われて、

何の取り柄も無い僕は生きている価値なんてないんだろうか。

本当に死ねば誰かの助けになるかな。


「これからどうしようかな……」


行くあても何もない夜の空、僕は慣れ親しんだ拠点、

『ザランカ』の街から離れるように歩いていった。

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