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Half The World Away

作者: 横瀬 旭

 いつもはお客さんが一人もいない駅前のケーキ屋に、今日は朝から人が列をなしている。普段はない煌びやかな店舗の装飾のせいで、道路を隔てた向かいのパチンコ屋と間違えているのではないかと思ったがそうではない。パチンコ屋の前にも整理券配布を待つ長い列はいつものようにある。


 今日はクリスマスイブ。恋人も友人もいない僕にとって、それはただの生きて息をする一日でしかない。しかし、街は勝手にクリスマスの雰囲気を作り出す。赤と緑の装飾を、街中でも、食料品店でも見かける。


その雰囲気にのまれて僕は、骨なしチキンとか寿司を買い、高いお酒はもちろん買えないし飲めないから、缶ビールを多めに買って帰る。


 一人でクリスマスを過ごすのは二年連続で、去年のクリスマスで一人の過ごし方をすっかりマスターしてしまった。


最後に他の人と過ごしたクリスマスは二年前だ。その日も一人で過ごす予定だったが、夕方唐突に家の呼び鈴が鳴った。


 僕がドアを開けると、そこには真っ赤なロングコートを着た君が立っていた。僕の胸の高さくらいの身長で、目が合うのに少し時間がかかったけれど、半年ぶりに見た君だった。


「久しぶりだね」


と君が言ったから僕も


「久しぶり」


とぶっきらぼうに返した後


「公園のイルミネーションを見に行こう」と君が言った。


特に断る理由はなかった。「なぜ僕なのか」とか「どうして今日なのか」などと君の意図を測るのは嫌だったから、すぐに準備をして家を出た。


「ごはん食べた?」と君が聞く。


「うん、もう食べたよ」


「私まだ食べてない。お腹すいた」


「なんか食べる?」


「後でいいよ。今はとりあえず、イルミネーション」


そう会話しながら二人で国道沿いを歩いた。


 公園に到着すると、辺り一面光と人で溢れていた。電飾で作られた動物が僕たちを出迎えた。


キリン、ゾウ、クジャク、フラミンゴ。それからよくわからない動物もいた。


「カモノハシかな」


「バクじゃないの?」


「バカ?」


「そうじゃなくて・・・」


僕はバクという動物について知っていることを少し話した。


 色々な飾りに興味を持って目を輝かせてあちこち見て周る君をとてもかわいいと思ってしまった。はしゃいでいる女の子がこんなにかわいいというのを初めて知った。


藤棚のように電飾が垂れ下がっているトンネルを抜けて帰ることにした。


帰り道で回転寿司を見つけたから、食べて帰ることにした。今思えば、僕がクリスマスに寿司を食べる習慣は、ここから始まっているのだ。


 当時はとても楽しかった。でも今は、あまり良い思い出ではない。


連絡先を交換してクリスマスイブから毎日連絡を取り合っていたが、五日後には連絡が取れなくなった。


家に行って呼び鈴を何度鳴らしても、君は出なかった。それから何日も何日も君に会おうと電話をしたり家に行ったりしたけど、君とは会うことも喋ることもできなかった。


もうこの街を出て、どこか遠くへ行ってしまったのだろうか。僕が見たことも聞いたこともない街へ。


 居場所を知っていれば、たとえそれが地球の裏側でも「イルミネーションを見に行こう」と僕から誘いに行くのに。


ああ、サンタさん。あなたは来なくていいから、あなたみたいに真っ赤な服装をしたあの人と、もう一度会わせてください。もうそれ以外何もいらないのです。玄関を開けてもし君がまた目の前に居たら、絶対に動揺して見せる。


カッコつけてない、素の僕を見てほしい。


 もしかしたら、あれは泥酔して見た幻覚、もしくは夢なのではないか。だとしたら、その夢はバクに食べてほしい。


そんな支離滅裂なことしか思いつかない。


 君はこの街に居なくて、もう会えないけど、僕は今日も元気にやっている。一人でも大丈夫だ。


もう、そう思うしかないだろう。

仕事中に思いついた妄想です。


メリー・クリスマス

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