北風
ただひたすらに苦しいだけの人生でした。
がむしゃらにもがき続けたりもしました。
でも、結果は何も変わりませんでした。
だから、それからは下手に動かないで楽に過ごすように努めました。
いつしか私は「怠け者」と呼ばれるようになりました。
友達が一人もいなくなりました。
私は悲しみに明け暮れました。
夢も希望も全てなくなりました。
それから十年後。
母親が自殺しました。
父親には「お前のせいだ。通夜にも葬儀にも顔を出すな。疫病神が!」そう言われました。
私は心のどこかで先に死んだ母親を羨んでいたのかも知れません。
「生きる苦しみに比べれば死への恐怖など微かなものだ」そんな風にも思いました。
そして私は自らの「計画」への準備をしっかりと確実に進めていきました。
いよいよ私の計画を実行する「時」がやって来ました。
「命」を絶つ為の儀式です。
翌朝、爽やかな気分で目を覚ました私は洗面所に向かいました。
「なんて素敵な気分だろう!完璧だ!」
父親殺しを完遂させた私は、大きな優越感に浸りながら再び無為な暮らしを続けました。
「もう、限界かな……水も食料も何もかもが尽きてしまった」
私はそう言いながらも最期の食料を求めて浴室に向かいました。
「父さん……」
腐敗した父親の死体に手を差し伸べました。
「僕を……疫病神呼ばわりしやがって」
私の手は細かく震えていました。
その時、浴室の床に落ちていた父親のスマートフォンが鳴り響きました。
「僕と揉み合った時に床に落ちたのか……」
私はスマートフォンを手に取って画面を確認してから何故か?応答しました。
「もしもし?」
「ああ、やっと繋がった!」
「どちら様ですか?」
「実は、例のお宅の息子さんの件ですが……」
翌日の早朝。
私は自らの人生に終止符を打ちました。
あの電話は「引きこもり地域包括支援センター」の担当の方からでした。
私の父親は、このセンターに何度も電話や面談で私の更生を相談してくれていたそうです。
外は北風が吹き荒れていて、乾ききった空気が静かな空間の中を漂い続けていました。