2.オフラインミーティング
国内屈指の大きさを誇る、大規模なドーム状のゲームセンターに会場入りする。
自動ドアが開いた瞬間にも、爆音の圧となって鼓膜を攻撃してくる大音量。機械やらメダルやら、ゲームセンターで聞き慣れた娯楽の響きを耳にすると、とうとうこの日が来たのだなという実感がより一層と湧いてきて、私の鼓動は激しさを増す……。
「……夢みたい。”ゲームワールド”が目前にまで迫ってきてる……」
ゲームセンターも言ってしまえばゲームワールドなんだけどね。そんな風に思いながらも、いやいや、これから私が相まみえるのは、正真正銘の〈ザ・ゲームワールド〉……。
五感体験型VRアクションアドベンチャーゲーム〈ザ・ゲームワールド〉への挑戦当日。再抽選という半端な時期に当選したことから、身の回りの準備に大変手間取った。
親の説得は、案外とすんなりいった。私がガチゲーマーであることは元々知っていたし、彼方のしたいことをやってみなさい。というありがたいお言葉に背中を押されたものだ。
学校関係も、下手すれば留年になりかねないものの、私も親もそれに納得した上で学校側が理解してくれた。ゲームという世間の目に対して肩身の狭い娯楽に皆が理解を示してくれて、周りの環境にとても恵まれていたことにひたすらの感謝ばかり……!!
事前の検査や、署名、キャラメイクなども、この会場で行われた。身体検査だけでなく、面接まで実施されたことには少々と驚いた。そこで挑戦の合否が決まるというわけではないにしても、ネット上ならともかくリアルでは人見知りな私にとって、中々の試練だったことは言うまでもない。
ゲーム歴や、今まで精力的に取り組んできた活動なんかも訊かれて、そこで幼い頃からずっとゲームばかりをしてきたことや、動画サイトで生放送していることを話した。〈ハルカ〉というハンドルネームに見覚えが無いということでショックを受けたけど、ストレートファイターでは世界ランキング百五十九位まで上り詰めたことがあると話したら、とても驚いてくれた。爽快だった。
他にも色々なアクションゲームでのやり込みも話したことで、主催側からは一目置かれた。あぁ、今までやってきたことは無駄じゃなかったんだな。ゲームという娯楽で認められた時ほど嬉しいものはない。……と満足していた。主催側は私の”戦友”を生放送で観たことあるということを知るまでは――
「〈ハルカちゃん〉!! おおっ実物だ!! オフで会うなんてこれで初めてだもんなー!! って、〈ハルカちゃん〉だよね?? おーい、〈ハルカちゃん〉ッ!!」
ドーム状の大規模ゲームセンターの奥から駆け寄ってくる、黒髪ショートのイケイケ青年……。
「っうるさいな!! ゲーセンの音よりもでかい声とか、普段どんな生活をしてたらそんな声出せるようになるの〈グレン〉!!」
戦友、〈グレン〉。生放送上でよくコラボしては、格闘ゲームやアクションゲーム、その他のくだらないゲームなんかで互いに競い合って遊んでいた仲。あいつも今回、〈ザ・ゲームワールド〉への挑戦権に当選している。再抽選の私よりも早い時期に……。
「……〈グレン〉、会ってみると意外と大きいね……」
駆け寄ってきた彼を見上げて言う。彼の身長は百七十八くらい? 私が百六十かそこらだから、見上げる形で首が辛い。
で、こいつはこいつで、それを聞いてはニッカリとしてくる。
「背の高い男子は好み?? 俺は〈ハルカちゃん〉のストライクゾーンに入れる器かな??」
「そんな風に誰にでも思わせぶりなことを言ってるから、前の彼女にもフラれるんだよ」
「ふ、古傷を抉るのは反則だろッ!! 〈ハルカちゃん〉だって……〈ハルカちゃん〉だって……!! ――そう言えば、〈ハルカちゃん〉からはそんな話を聞いたことないな」
「何? 遠回しに出会いが無いことをディスってない??」
「出会い自体はあるだろ??」
「何処に行けばあるんだよそんなの」
「ココだよ、ココ」
〈グレン〉は自分のことを指差しながらそんなことを言うもんだから、私は呆れてため息をついた。……まあ、何時になっても彼は彼のままだ。そんな彼のことを、私は別に悪く思ってない。良いとも思ってないけど。
「……ほら、行くよ〈グレン〉。あーあ、あんたのせいで、緊張が一気にほぐれたわー」
「〈ハルカちゃん〉緊張してたの?? 可愛いところあるね」
「うるせーな。はよ来い」
無意識にからかってくるこいつの手を引っ張って、私は会場であるゲームセンターの奥を目指した。
……全く。出会って早々からこの調子。こんなパリピなヤツが、どうしてゲームなんかして生放送なんかして、キャッキャやってんだか。だったらそれこそ、その調子をリアルかなんかでやっとけばいいだろ。元々モテるんだし、背は高いし、顔も良い方だし……。
日に日に思っていた彼の性格と行動に呆れの笑みを浮かべてしまう。
……普段通ってる大学でも、男女平等にこの調子を振り撒いてるんだよな。……そう考えると、なんだか……ずるいなぁ――
「〈ハルカちゃん〉。ココ、ココ。会場ココだってば、過ぎてる過ぎてる!!」
〈グレン〉に引っ張られて、私は意識を覚ます。
ゲーセンの音はそのままに、照明が落とされた薄暗い空間。円形の台に設置された、三十台の機体。それは卵のような形状で、若干と斜めっている。取り付けられたコードなんかは、外見だけでは理解もできない複雑な線を描いて台の下へと伸びている。
……私達はこれから、あれの中に入って眠りにつくのだ。この機器によって五感と意識を抜き取られ、抽出されたそれらを、電脳世界へと送り込む……。
――なんか、そう聞くと急に怖くなってくる。
「〈ハルカちゃん〉」
肩を優しく叩いてくる〈グレン〉。
「俺がついてるから大丈夫だってば」
「まだ何も言ってないだろ……」
「長い付き合いだから、考えてることとかある程度なら分かるけど??」
「そういうことじゃ――いや、もう……そういうところが、ほんと……っ。ほら、行くよ!」
顔が熱い。
強引に手を引っ張って〈グレン〉を引き摺るようにしながら、私は彼と共に会場入りを果たした。