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自閉症の幼なじみ。

作者: 水無瀬八雲

私の幼なじみは、自閉症。

だけど、私は彼を誇りに思う。

自慢の幼なじみだと言える。

単刀直入に言えば、私の幼なじみは「自閉症」だ。と言っても私はそこまで詳しく知らないし、周りの大人が彼を「自閉症」と言っていたから、へぇ~って位に認識していた。

確かに変わった子だなとは思っていた。

何聞いてもオウム返しだったし。



家が2軒隣で歳も同じ彼は、小学校に入った時同じ教室にいなかった。(クソ田舎なので一学年一クラス)母に


「〇君一緒に学校行ったのに教室違うのなんで?」


と聞いたら真面目な顔で、


「〇君は皆と同じスピードで勉強出来ないから、ちょっとずつ頑張る教室にいるだけだよ。」


と教えられた。



登下校、彼との会話は勿論オウム返しばかりで、なんで自分の言葉を話さないのか不思議だった。でも花を見てニコニコして野良猫を見てニコニコしていた彼に対して、いわゆる「差別的意識」は全く無かった。そういう人なんだと思ったから。



中学は数校の小学校がまとまる感じで、そこで初めて彼が「いじめ」の対象になってしまうことを知った。でも残念ながら私もいじめられてはいじめ返すクソガキだったので、彼を助ける余裕がなかった。

無かったけど、1度も悪口を言ったことは無い。

彼は小学校高学年辺りから野球を始めたのだが、中学の野球部の顧問の先生に呼ばれて


「あいつは野球が好きなのか?」


と聞かれたことがあった。

まず、やさぐれMAXな私になぜそれを聞いたのかイラッとして、


「なんで私に聞くの?」


と返すと、先生はバツの悪そうな顔をして「〇〇は何を聞いてもマトモに会話が出来ないから」と言った。

割と本気でこいつ頭悪いなって思ったし、私は好きも嫌いもあえて言わず、


「〇君は、小学校4年生の時から365日休まず、お兄ちゃんとキャッチボールして素振りしてるよ。近所の公園で。」


とだけ伝えた。

実際、彼は高校卒業までそれを続け通した。それどころか高校卒業から10年以上経った今でもたまに実家に帰ると本当にたまにだけど、キャッチボールをしている。純粋にすげえな、って思ってる。



彼には「努力」という才能と、ずば抜けた音感という才能があった。1度聞いた曲を完璧にピアノで弾けたのだ。私はそれを小学生の頃に知って、私自身ピアノがどうしても苦手だったから、教えて欲しいと頼んで家に遊びに行って何度も何度もピアノを弾いてもらった。


「同じところ、何回もひかせてごめんね」


と謝ると、彼は、


「同じところ、何回もひくよ」


と、ニコニコして言ってくれた。オウム返しが少し進化した会話の始まりだったと思う。


高校でも彼は野球を続け、私は違う部活で話す機会はほとんど減ったけど、帰り道坂道を自転車かっ飛ばしていると、彼は公園でお兄ちゃんとキャッチボールしてて。

毎日、「ばいばい!」と言われた。高校生になる頃にはもうそれなりの会話は出来ていた。多少会話が成り立たない時はあったけど、だいたい通じた。



ある日、停学者が出た。複数人いた。何事だと大問題になって、私はたまたま廊下で先生達の会話を聞いてしまって知った。

幼なじみ君が、集団にいじめられていた。中学校の時とは比べ物にならない程の、いじめにあっていた。



「お前もあんなやつが幼なじみとかきっついなー(笑)」



と仲間内に言われて、何かがプツンと切れた。多分人生で初めて、キレた。

足元の机を蹴っ飛ばして、お前らに〇君の何がわかるんだ、〇君が毎日どんだけ努力してるかお前ら知らないくせに!と怒鳴り散らして、家に帰った。


母に泣きながら、〇君いじめられてた、あんなに毎日頑張ってるのに、と言ったら、母はこれまた冷静な顔で


「〇君は毎日努力しても皆と同じ土俵には立てない。それでも毎日努力してる事に意味がある。その意味を知らない人達に耳を傾ける必要なんてない。」


と言った。


うちの母ちゃんは差別と区別ができる人間なんだなと思った。(後後これが個人的に面倒にもなるわけだけど)


〇君はいつも笑ってたし、自閉症だからとか障害があるからとか、正直私はあまり気にしたことがなかった。〇君が見てる世界と私が見てる世界に、そんなに大きな違いがあるわけでもないと思っていたし、むしろ私より鮮やかな世界を見ているんじゃないかとさえ思っていたくらいで。



令和の今だから、自閉症という障害がどういうものなのかとか、色々メジャーにはなってきているけど、私が子供の頃は障害があるだけで「差別」の対象だった。



精神疾患を患い、内臓の機能障害も患い、いわゆる「健康な一般人」で無くなってから私もその「差別」の対象になって気付いたことは沢山あるけど、白い目で見られたりクソみたいな扱いをされても割り切れているのは、きっとずっと差別され続けている幼なじみの存在があるからだと思う。


それは悪い意味ではなく、彼の存在が「そういう人もいる」という世界の広さを幼ながらに知れていたから。


ごまんといる人間の中で、私の世界にはごく当たり前に身近すぎるほど当たり前に、世間が言う「障害者」がいた。でも私にとって〇君は努力の天才で自然が好きで野球が好きな、ちょっと語彙力のない幼なじみ位の感覚だから、障害があるからと言って差別したりいじめたりする人の気持ちがさっぱり分からない。


なぜこんなことを書いているかと言うと、そういう、何かしらの障害を持った人や子を持つ親の方に伝えたいからだ。


「あなたは、あなたの子供は、決して特別な【悪】を向けられるような人間ではない」と。


少なくとも私は幼なじみを恥じた事は一度もないし、むしろ誇りに思う。自慢の幼なじみだと言える。

多分だけど、幼い頃から障害を抱えた人が身近にいたり、親が障害について差別的な考えを持たず、私の幼なじみのような人を一人の人として見るという「当たり前」のことが出来れば、差別なんていう意識は持たない。


要は、周りの大人がどんな風に教えてあげるのかが大事なんだと思う。

同じ価値観の人間なんてこの世にはいないんだし、同じ人間もいないんだから、自分と違う人間を認める事が出来ないなんて馬鹿だなと思う。


勿論、まずは障害を理解し受け止め、周囲の人間がしっかりとした支援をする事が何より大事なんだろう。それが不完全だと、トラブルがおこる。そしてそのトラブルは今どきのSNSによって拡散され、差別が差別を呼ぶ。


誤解しないで頂きたいのは、【擁護】している訳では無いということ。

私自身今は差別的な目で見られるし、親も私を【区別】しているし、うるせえな外野って思ってるけど、そういう人もいるのが現実だから。


ただ、障害・病気があるだけで、偏見を持つのはどうかと思うだけ。

私は今キャバ嬢をしていてすごく思う。多種多様な人を相手にして本当に思う。差別や偏見は、きっと消えないんだろうなって。

それでも、1人でもいい、この文を読んで何かしら感じて貰えたら、嬉しい。


私の幼なじみは、私の自慢の幼なじみで、そして、誇りだ。


読んでくれてありがとう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 胸に来るものがありました。 お母様も、素敵な方ですね。
[良い点] 4歳の息子が自閉症です。 素敵なエッセイでした。 今まで読んだ自閉症の文章の中で、一番心に響きました。 ありがとうございます。
[良い点] このエッセイを書いてくださってありがとうございます。本当に。 泣けちゃって言葉が出にくいんですけど、一人の母としてお礼を。 素敵なエッセイでした。書いてくださってありがとうございました。
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