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その手の熱を

 丁度、一年前のことだった。

「君、一人で来てるの?」

 夏祭りに来た私は、後ろから声をかけられた。

 ナンパの類いかと思ったが、それは明らかに女性の声だった。しかし、声をかけられるような友人に覚えはない。私は少し警戒しながら振り返る。

「あ、やっぱり」

 見覚えはあった。確か、同じクラスだったと思う。しかし、名前が思い浮かばない。私がまごまごしていると、彼女の方から先に私に聞いた。

「こうやって話すの初めてだよね。なんて呼んだらいい?」

 私は素直に感心した。「名前なんだっけ」なんて聞き方だと相手によっては不快にさせてしまうかもしれないが、そういう風な聞き方だと友好的に接しようとしていることが伝わってきて、少しも悪い感じがしない。もし私もこういう風だったら、きっと友達の一人や二人いたかも知れない。

「涼花、でいいよ。あなたは?」

 私が聞き返すと、彼女は嬉しそうに答えた。

「私は彩乃。よろしくね!」

 そう言って、鞄を持っていない方の手をこちらに差し出す彩乃。

 純粋に嬉しかった。こうして誰かと友好的に接するのは、いつぶりだろう。

 私はためらわず、その手を取った。

「挨拶する時に握手するなんて、初めて」

 私が握ったその手は、少し汗ばんでいた。それはきっと、暑さのせいじゃない。

「え、そうなの? これが普通だと思ってた」

 それから少ししてから気がついた。その実、彩乃にはそれほど友達は多くなかった。もしそうでなければ、縁日に一人で行くなんてことはなかっただろう。

 もしかしたら、彩乃は最初から友達が欲しくて一人で縁日に来たのかも知れない。声をかける時、緊張したに違いない。それでも行動に移せたのは、きっと寂しかったからだ。

 私もまた、彼女と同じで一緒に縁日に行く友達なんていなかった。一人で行こうと思ったのは、きっと私も寂しかったからだ。


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