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第9話 スクの実ラブ

 馬車で一時間程走って一件の建物が見えてきた。コーズさんが言うにはあれがコーズさんの家らしい。

 木組みの家で、こじんまりとしていて何だかロッジ見たいだ。というかロッジそのものだ。

 コーズさんはこのロッジらしき建物で色々とメカ弄りとかをしているらしい。と言うかこの世界ってメカがあったんだ。


 そして建物の前で馬車を停めて俺達に待つように告げると建物の中に入って行った。

「ラッキーでしたねヒロ。あのコーズとか言う男性はかなりの物好きで有名で、勇者が持ってきたアイテムなんかを高値で買い取る変人です」

 酷い言われ用だなぁ……。と俺は少しコーズさんを憐れむ。


 そして少しするとコーズさんが玄関から出てきたのだが、手に小さい小袋を抱えて戻ってきた。

 そして俺の前まで来て「手を出してください」と言われたので手を出すとその直後、ちゃんと支えろよと言う声とともに俺の掌の上に置いてくれた。

 すると意外にも重くて落としそうになってしまう。

「見てみてくれ」

 そう言われて袋の中身を見てみると硬貨が沢山入っていた。

「こ、これは」

 と横でカナタは息を呑んだ。

 俺だけが状況を飲み込めてないって感じか?

 そしてカナタに小声で「これってどれくらいなんだ?」と聞くとカナタは静かに答えてくれた。


「これはこの世界で最も価値のある硬貨。白金貨です」

 常識がない俺には現代日本での価値なんて分からないけどとにかく凄そうってのは分かった。

 その白金貨がこの小袋いっぱいに……。

「こんなに頂いちゃって良いんですか?」

「いいですよ。私にとっての生き甲斐はメカ弄り、それが出来るならどんな犠牲でも払いますよ」

 まぁ良いなら貰うが、こんなに貰って申し訳ない気持ちに……。

「それじゃ送りますのでそのまま座っていてください」

 コーズさんはそう言ってまた御者台に座る。

 するとカナタが小声で「絶対この人の金銭感覚おかしいよ」と耳打ちしてきたのでコーズさんに聞こえてないかビクビクした。普通にそんな事を言ったら失礼だからな。俺も思うけど……。


 暫くまた馬車で走るとやがて街に着いた。

「また良いものがありましたらお教えください!」

 と俺達が馬車から降りると手を振りながらそういうコーズさん。

 そして俺とカナタは「ありがとうございました」と礼を揃えて言った。

 やがて距離がだいぶ開くと馬車で走り去ってしまった。嵐のような人である。


 でもお陰で金をゲット出来たから良かった。あの時計を買った時は四千円弱位だったはずだ。だが、そんな時計がこの世界で言う最高額通貨に変わってしまうなんて思わなかった。どれくらいの価値なのかは知らないけどとりあえず日本の最高額通過は一万円だから仮に一万円だとしてそれが大量に……。買った時、一万の半分も行ってなかったんだぜ?

「勇者達の中では良い滑り出しなんじゃないですか? お金が手に入らなくてまず仕事をする人も居るんですから面倒事はしないあなたには丁度良かったんじゃ無いですか?」

 まさにその通りである。

 面倒事は絶対にしたくないと言う俺にとって異世界に来てまで仕事はしたくない。そもそもしたくない。だから俺にとってはめちゃくちゃ良かったと言っても過言では無い。これで暫くはお金の心配は無いだろう。


「これで俺はカナタに金銭面での迷惑はこれ以上かけなくて済むな」

 そう言うとカナタは「別に良いんですけどね」と言った。これ以上関わって欲しくないんじゃなかったのか?

 でもカナタの好意には非常に感謝している。

「だから私が困った時も助けてください♪」

 そういう魂胆か……。

 ちょっとだけカナタの腹が黒く感じたのは俺だけだろうか? でもまぁ、カナタには何度も助けられたし、このまま借りを作ったままってのも気持ち悪いから良いんだけどな。

 俺にだってこれくらいの考えはある。考えも無しに面倒だから断るって言ってる訳では無いのだ。因みに勇者はどんな事があってもお断りである。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「さて、そろそろお腹も空いてくる時間ですね」

 と街の中心近くに建っている時計塔を見ながらそう言った。

「結局休憩するとか言いながら出来てなかったので、ここらで食事でもしながら休憩しましょうか。私、ここら辺でいいお店知ってるんです!」


 最初はあんなに嫌がっていたと言うのにいつの間にか打ち解けていた俺とカナタは昼食を取ろうとしていた。

 まぁ、久しぶりに朝早くに起きたから腹は減っている。いつもは昼近くに起きているのに今日は健康的な時間に起きた。

「へぇ。美味いのか?」

「はい! メニューも色々な種類ありまして、お肉ものに汁物、私のおすすめはパスタですね。スクの実を使ったパスタは絶品で……」


 三十分後


「と言う訳でして、スクの実は何に合わせても合うと思うんですよ! まさにスクの実最強説です! こんなスクの実に勝るものがあると思いますか? いいえ、ありませんとも! 是非、食べてみてください! 絶対にヒロも虜になるはずです! いいえ、これを食べて虜にならないとかもはや人間だとは思えません。つまり、ヒロも人間である限り必ず虜になると断言してもいいでしょう! えぇ、さぁ! ヒロ行きましょう! そして共にスクの実教を立てあげようではありませんか!」

 やっとカナタの弾幕のような言葉が終わった。

 あれから三十分程ずっとカナタは鼻息を荒くしながらスクの実の熱弁をしていた。

 ずっと聞いてて思ったんだが、これはカナタ・ライク・スクの実じゃねぇ。カナタ・ラブ・スクの実だ。

 しかもカナタのスクの実愛は引くほど重い。


 俺はただ、店の事を聞いただけだったんだ。それが何故かスクの実の熱弁まで飛躍して、スクの実がどれだけ優れているのかについて熱弁されて、最終的にはスクの実教と言う訳分からん謎の宗教を立ち上げる話まで飛躍してしまった。

 カナタがスクの実が好きなのは薄々勘づいていたが、まさかこれ程までに重い愛だとは思わなかった。


 今後はカナタの目の前でスクの実の話に繋がりそうな話題を振るのは止めよう。それが長生きする為の条件だ。スクの実関連で少しでも辛口な事を言ったらその次の瞬間確実にあの世に居る。これは間違いないだろう。

「まぁ、カナタがスクの実が好きなのは分かった。んじゃそれを食べてみようかな?」

 そう言うとパァァっと笑顔になった。この言葉が正解だったようだ。

 言葉選びを慎重にしないと死ぬ可能性があるからな。世界一、命懸けの対話だ。

「さぁ! 行きましょう!」

 とノリノリのカナタは俺の手を掴んで走り出してしまった。最初の険悪な雰囲気はどこへやらだが、こういうのもまぁ、良いだろう。

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