第87話 幻の街と死闘6
俺達は当初俺、カラタさん、パイプの三人でカナタ達の元へ向かう気だったが、サキちゃん、スイちゃんも増え、合計五人でカナタ達の元へ来た。
カラタさんを連れてくるだけのつもりが、パイプぶっ飛び事件やらサキちゃんが着いてくる事件などがあり、少し遅れてしまった為、待たせてしまった。
その為、小走りで来たんだが、
「良いじゃんかよ。俺達と遊ぼうぜ?」
思った通りの展開が起きていた。
兵士の方は城門に居るのだが、面倒くさいと考えているのだろう。見て見ぬふりだ。
何の為の兵士だよ……。
「あの人達、あなたの仲間じゃない?」
「そうだな」
「大変! あの人達は地味に強いから助けないと」
なるほど。地味に強いと取り押さえるのも大変だから兵士も面倒だと考えたのだろう。
その気持ちは分からないでもない。だが、それでもあいつらは俺の仲間だ。助けない理由にはならない。
それにルルも居る。そう簡単に連れて行かれはしないだろう。
「はぁ……反重力の奇跡。アンチグラビティ」
魔法を唱えてからみんなの元へ歩いていく。
「みんな、待たせたな」
俺が声をかけると全員の視線がこちらへ向く。
カナタ達は安堵。そして男達からは妬みと怒りの感情が込められた視線を向けられ、少し居心地が悪い。
すると男の一人が前に出た。
「おいおい。後から出てきてそれはねぇんじゃねぇの? ん〜?」
俺にぐいっと顔を寄せ、威圧してくる男。
昔ならば俺はこれだけで萎縮してしまっていただろう。だが、今の俺は違う。そんな脅しは通用しない。
戦うのは嫌いだが、武力行使してくると言うならそれ相応の対応をさせて頂くだけだ。
「それが? そいつらは俺の仲間なんでね」
「あ? お前みたいな冴えない男の? この子達も可哀想だなぁ〜?」
俺が冴えない男と罵られた瞬間、カナタ達は一斉にムッとした不機嫌な表情に変わった。
俺は別に罵られたっていいんだが、俺が罵られたことに腹を立ててくれたのか?
「仲間は仲間です。どうぞお引取りを」
「っち、話が通じねぇ野郎だ。こうなったら力の差を分からせてやる」
そう言って俺の目の前に居る男は俺目掛けて拳を振り下ろしてくる。
話が通じねぇ野郎はお前だと言うツッコミは置いておいて、なんて遅い拳だ。目でハッキリと視認出来てゆっくりと動くだけで回避出来てしまうような拳。
ハッキリ言って今の俺からしたら欠伸が出そうだった。
だが俺はその拳をハッキリと目で追いながら振り下ろされるのを待つ。
「ヒロ!」「ヒロさん!」「ヒロト!」
向こうにいる三人は心配そうな声を上げるが今の俺には絶対的自信があったからだ。
そしてそのまま待ってると俺に拳が触れた瞬間、男がものすごい勢いで背後に吹っ飛んで行った。
「お前、何をした」
「あ? なんかしたのはお前だろうが」
俺は今、何もしなかった。そう、『今』は。
俺の体にはアンチグラビティがまとわりついている。
あまりにも俺より強すぎる相手には無効だが、こいつらくらいの強さだとバリバリ効くのだ。
名付けてグラビティアーマーだ。
「くそ! こいつぅ!」
男は完全に頭に血が登り、俺に連続攻撃を仕掛けるが幾ら攻撃しても跳ね返されるだけと言うことを覚えたらどうだ単細胞。
あまりにも退屈だったのでブーストを動力源にしたパンチを腹に繰り出す。
すると、
「ぐわぁぁぁっ!」
あまりにもオーバーな動きで飛んで行った。
俺、パイプにする時よりも力加えてないんだが?
パイプにやったらせいぜい鎧にヒビが入る程度の威力であのダメージ。なってないな。
「はぁ、弱すぎる」
弱すぎてヒーローブラッドが騒ぐことも無かった。ただただ退屈だっただけだ。
「それで、あんたらはやんのか?」
「ちっ! お頭をやったからって俺らをナメるな」
「こっちは三人! お前は一人だ!」
そう言いながら俺を取り囲む男達だったが、
「三対一と言ったか?」
「ならこれで三対三っすね」
指をポキポキと鳴らしながら歩いてくる精鋭部隊の一人と上半身裸のマッチョ。
威圧感は完璧だ。
その後ろには可愛い女の子が二人も居るが、俺らを見てそれどころじゃなくなったのだろう。
「あーっと? まぁ、君達の言い分もわかる。みんなレベル高いもんなぁ。だけどこれ以上続けるならこっちもそれ相応の対応をさせて頂く」
そして俺も二人に便乗し、男達を睨み付けながら指をポキポキと鳴らす。
するとどんどんと男達が恐怖に染っていくのがわかる。これがなかなかどうして面白い。日頃のストレスが解消されていくのがわかる。
申し訳ないがもう暫く俺のストレス発散に付き合って貰うか。
「あ? お前ら俺をぶっ飛ばすんじゃなかったのか? 今更怖気付いたか?」
自分でもわかってる。あまりにも低レベルの挑発だと。
だが、男達はこんな挑発でもしっかりノってくれたようで、怒りを露にしている。
「そんなに死にてーならそう言ってくれよな!」
男は俺に拳を叩きつけようとしてくる。
少しいたぶりたかった俺は少しアンチグラビティの出力を調整する。
そしてその状態で男の拳は俺に叩きつけられた。
なのでさっきの奴と同じように飛ばされると思いきや、
「ぶべらっ」
次の瞬間には俺を殴ってきた男は自分の顔面を殴りつけていた。
これは俺の仕業だ。アンチグラビティの出力を調整し、拳だけが跳ね返るように調整したのだ。
だが、俺は自分でやったにも関わらず知らんぷりをして嘲るように笑う。
「あっれ〜? 自分の顔面を全力で殴ってどうしたの〜? あ、もしかしてそういう癖が? いや、こんな公衆の面前で自分の癖を晒されてもこっちとしては困るんだが?」
煽りに煽りを重ねて煽りまくる。今のこの状況を見たら十人中十人が俺の方が悪人だと答えるだろう。
「ヒロト君、君って結構悪趣味だね」
「相手が悪いですが、こればっかりは同情するっす」
二人も同情してしまう程の俺の行動。
だが、これはこいつが悪い。何せ俺の仲間に手を出そうとしたからな。
そしてこいつらの見極める力があって逃げたら逃げたで良いかと思っていたが、どうやら俺の力を見誤ったようだ。
確かに俺はひょろひょろで弱そうだけどこれくらいのことは朝飯前だ。
ちなみにこういう悪趣味な事を考えつくのは俺の悪趣味思考のせいだと思う。
昔からこういう事は一瞬で思いつく。
「くっそー! こうなったら二人でかかるぞ!」
一人は自分で顔面を殴ってしまった事で気絶してしまった。その為、あと二人になったので俺に狙いを定めて俺だけでも倒しに来たのだろう。
こいつらの実力は分かった。その上で断言する。こいつらでは俺のアンチグラビティを突破できないと。
「こいつ!」
「俺達が甘かった。実力を見誤った」
「今更後悔しても後の祭りだ」
それで後の二人をブーストの脚力で蹴っ飛ばして意識を飛ばせば俺の勝ちだ。
「はい。しゅーりょっと」
「お疲れ様です! これお水です!」
ユユがキラキラした目をしながら俺に駆け寄ってきて水を渡してきた。
何故あんなゲス行動をしていた俺を敬うのかは知らないけど好意は頂いておくことにした。
さて、気を取り直して出発しますか。
「頭が痛くなって来たよぉ……」
「さっきーっ! 大丈夫!? 死なないでぇ〜っ!」
「頭痛くらいじゃ死なないよぉ」