第80話 ハルトへ繋がる情報8
いつの間に俺らは背後を取られていたんだ。全くの気配を感じなかった。
慌てて振り返るとそこには青い線が所々に書かれている白衣っぽい服を着て黒を基調とした凶悪な目をしていてニヤニヤと笑った仮面を被った男がそこには居た。
顔は見えないが、黒髪ですらっとした体系。
手には三角フラスコらしき物を持っていてその中には謎の青い液体が入っていた。
とにかく色々と怪しい男だ。
「お前は誰だ」
「ん〜?」
「お前は誰だと言っている」
「連れないねぇ〜」
男は妙に間延びした口調で受け答えをしてくる。
マイペースで一見隙だらけの見てくれ。だが油断出来ないのは男の素顔が見えない事だ。
何を考えているかわからないあの仮面。何を考えているか分からないことほど恐ろしいものは無い。
「まぁ、君の質問には答えてあげるよ〜? 僕のネイムはね、オーライ・スーザラン。どうだぁい? いいネイムだろぉ〜?」
妙に間延びした口調のせいだろうか。どんどんペースが崩されるような気がする。
しかも名前の独特な言い方。名前でもなくネームでもなくネイムって……。
それにオーライって名前、どこかで聞いたような気が……。
「さ〜てさてさて、僕は答えたんだから君達も名乗ってはくれないかぁ〜? ん〜?」
得体の知れない人物。そんな奴に名を教えるのははばかられる。
俺が警戒を解かずにじっと睨みつけているとオーライは「アーッハッハ」と大笑いし始めた。
どうしたのだろうと思っているとユユが冷や汗をかいて膝をついた。それに続いてカナタも膝をついた。ルルは冷や汗こそかいているものの膝をプルプルと震わせながら必死に立っているのが見えた。
「……これはどういう事だ」
この状況、十中八九こいつの仕業だろう。
「くくく、初めてだ。初めてだよ君のような人はぁ〜っ!」
肩を抱いてくねくねと気持ち悪い動きをするオーライ。
その奇行に驚いているとオーライはまた大きく笑い始めた。
「初めてだ。初めてだ。初めてだよ〜?」
何度も何度も『初めて』と繰り返すオーライ。
「何がだ」
「まぁさか僕の『威圧』を食らってビクともしない人間がこの世に居たとはぁっ! これはもう運命ってやつだねぇ」
威圧!? そうかカナタ達は威圧を食らったから膝を着いたんだ。立っていられなかったんだ。
そう言えばカラタさんは威圧は精神力によってかかり具合が変わるって言ってたな。
ルルはドラゴンだから人間より多少精神力は強いのか。
そして俺の精神力は化け物らしい。カラタさんのお墨付きだ。だから俺には一切通用しなかったんだろう。
「ヒロト。こいつやばい、ドラゴンである私がまさかこんなやつの威圧に屈するとは」
遂にはルルも膝をついてしまった。
残り動けるのは俺ただ一人。
まさかこんな簡単に全滅するなんて思っても見なかった。
「たぁしかに君は精神力だけは化け物だけどそれ以下は雑魚、ゴミ以下の何かだ。利用価値もない」
急にその威圧は殺気に変わり、俺を襲ってきた。
簡単に意識を刈り取られそうな殺気に耐えていると直ぐにカナタとユユは意識を刈り取られたのかその場に倒れ込んでしまった。
ルルは何とか耐えているものの、体制を保つのが精一杯と言った様子だ。
「やれハルト」
ハル……ト?
ぼんやりとした意識の中、その言葉だけは聞き逃さなかった。
「悪く思わないでくれヒロト君」
「ハル……ト。お前を必ず助けて……」
一瞬だけこちらに向かってくるオーライとは違うもう一人の人影が止まったように見えた。
意識がハッキリしないせいかその表情までは読み取れない。だが何となく俺は分かった。
あれは救いを求めている顔だ。
「……もう俺には関わらないでくれ」
その声が聞こえた瞬間、俺の胸に異物が入ってくるような感覚が走った。
ぼんやりと胸を見てみると俺の胸にはサバイバルナイフがきっちりと根元まで刺さっていた。
口の中が鉄の味になっていく。
それを認識し、どんどんと意識が薄れていく。
「これはプレゼントだ」
その言葉を聞いたのを最後に俺の意識は完全に深い闇へと落ちて行った。
☆☆☆☆☆
「ここはどこだ」
目を覚ますとそこは一面が青空背景で、陸なんか全く無い世界で、そこにぽつんと俺一人だけが立っていた。
寂しい。
だが何故か落ち着く。そんな不思議な世界。
まるで俺の心の中を表しているそんな感覚だ。
カナタもユユもルルも誰一人として居ないのにこれが元々からの自然な光景のように何故かすんなりと今のこの状況を受け入れられてしまう。
「もういっそこのままでいいか」
俺は目を閉じる。
すると下から手が伸び、引っ張られるようなそんな感じがした。
だがその感覚は不快感は無く、寧ろ安心する。俺の居場所はここなんだと思えてくる。
「カナタ、ありがとうな随分と迷惑をかけた。ユユ、あんなに好いてくれていたのに邪険にして済まなかった。ルル、俺はお前の事は本当に仲間だと思っている。みんな、ありがとう」
そのまま身を流れに任せて大人しく引っ張られる。
――こっちへ来い。
だがふとカナタ達の事が頭を過ぎった。
この世界に来てからの事を思い出す。カナタに召喚され、ドタバタとした戦い。ユユを助け好かれ、ウエランさんの事件。
とても色々なことがあった。
考えていると頬を涙が伝った。
涙? もしかして俺はあの世界に、あの場所に未練があるって言うのか?
それを認識するとみんなのもとへ帰りたくなってきた。
「嫌だ。俺はまだあの世界に!」
俺は抵抗した。
すると俺の足を掴んでいた手が蒸散し、俺の意識がどんどんと薄れ始めた。
また、あの世界に……
そして俺の意識は再び深い闇へと落ちて行った。
☆☆☆☆☆
ろ。
ろさん……。
ロト。
うっすらと声が聞こえてくる。
その声を聞くと安心して穏やかな気持ちになっていく。
「わぁっ! 穏やかになっちゃダメ! 起きて! 起きてってば!」
「痛い痛い痛い!」
突如として両頬に交互に痛みが走り、飛び起きる。
そして痛みの元凶を探すように辺りを見回してみると、心底焦った様子のカナタが往復ビンタの構えで俺の真横にいた。
「はぁ……よかった。起きた」
飛び起きた俺を見てカナタは安堵の表情を浮かべる。
「ヒロさーん!」
「ヒロト!」
今度は同時に俺を呼ぶ声が聞こえたと思ったら背後から思いっきり衝撃が走った。
そして背後から二人の人物に抱きつかれる。
だが何となく誰なのかは予想がつく。
「はぁ……ユユ、ルル。起き抜けにこの衝撃はかなり来るものがあるぞ」
何とか耐えたものの、一瞬また意識を投げ出しそうになった。
だがどうやら物凄く心配してくれたようで嬉しくなってくる。
二人を背中から下ろし、立ち上がりながら辺りを確認してみると俺はブルーシートの上に寝かされていたようだ。
魔物もとっくに居なくなっていて、俺の寝ていたブルーシートの真横にもう一枚ブルーシートを敷いてそこにパイプが寝かされていた。
だが流石パイプ。外傷と言えば浅い切り傷擦り傷程度だ。あまり大きな怪我はしていない様に見受ける。
そう言えば俺は誰かに胸を刺された様な気がするんだが……。
思い出して自分の体へ視線を落とす。
すると上半身は裸になっており、胸に包帯がグルグルと巻かれていた。
そう言えば俺以外に回復出来る人がここには居なかったから包帯で応急処置をするしか無かったのか。
「俺の服は?」
聞くとカナタは苦笑いを浮かべる。
「えっとですね。実は私達が目を覚ますとヒロとパイプさんがかなりダメージを負ったご様子で介抱しようとしたんですが、パイプさんはまだ出血が少なかったので大丈夫でしたが、ヒロは出血が酷くて服がこんなに……。ですが傷口を見てみるとあんまり深くなくて安心しました」
カナタは脇に置いてあった俺の服を持ち上げ、広げてみせてくる。
するとその服の胸の辺りは俺の血で真っ赤に染っていて明らかにもう着れる代物ではなくなっていた。
結構気に入っていた服なだけに少しショックだ。
更に言うとあの服は俺の一張羅だ。選択する時に着替える薄い服は一応持っているが外に着ていける様な服ではない。
「はぁ……まぁいいか、今度服を買いに行くか」
少しショックを受けたものの、気を取り直してカナタから服を受け取ると一枚の紙が落ちた。
いくつも資料を拾ったが、上着のポケットに入れた記憶は無いんだが……。
「これはなんだ?」
拾い上げて紙を広げて読んでみる。
そこにはこう書いていた。
『強制スキル発現薬』
その文字を見た瞬間、俺の体に鳥肌が立った。
なぜ、いつこの資料が服に紛れ込んだ。
だがなんにせよ、
「見つけた」
「「「え!?」」」
俺が小さく呟いた瞬間、みんなが詰め寄ってきた。
そして一斉に俺の持っている資料を覗き込むが、当然ながら日本語で書かれている為、俺以外が読めるはずもなくみんなは首を傾げていた。
「これには強制スキル発現薬と書かれている。これで目的は達成だ」
みんなは読めないためポカンとしているが状況を飲み込むとみんなでハイタッチして喜び始めた。
ハルト。待ってろよ、今助けるからな。
「う、うーん……なんの騒ぎだ?」
そこでパイプも目が覚めたようだ。
事情を説明するといつものテンションに戻り、混ざって喜び始めた。
こっちは何とかやりましたよカラタさん。
☆☆☆☆☆
薄暗い廊下、そこで背の高い男と裕斗と同じくらいの背丈の男が並んで歩いていた。
「ハルト。お前、あいつをどうする気なんだい?」
「俺は師の命令に従っただけです。他意はありません」
ハルトは胸に手を当て、深々と頭を下げる。
背の高い男は少しハルトの事を不審に思ったものの、あまり深くは追求しない事にした。
「そう言えばお前に渡すものがある」
背の高い男はそう言って手のひらサイズのケースを取り出し、ハルトに手渡した。
そのケースを見てハルトは息を呑む。冷や汗をかき、ケースを受け取った手が震え出す。
なぜかと言うと、ハルトはそのケースに恐怖心を抱いているからだ。
(怖い。嫌だ。触りたくない)
だが避けると師に何をされるかわからない。だからハルトはそのケースから逃げる事は出来ないのだ。
「安心しろ。その『薬』が完成さえすれば妹さんは解放してやる」
「……本当ですよね」
「あぁ〜本当だよぉ〜?」
そのケースを開けて見てみるとその中には錠剤がいくつも入っていた。
「『強制スキル発現薬mark2』だ」
ハルトは『強制スキル発現薬』と言う言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ顔を顰めてみせた。
しかし直ぐに表情を元に戻し、
「分かりました。試します」
ハルトはそう言い、ケースを持って自室に戻る。
「オーライさん。本当にあの妹さんを解放してあげるんですか?」
陰から一人の男がオーライの前に現れる。
「そんな訳ないだろう。あの男はとても利用価値の高い男だ。逃すわけが無い」
「ですよね。あんな珍しい『魔眼』なんて言う強力なスキル。逃すには惜しいですもんね」
薄暗い廊下にて二人の男は邪悪な笑いを浮かべ、笑いあった。
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