第8話 面倒な事はお断りします
シュウが最悪な事を言い出してきた。
決闘の申し込み。
俺は戦ったことも無いしこんな体力だ。更には俺の平和を脅かす存在の決闘なんかに関わりたくない。
つまり答えは
「お断りします」
俺は当たり前の様にそう言い放った。
しかし俺のその言葉はシュウとカラタにとっては予想外だったようだ。カナタに関してはもう諦めたかのような表情で俺達のやり取りを見守っている。
「決闘を……断るだと?」
カナタはもうとっくに知ってるだろうが、俺はそういう人間だ。
平和を望み、楽な範囲での新しい事を欲し、極力厄介事は断る。それが俺、咲ヶ谷裕斗のポリシーって奴だ。
そして手を振って道場から出ようとすると
「逃げるのか?」
はい。面倒臭い煽りきました!
正直、お約束パターンだから分かっていた。だから、俺はそんな安っぽい挑発には一切乗らない。
「勇者ともあろう方が。負けるのが怖くて逃げるのか?」
俺に言わせてみれば、勝手に言ってろって感じだ。別にそんな挑発にわざと乗ってやる必要は無いから無視するに限る。
「俺を挑発に乗らせるなんて十年早いんだよ」
そう言って道場から出ようとすると後ろからダダダと言う走る音が聞こえた。
振り向いてみるとそこには「俺と戦え!」と言いながら剣を構えて走ってくるシュウが。
というか、今決闘中じゃないからそれ当たったら本当に死ぬやつだ!
しかし、俺には防ぐ武器もなければ躱せる程の運動神経も持ち合わせていない。
「まず!」
カラタの方から聞こえてきた。
しかし、先に動きだしていたシュウに追いつける訳がなく、俺の目の前に来て剣を振り下ろそうとするシュウ。
──その瞬間の出来事だった。
シュウの体がいきなり横に吹っ飛んで行ったのだ。
そして吹っ飛んで行った所の反対側にいたのはカナタだった。
カナタの手には魔法陣が出ていて、今まさに魔法を使ったようだった。
そして恐らくだが、この状況を見て俺を助けたのはカナタだろう。
そして「ありがとう」と俺が言うとカナタは「当たり前のことをしただけ」とクールに答えた。
この時、初めてカナタがカッコイイと思った。
「何考えてるの。決闘中じゃないのに人に攻撃しかけるなんて条例違反ですよ」
とカナタは咎めるように続ける。
「この街にはデュエル中以外での人間同士での戦いは禁止と言う条例があることをお忘れですか!」
条例ってのは日本で言う法律みたいな物らしい。
確かにそれを禁止しないと人を殺し放題だもんな。
「ですがこの男が!」
言い訳をしようとしたシュウ。
しかしカナタは「ですがではありません!」と言ってシュウの言葉を跳ね除けた。
「これは私達、戦う者たちの絶対に守らなければいけない掟でもあります。それを犯すなんてあなたは剣士失格です!」
カナタがシュウに言い放つとシュウはガックリと膝をつけて倒れ込んだ。
「行きますよ」
そう言って踵を返すと俺の肘を引っ張って出ていこうとするもんだから、一瞬体制を崩しそうになるが、何とか体制を立て直してついて行く。
まぁ、今のはあいつが悪いとはいえ、少し同情する。
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そして道場から出て結局休憩はせず憩いの場近くの店を見て回っていると急に声をかけられた。
「君!」
俺が声のした方を見るとそこにはちょび髭を生やしたスーツみたいな見た目の服を着た男性が居た。
なんだろうかと思って立ち止まると、男性は物凄い勢いでこっちに走ってきた。
「君! こ、この手首に着いているものはなんじゃ!」
物凄く面倒だ。
手っ取り早く追っ払っちゃいたい。
「この手首に着いているのは腕時計と言って時間が分かるものです」
俺は出かける時は時計を必ず持ち歩いている。時間が分からないと何かと不便だからだ。
しかし、腕時計に興味を持つなんてな……と思いながら腕時計を外して見せる。
「おぉー! これが『うでどけい』凄い! こんな小さなもので時間を確かめることが出来るなんて!」
と感嘆の声を上げる男性。身を乗り出してきて鼻息を荒らげているから若干の恐怖すら感じる。
「ところであなたは?」
俺が最もしたかった質問をカナタが代理でしてくれた。
すると男性はネクタイを直して帽子を直してから自己紹介を始めた。
「私はコーズ・メサイシスと言うものです。昔から機械とか見たことが無いものに目が無くてですね。ついつい熱く語ってしまう癖があるんですよ」
と言った後にコーズと名乗った男性は照れくさそうに頬を掻く。
「ところであなたのお名前もお聞きして宜しいかな?」
と今度はコーズさんがこっちの名前を聞いてきた。
まぁ、名乗ってもらったしここは名乗るのが礼儀ってもんだよな。俺にだって礼儀くらいある。
「俺の名前は咲ヶ谷裕斗。とりあえず面倒事は御免だ」
カナタの事なら多分知っているだろうから大丈夫だろう。
「そうか。咲ヶ谷殿! どうかそれを譲ってはくれないか! 金は弾ませてもらうよ!」
金……か。確かに俺は今、一文無しで何も買えない。それで何度も申し訳ないような気持ちになったしな。こいつを売る事でこっちの世界の金が手に入るなら願ってもないきかいだ。
「では、お願いします」とコーズさんに手渡すと目をキラキラと輝かせだした。
思わず小さい子供を連想してしまった。
カナタの方を見ると退屈そうに壁に寄りかかりながら長い髪を弄って遊んでいた。あれを見ると待たせてると実感して、少し申し訳なくなる。
「では着いてきてくれたまえ」
と言ってコーズさんは近くに停めてあった馬車の操縦席に乗る。
そして着いてこいと言われたので着いていくのだが、ここで忘れては行けない人物が一人いる。
「カナタ! ちょっとさっきのコーズとか言う男性に着いていくことになったから行くぞ!」
そう呼びかけると怠そうにこっちに来て馬車に乗り込んだ。
真横に来て小声で「私関係ないじゃないですか」と言われた時はその通り過ぎて頭が上がらなかった。
なんか、今は俺とカナタの性格が入れ替わってるような気がする。