第62話 剣魔法王者決定戦
バァンバァン
花火が打ち上がり、おおっ! という完成が辺りを包み込む。
今日は剣魔法王者決定戦の当日。俺達は会場に来ていた。
「楽しみです! 実は私、見るのが初めてで」
「そうなの? じゃあ一緒に見て研究しようね」
「はい!」
観客席、そこにカナタとユユが居た。しかしそこに俺の姿は無かった。
何故か? それは──
「おい、なんでこんなひょろひょろのが混じってんだ、アァ?」
「おいおい、可哀想じゃないか。子供相手にムキになることもあるまい。可哀想だけど現実を教えてあげるのが僕らの役目だよ」
俺はこの厳つい男たち、この剣魔法王者決定戦に出場する彼らに混ざっていた。
そして俺は現実逃避に首を振る。
しかし何度見ても変わらない景色に俺は頭を抱えてしまった。
「……どうしてこんなことに」
きっかけは些細なことだった。
ある日散歩しているとカラタさんにばったりと会った。
普通に挨拶するだけのつもりがなんとすれ違いざまに手刀で気絶させられてしまったのだ。
次に目が覚めると全身ぐるぐる巻きにされて拷問室に入れられていた。
そしてそんな俺にカラタさんは不敵な笑みを浮かべながら選択肢を提示してきた。
「さて、これからお前に選択肢をやる。剣魔法王者決定戦に出るか、ここで死ぬかだ」
どうしてそこまで俺を剣魔法王者決定戦に出させたかったのかは知らないけどその場は頷くことしか出来なかった。
そんなことがあり、今に至る。
本当に俺はついていない。
そして俺の体格はと言うとごついはずが無く、周りから見たらひょろひょろだ。
中には女性もいたが女性は強い人も多いため、華奢でもあまりバカにはされない。
だが、男は体格が全てと言う兆候がある。そのため俺はさっきからくすくすと笑われている。
はぁ……早く負けてカナタたちの元へ帰りたい。晒し者なんて嫌なんだが?
カラタさんを恨む。
そんな感じで肩を落としているとアナウンスが聞こえてきた。
『みんなー! 盛り上がってる〜?』
控え室の外から騒がしい声が聞こえてくる。俺とはテンションが180度違う。
『さて、今年もやってきたよ! この時期が!』
俺は来て欲しくなかったけどな。
『夏季剣魔法王者決定戦!』
夏季? という事は冬季もあるのか? 俺はもう今回だけでお腹いっぱいだ。早く返してくれ。ずっと笑われてるのは居心地が最悪なんだ。
『ここでルール説明! この大会はトーナメント形式で行われます! 一回戦、二回戦、三回戦と勝ち進み、見事優勝した方には優勝賞金、白金貨百枚を贈呈します!』
白金貨を……百枚だと?
白金貨はこの世界の貨幣価値では最高位。それを百枚だと?
最近は結構金を使っているからここで稼げるとでかい。やる気が満ちてくる。
仕方が無い。ここはカナタとユユに貢献するためにも真面目に取り組むか。
金を稼ぐのは男の仕事だからな。
『試合に使える武器は剣、杖のみです! まぁ、"剣魔法"王者決定戦だからね。それ以外は無しで』
ちょうどいい、俺の武器は剣だ。充分戦える。
『勝利条件は相手を気絶させるか武舞台から落とすことです。ただし対戦相手を殺してしまった場合は反則負け&牢獄行きだから気をつけてね?』
アナウンスの人は明るい声でそんな怖いことを言ってくる。
多分俺はこのメンバーの中で力が一番弱いだろう。だから突き落とすのは絶望的と言っても過言ではない。
突き落とすよりも気絶を狙っていくか。
それからもルール説明は一分くらい続いた。
まぁ、魔法ありの戦いで決闘とほぼ同じ戦いってのは分かったのでながったらしかったがそんなに深く聞かなくても大丈夫だろう。
『それではここら辺で一回戦第一試合へと参りましょう』
アナウンスの人がそう言った瞬間、高い位置にあるボードに一回戦の組み合わせが表示された。
「出ました! 第一試合はガーボン・クワイナ選手対サキガヤ・ヒロト選手です!」
ゲッ、第一試合目から俺かよ。
そんな感じで肩を落としていると先程俺をバカにしていた男の一人が高笑いを始めた。
「ぜははは。いきなりこのガキンチョかよ。俺の2回戦進出は確定したようなもんだな!」
ガーボンとやらがそう言うと「ズリぃぞ」や「力の差を見せつけてやれ」等と俺は完全にアウェーだ。
あの街では俺は勇者として知られ、気まぐれ勇者と言われているが、この大会はほかの街から来ている人も居るため、俺のようなひょろひょろがいると完全に迫害されるのだ。
場違いだってのは分かってる。ここにいる俺が悪いってのも分かる。だが俺は聖人じゃない。イラッとくる。
武舞台に上がると一気に歓声が……上がらなかった。ザワザワとしだした。
そして勝敗を決め込み、各々次の試合を見るまでの暇つぶしを始めてしまう。
くそ、イラッとするな。俺がひょろひょろだからって……。
確かに俺は弱い。だけどここまでナメられたら黙っていられない。
その時だった。
「頑張ってくださいヒロさん!」
「応援してますよ!」
カナタとユユの声。その声を聞き、俺は少し冷静になれた。
ダメだな、こんなことで熱くなりそうになるなんて。策士がこんな事だったら安心して背中を任せられないだろう。
『それでは第一試合始め!』
「一瞬で楽にしてやるぜ!」
ガーボンは大振りで大剣を振ってきた。
確かに俺はこの人よりも戦闘経験が浅いかもしれない。
だけどな、それだけが全てじゃないんだよ。
「人をナメていると痛い目に遭うぞ?」
そして俺はゴーのポーズをとる。
「あ? なんだその手は」
ニヤリと笑ってから俺は「ゴー」と唱えた。
その次の瞬間、俺はガーボンの背後に立っていた。
「っ!? どこに行きやがった!?」
ガーボンは俺のことを見失ったようだ。
「バトル中によそ見をするもんじゃないぞ?」
そう言って俺はガーボンの首に手刀を当てる。
すると案外あっさりとガーボンは気を失い、前方に倒れた。
会場がシーンと静まり返ってしまった。
アナウンスすらもあまりの事態に脳の回転が追いついていないようだ。
しかし追いついているものが約二名。
「さすがですヒロさん!」
「ヒロならこの空気を覆してくれると思ってました!」
その声を聞いた瞬間、アナウンスも気を取り戻したようでやっと声が聞こえてきた。
『え、えーっと審判が確認を行っております』
しばらくガーボンが気絶しているか、死んでいないかのチェックが入る。
『えー。今結果が届きました。結果によりますとこの第一試合、サキガヤ・ヒロト選手の勝利! 圧倒的でした!』
しかし未だに会場は唖然としており、反応出来ずにいる。
『予想外の結末でした! ヒロト選手は今大会のダークホースかも知れません』