第4話 アルケニア王国
「ここがアルケニアの街です」
そう言ってカナタは先にどんどん進んでいってしまうため、ちょっと街を見ていたら見失いそうだ。
ただでさえ小さい女の子だ。一度見失ってしまうと見つけ出すのは容易ではないだろう。
「ここが良いですかね?」
とそう言って店に入るカナタ。
店の前に看板が置いてあるんだが、俺は読めないからなんの店かは分からない。
中は石造りでカウンターしか置いていなかった。
そのカウンターの奥には扉があって奥に続いているようだ。
「あの〜! すみません!」
カウンターに着いたら大きな声で店員を呼ぶカナタ。
と言うか常時そこに居ないのかよ。それでいいのかよ。この店は!
すると直ぐに返事が聞こえてきて中から人が出てくる。
「おっすカナタの嬢ちゃん。今日は何用だ?」
中からは屈強そうな男の人がハンマーを持ったまま出てきた。
やはり服装は日本じゃ考えられない。
まぁ、ボロTとボロズボンはまだいい。その頭に被っている角が生えたヘルメットはなんだよ。絶対扉を通る時邪魔になるだろ。
「今日はこの人の武器を作ってもらおうと思って」
なるほど。今の会話から察するにここは鍛冶屋なのか。言葉だけでも通じて良かったと思うよ。言葉も通じない状態で異世界転生して魔王倒せだ? 無理ゲーすぎる。
まぁ俺はそんな事はしないんだけどな。
俺は常日頃から新しい物を求めているものの、楽な範囲内でと言う設定付きだ。
だから魔王討伐なんて大変そうなことには絶対に関わりたくない。
「この兄ちゃんは誰だ?」
やっと俺に気がついたらしい鍛冶屋のおっちゃんは俺とカナタを交互に見てから小指を立てた。
「もしかしてカナタちゃんのこれか?」
もしかしなくてもこの合図は──
「そんなんじゃありません! なんでこんなのと!」
「いや、だからこんなの扱いは酷くね? ねぇ!?」
またこんなの扱いされたよ……。
確かに俺が腐っているのが悪いんだけど、せめて人間扱いして欲しいな。なんでこの子は俺を直ぐに人間じゃないと見なすんだよ!
「それでこっちの兄ちゃんはなんて言うんだ?」
「そう言えば聞いていませんでした」
そうだったな。一方的に名前を聞いて俺は教えてなかった。
「俺は咲ヶ谷裕斗だ」
そう名乗るとカナタは首を傾げた。
「サキガヤ……変な名前ですね」
そうか。さっきもカナタの本名は外国人みたいに横文字だったもんな。俺たちのような名前とは違うんだろう。
「違う。ファミリーネームが咲ヶ谷でファーストネームが裕斗だ」
そう言うと驚いた様な表情になるカナタと鍛冶屋のおっちゃん。カナタの感情は直ぐに顔に現れるな。素直なのはいいと思うよ。俺みたいにひねくれた性格でいい事なんて何も無いからな。
「珍しいですね。逆の人は初めて見ました」
俺も外国人と会うことがないので俺も初めて見ました。
「んじゃよろしくなヒロ」
ヒロ!? いきなりフレンドリー過ぎない? いきなりあだ名を付けてきましたよ。
「俺は鍛冶屋のバンフー・ライゴンだ」
名前までいかついとは流石です。そして握手を求めてきたから若干の面倒くささを感じながらも手を差し出すと上下に思いっきり振り回してきた。
痛い痛い! 肩が外れる!
「んじゃお好みの武器を選んでもらおうか」
そう言って料亭で言うメニューみたいな冊子を取り出してきて俺の前に置く。
中には剣や刀、斧などの絵が乗っていて、他はいつも通りのなんて書いてあるか分からない文字が書いてあった。
でも絵のおかげでなんとなく分かる。
「それじゃ剣で」
俺はそう言った。
とりあえずここは買っておかないと後々面倒な事になりそうだから買っておく。
魔物に追われた場合、ずっと走り続けるのは嫌だからな。とりあえず武器は持っておいて損は無いだろう。
「おう! それじゃ、一週間後にまた来てくれ。カナタちゃんに免じて上等なものを作り上げてみせるぜ」
そう言って腕を回しながら奥の方へ戻っていく。
「これでここでやることは終わりました」
そう言って外に出て行くカナタ。それに続いて俺も出て行った。